3-03 起死回生? 暴走?
3-03 起死回生? 暴走?
「ガキがつけてきやがったか…こいつもそこそこやるからまあそれなりに実力のあるガキなんだろうが…ここまでだな」
男がにやりといやらしく笑った。
何とも申しわけない話だ。
メイヤ様に助けてもらって、復活して、そのあげくがこのざまではかなり合わせる顔がない。
剣は喉を貫き、頸椎を破壊して後ろに突き抜けている。完全に致命傷だ。
何とかこの危機だけでもみんなに知らせたい。
この男は少なくともシャイガさんと同格、いや、エルメアさんよりも強いかもしれない。他の盗賊もきっとそれなりにやるんだろう。
それに変だと思ったんだ。みんなどういうわけかぐっすり眠っている。
あの人たちなら俺に見張りを言いつけたとしても何分最初のことだ、陰からこっそり見ているぐらいのことはやりそうなのに、車の中の気配はよく眠っていた…
水場に盛られた薬というのを飲んでしまったのにそういない。
「へへっ、たあいもない」
男は串刺しにした俺の身体を剣ごと持ち上げプラプラ揺らしている。
力も強いんだな。
ちょっと痛いぞ…
…
……
………
あれ? 変じゃね?
体はもう動かない、まあ当然だ。頸椎が破壊されているから情報を送るなんてできるはずがない。心臓だって…もう止まっている。
なのに何でおれの意識はクリアなんだ?
!
俺の目の前に一瞬、にんまり笑ってVサインしているメイヤ様が見えたような気がした。
そうかそうか、そう言うことか、肉体が無くても思考ができるということはもし即死するようなダメージを受けても思考に支障がないということだ。
そして魔法は肉体ではなく意志、つまり俺の場合本体である魂による。
肉体が壊れても後で魔法で修復すれば死んだりしないということ、いや、そもそも魂だけで問題なく活動できるのであれば『死』って意味があるのか?
さて身体は…動かない、心臓が止まっているから動くための燃料もないわけだ。というか、そもそも脳からの信号も頸椎の破損で途絶しているから動かすことはできない。
だが魔法は健在。【アニメーション】を使えば身体だって動くだろうけど、もっと簡単に動く物がある。
そう左腕。
実は新型。
俺の左腕がするりと
「ヴッ」
触手の先にはデザインカッターを、あのやたら切れる二次元工具を発生させてあるから男の着ている皮鎧など何の役にも立たない。
胸のほぼ中央。肋骨の合わせ目の下、そこに何の抵抗もなく触手はもぐりこむ。心臓はここにあるのだ。
心臓に穴が開いた以上もちろん致命傷だけど、念のため触手を薄い板状に広げながら上下に展開。
男はそのまま、体の中から唐竹割りになりました。
さすがに剣で串刺しにして振り回していた死体が攻撃してくるとは思わなかったんだろうね。達人は相手の筋肉の動きや目の動きで敵の行動を知るそうだけど、死体の筋肉は動かんしね。
「ひっ」
「カシラ」
「なんだ」
男たちが口々に叫ぶ。
まあいきなり自分たちのお頭が縦に真っ二つになって転がったらそりゃ混乱するよね。
さてここからどうするか。まだ体の修復は終わってない。そもそも喉に剣が突き刺さったままだ。これではまともに動けない。
そして肉体の修復にどのぐらいの魔力が必要なのかわからないから無用な傷は作りたくない。
ここはこのまま死んだふりかな。
地面に転がる喉を突かれた子供の死体。
そして真っ二つになった男の死体。
男たちは周囲を見回して完全にパニックだ。どこから襲撃されたのかと岩に張り付いたり、地面に伏せたりして警戒しまくっている。
ここで【エレメンタルミスト】の魔法。周囲に薄く魔力が広がっていく。
火属性ならそこにあるものを徐々に加熱するし、水属性なら冷やす効果がある。エアコン代わりに使えると思うんだけど、展開する属性でずいぶん性質は変わると思う。今までの経緯から考えて俺と一番相性がいいのは『冥属性』になると思う。
なにも指定しないで展開すれば多分…
効果はすぐに表れた。
男たちは眩暈を覚えてふらつき始める。これって多分生命力を失い、ライフドレインのような状態になっているんだと思う。
「ううっ、何だこりゃ…」
「ぎぼぢわるい…」
「目が…」
『よし、こんなものか…』
俺は腕を操って剣を掴む。
完全に腕だ。
新作だ。
素材はエルフの町でもらって箱に入っていた流体金属、それを魔導器の異空間収納に収納して腕の素材として使っているのだ。この流体金属、魔法に実に良く反応するんだ。
この流体金属の制御はもともと【パーティクル】と【アニメーション】で行うようになっていた。つまりパーティクルで形を作り、アニメーションで動かすことでガトリング砲として機能するようになっていたということだ。
他にも砲弾を補給する魔法とか、照準を合わせる魔法とか、バレルを保護する魔法とか、力場で砲弾を押し出す魔法とか、いろいろな魔法が組み合わさって一つの【ガトリング砲】という兵器を構成していた。
何とかまねできないかと思ったんだけど俺の魔導器が一度に制御できる魔法は六つまで、残念ながら処理数が足りなくてできませんでした。
まあ改良するつもり満々だけどね。
それよりもありがたかったのはくっ付いていたマニピュレーター。
これは人間の手を模したもので、指は親指、人差し指。そして残りの三本をまとめた幅広の指で構成されていて、すごいのは親指の可動範囲が人間のそれに近いこと。そして手首の関節が複雑で自由に動くようになっていること。この二点だ。
この動きができる間接というのは何度か挑戦したけれど実用化できなかった。俺の知識では無理だったんだ。だが見本があれば何とかなる。ありがたや~。
しかし見た目がいかにも機械だ。
そこで腕のデザインをミシの町で会った冒険者の着けていた鎧を参考にデザインしなおした。そう、ギルダフさんの鎧だ。まあ外面だけだからできるっちゃできるのだ。
おかげて俺の義手は普通の人がガントレットを装備したような見た目になっている。
装飾も真似してかっこいいのも実は自慢だったりする。
俺は触手から腕に戻したそれで喉に刺さっている剣を掴んで引き抜く。
ちょっと肉が張り付いてて大変だった。
そのあとで【
頸椎の破損のために元通り動けるようになるまで少し時間がかかったが問題ない。男たちはそれどころではなくなんとか助かろうとのたうち回っている。
いや、動き出した俺を見て愕然としている。
「て…てめえ…アンデットだったのか…」
「畜生、ライフドレインかなんかかよ…リッチクラスか…」
「しつ…あっあーっ。失礼なこと言ってるな…」
少し声がかすれていたけどすぐに良くなる。
しかしアンデット呼ばわりは不本意ではある。たぶん修復力が半端ないだけだ…どのぐらいかはかなり不安だが…
俺は右手に剣を持ち替えてブンッと振ってみる。
「ひー、くるなくるな」
「よるな化け物…」
すでに声は弱々しいがさらに失礼だな…場合によっては化け物呼ばわりは否定できないかもしれないが…
しかし俺は何をしているんだ?
俺はそのまま一人目の男に近づいてそのまま剣を突き立てた。
「ぐふっ」
あっ、悪臭が消えた。
臭いんだ本当に臭いんだ。今すぐどうにかしないと我慢できないぐらい臭い。
どうしてもこの悪臭を、そのもとを駆除したい。駆除せずにいられない。
「どふっ」
おしいな、剣を差すときザクッと音がするとなおよかった。
「げはっ」
それはなかった気がする。
最後の一人は…ああ、もう死んでら…
よかった。臭いのがなくなった…
なんか眠…
ああ、早く帰りたい、早くみんなの所に帰って寝よう、そうしよう…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます