夢の話
ツリークリスタルの影響で人から枝分かれしたトゥース。
そんな僕等は戦闘種族だ。
僕の左腕の生体銃の様に生まれ持って体の一部が武器になっていると言うのもあるが、どうしようもなく強いモノに惹かれると言う性質を持って居る。
まぁ、当然、これには個人差がある。
いかにもトゥース、と言った感じに強者に惹かれ、弱者を嬲るのを良しとしない戦士の理想の様な奴も居れば、その気が薄い奴もいる。
僕は自分のことを薄い奴だと認識していた。
強い、とは思えてもそこで感情は止まり、先に行くことが無かった。
愛とか知らないクールガイと言う奴だ。多分違う。
兎も角。
僕がクールガイかどうかは兎も角として、僕は単純に本当に強いと思える相手に、否、異性に出会っていなかっただけだったらしい。
アイリ。
僕が欲しかった才能を持つ彼女。
僕は彼女に一目ぼれをしてしまったのだ。
そしてソレは間違いなく、僕の初恋だった。
これまで僕が恋だと思っていたのは単なる性欲の亜種でしかなかったと言う訳だ。
「……おめでとう。明日の朝、パンツが濡れてるかもしれんが、寝小便と言う訳ではないから安心しろよ」
僕の一世一代の告白を、実にどうでも良さそうにぼそぼその携帯食料を珈琲で流し込みながらミツヒデ。
場所はブリーフィングルーム前の休憩所。街の役所の脇に用意されたそこには湯を沸かす為のポッドと長椅子が用意されていた。
僕とミツヒデはそこで良く朝食をとっている。
「違う。そう言うリアクションは求めていないんだよ」
椅子に座ったまま、首を横にふりふりと僕。
……あとちゃんと精通はしてる。夢精もしない。
「そんじゃどういうリアクションをお望みで?」
「……僕が言いたいのは、初恋だからつい、テンパってしまっただけであり、僕は誰彼構わず告白する様な軽い男ではないと言うことだ」
「……それを俺に聞かされても、やっぱりどういうリアクション取ったらいいのかが分かんねぇよ、A」
「ミツヒデ。僕等は時間の都合が合う時はこうして食事を共にしている」
「そうだな。お陰でドナがお前の珈琲の好み覚えちまったな」
「僕は君を友人だと思っている」
「そうか。ありがとよ。……それで?」
「だから、こう、何か――僕がアイリに合う勇気が出る系の優しい言葉をくれないだろうか?」
「……」
「……」
「……大丈夫だ。そんなに気にするなよ」
にっこり笑顔を造ってハゲ筋肉ダルマ。
「――」
言葉が雑で、かるぅーぃ。
どってどってと短い足で跳ねる様に駆け寄ってくる様は速度が幾ら早くてもどこかコミカルだ。
一晩ぶりの再会を喜ぶ様に僕の足に手を掛けたアルは、コーギースマイルを浮かべながら、小刻みにジャンプをして喜びを全身で表していた。
跳ねる度に床に爪の当り高い音が響いている。
「……」
ここまで歓迎してくれると僕としても嬉しくなる。
服に毛が付くのを承知で抱き上げてやればテンションを上げたアルは、僕の髪の匂いを嗅ぎ、頬を舐め、それから隣に立つミツヒデに何やら得意げな視線を送っていた。
アル的にはだっこが嬉しいのだろうが、ミツヒデ的には何も羨ましくないだろうから、そのどや顔は無駄だ。
「驚いた。犬って随分と遠くから飼い主のことがわかるのね」
そしてアルが来たと言うことは彼女も居ると言うことだ。
「――」
声を聴いただけで、少し嬉しくなる自分に気が付く。
甲殻が顔にまで浸食して来たことを始めて感謝した。
表情筋を食い潰された僕の表情は読み難い。
それでもアルを抱え直し、後頭部を奔るコーギーラインに口を付ける様にして口元を隠した。
「ブーステッド種ですので、五感も強化されているんですよ。……昨晩は預かって頂き、ありがとうございます」
「こちらこそ、レンとレイ――弟達の面倒を見てくれて助かったわ」
「寂しがって夜泣きなどしませんでしたか?」
「……」
無言で携帯端末を見せられる。アルと一緒に覗き込む。
彼女のイメージに合った黒いシンプルなソレの画面には、双子に挟まれてへそ天で眠るアルの姿が映っていた。
コーギーの仔犬の腹回りには毛が生えていない。
なのでアルのぽこっ、とした柔らかそうな腹は丸見えだ。
ぼくだ! と嬉しそうに振り返る彼に期待するのは間違っているし、そもそもアルは遺伝子改造された犬、ウエルシュ・コーギー・ペンブローグ・ブーステッドだ。
それでも言いたい。
――野生ッ!
と。
果たしてこのアホ面をした四足歩行の毛むくじゃらは野生で生きていくことは出来るのだろうか?
そんなどうでも良いことを少しだけ考えてしまった。
まぁ、現実逃避だ。
初恋から二十四時間すら経過していない僕は恋愛初心者だ。
うっかりと告白をしてしまった翌日の対処方法など分かるはずもない。
悲しいことだ。
「アイリ、僕と組んでほしい」
分からないので思ったままを口にした。
ピュー、と横でミツヒデが口笛を吹く。
何でも無い風を装っていたアイリも昨日の僕の言葉を思い出したのか、半歩下がり、軽く髪を触る。
「昨日の言葉が気になっているのなら忘れてくれ」
いや、普通に忘れられるとショックではあるのだが。
「僕は君と組んで仕事がしたい」
「……なぜ?」
「君には狙撃手としての才能がある」
自覚はありますか? と僕。
「……あるわ」
と彼女。
「僕は狙撃手に成りたかった。だが僕には才能が無い。君には才能がある」
「――それで?」
「僕の夢を継いで欲しい」
「…………………………なぁにそれ?」
ぷく、と頬を膨らませるアイリ。
そうすると大人びた彼女の中に可愛らしさが滲む。
好きだ。
違う。間違えた。
「私、昨日の告白は少し嬉しかったのに……」
すこし拗ねた様にアイリ。
その様子が可愛いのでやっぱり言う。
「いや、恋愛的な意味でも好きだ」
ちゃんと好きです、と改めて僕。ぐ、っと気圧された様にアイリ。
「だが、君の狙撃手としての素質にも惚れている。大変勝手だが、僕の夢を――いや、僕と一緒に夢を見てはくれないだろうか?」
「っ! また、そう言うことを……」
「そう言うこととは?」
何だろうか?
「いえ、良いわ。……それより、私は傭兵じゃないわ。首の後ろを見たでしょ?」
「えぇ、はい。見まし――何故、君がそれを?」
「自分の身体に向けられる視線には気付くものなのよ」
「成程」
それも素晴らしい素質です、と僕。
「――女って」
「……成程」
続く言葉に固まる僕。
それはつまり、僕が鎖骨を時々見ているのもバレていると言うことなのだろうか? そんなことを思った。「だから、ね」と言ったアイリが襟元を正した。「……」。バレていたらしい。
まぁ、良い。気にするな。
「それで、どうでしょうか? 提示できる利益としては、僕なら確実に貴女を今以上に稼げるようにできます。それに背骨の手術費用も僕が出します」
「……そこまで私には才能があるの?」
「はい」
「モノズも一機も持って居ないのに?」
「契約可能数は?」
「十二」
「大丈夫です。一括で払えます」
「……何だか私、貢がせてるみたい」
ぽつり、と俯きながらアイリ。
それでも直ぐに彼女は顔を起こして僕を見る。
狙撃手の目。
僕の欲しかった目。憧れた目。それが向けられる。そして――
「私で良ければ貴方に夢を見せてあげるわ、A」
右手が差し出された。
あとがき
男女逆なのでは(。´・ω・)?
いつも感想とかありがとうございます。
励みになってます。
でも感想返しまた明日に回させて下さい。
投稿時間で察して下さい。
ごめんなさ――。
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