1-10 これは教育じゃなくて洗脳だよね。
1-10 これは教育じゃなくて洗脳だよね。
「んんっ」
俺は毛布のような布団に、埋もれているような状態で目を覚ました。
エルメアさんに抱かれているうちに安心して眠ってしまったらしい。
中身は大人のつもりなんだが体はまだまだ子供だからか眠気には勝てなかった。ということにしておく。
「それにしても、ん~っ、いい気分だよ~」
思いっきり伸びをする。
異世界にきて果たしてどうなるのかと緊張を強いられてきたが、ナガン家の人たちのおかげで心に余裕を持てた。ありがたいです。
俺は布団に寝ころびしばし転がって、そして耳を澄ませる。外の様子をうかがうように。
すると外の音がいろいろ聞こえてくる。
そしてその光景が脳裏に浮かんでくる。
またあの視界だ。
馬車はまた川のほとりに止まっているみたいだ。
そこにテーブルが出されてエルメアさんとルトナが話し込んでいる。シャイガさんは焚火の管理。ロム君はのんきに草を食んでいる。
のどかな良い光景だ。
女性二人の前に置かれたのは何かの焼き菓子で、二人はお茶を飲みながら話をしている。
「ああ、なるほど魔力視か」
俺は今度こそそう結論付けた。光ではなく魔力で外界を知覚する能力。少し考えればわかったはずなのに今まで気が付かなかった。これは魂だけの時に世界を認識していた感じににいている。いや、そのものなんだろう。
目でなく魔力によって外界を認識する能力というか器官なんだろう。
とりあえず魔力視と呼ぶことにする。
しかし半覚半睡のこの微睡というやつは実に気持ちがいい。ふわふわした感じがいい。
だから俺は深く考えもせずに表で話すエルメアさんとルトナの会話を聞いてしまった。
◆・◆・◆
「いいこと、ルー、私たち女にとって一番重要なことはなんだかわかる?」
まず聞こえてきたのはエルメアさんの声だった。どうやら野営の準備が一段落して親子でお話ししているらしい。
ちなみに彼女はルトナのことを『ルー』と呼ぶ。シャイガさんは『ルティ』だ。
「えっと…強くなること?」
エルメアさんの言葉にルトナが少しだけ考えて答えた。獣人の在り様を考えると決して間違いではない気がする。彼ら脳筋だし。でもエルメアさんの反応は…
「ダメー、はずれー」
だった。
「い・い・こ・と。私たち女にとって一番重要なことは良い子を産むことです。自分の子孫を残すこと、それは生きとし生けるものの使命なのよ。そしてそのために一番必要なものが優秀な雄です。分かりますか?」
「はい!」
元気に手を上げるルトナが見えた。非常に良い返事だった。
「ですが良い雄がいればそれで済むというわけではありません、雄にだって好みはありますしね、良い雄なら他の女だって狙ってます。きっとたくさんの女が這い寄ってきます」
「ハーレムというやつですね母さん」
「そうです。ハーレムです。雄が自分の子孫を残そうと考えたとき、一番効率がいいのはできるだけたくさんの女に子供を産ませることです。沢山子供が生まれれば出来の良し悪しにかかわらず何人かは生き残れますからね。
では自分で子供を産まなくてはならない私たち女は? そう、私たち女が子孫を残そうと思えばできるだけ良い雄を捕まえ、できるだけ優秀な子供を産まなくてはなりません。数が少なくても優秀な子供なら生き残れる確率が上がります。だから優秀な雄には女が集まり結果、ハーレムを持ちます」
「おおーっ、そうだったんだ」
「お父さんは人族で私のことをとても好いてくれて私しか妻を持ちませんでしたが、勿論それはそれで嬉しいんですが、獣人の私としては大きなハーレムを持つ夫というのも自慢出来てうれしかったりします。みんなに自慢できますよ」
「おおー、かっこいいです」
「お父さんは優秀な人ですからね、他の雌も進めたりしたんですけどなかなか…」
シャイガは目をそらしてコホンと咳ばらいをした。
「あらあなた。私には不満はないですよ、あなたは優秀な雄でルトナも優秀ですから」
「そっ、そうかい、だったらよかった」
エルメアはグリンとルトナに向き直った。
「でもハーレムというのは優秀な雄のバロメーターではあります。かっこいいんです」
「はい、かっこいいです」
「そしてここに良い雄がいます」
エルメアはそう言うと俺が眠っている獣車を ズビシッ! と指さした。
そんなことありえないんだが目があった様な気がしてびくっとしたよ。
「女はできるだけ優秀な雄から種を貰わないといけませんし、できるだけ良い環境で子供を育てなくてはなりません。そして良い雄には女が
「はい」
料理が上手で床上手だと最強という話は聞いたことがあったが、ここで『戦闘力』が入ってくるのが実に獣人らしいと思う。
「しかし一番大事なのはチャンスです」
「ちゃんす」
「そう、いくらあなたが良い女であっても出会いがなければ意味がありません、ですがあなたはチャンスを得ました。これです」
エルメアさんはもう一度俺(の乗っている獣車)を指さした。
「あなたは十二才。ディアちゃんは十歳だそうです。このころから一緒にいられるというのはものすごいアドバンテージです。いつも一緒にいて、それが当たり前の状態に持っていくんです。そしてディアちゃんが成人するころにはすでに結婚二〇年のような感じに持っていきます。そのまま何となくくっついて、うまく交尾できたらもうあなたは勝ち組です。ディアちゃんはこの私が才能があると認めるほどの子。絶対に逃がしてはいけないですよ。絶対にあなたのお婿さんにしなさい。ほどほどの所で既成事実を作ってしまうんです。男はいつだって自分の子供を生んでくれる女が好きなんです。つまりやらせてくれる女が好きなんです。だからあなたも大人になったらしっかりとディアちゃんを咥え込んで離しちゃいけませんよ」
ちょっ、直截すぎる…
「エ…エルメア…そのくらいでいいんじゃないかな…まだルトナは十二才だし…」
シャイガさんが弱弱しく話に割り込んだ。勇者である。しかし…
「もう少し大きくなったらどうすれば男の人が喜ぶのかちゃんと教えてあげます。細かいところは修練ですけど、大まかなところは本能です。普段から自分に言い聞かせるんです。自分はいい女になる。ディアちゃんと結ばれる。さあ、後について繰り返すんです」
「えっと…私はいい女になる…ディアちゃんと結ばれる?」
「そう、ディアちゃんと子作りをする、ディアちゃんの子供をたくさん産む。ディアちゃんと気持ちいいこといっぱいする…ディア・・・・・・・・・・・・・・・」
「あうあう…私は…ディアちゃんと・・・・・・・」
「うわあっ、これは教育じゃなくて洗脳じゃないかな…エルメア…帰って来ておくれ~」
俺は真の恐怖を知った。
女怖い、と思ったのは生まれて初めてだった。
俺は食事の支度が終わりルトナが呼びに来るまで車の中でじっとしていた。
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