第11話 海賊退治④─清盛の戦い─
1
「な、何だよ」
太刀を片手に清盛は山王丸の方を見る。
「その鎧、貰い受けた!」
山王丸は太刀を上段に構え、清盛の脳天目がけて斬りかかった。
清盛は山王丸の一撃を防ぐ。
刃と刃が交わったとき、火花が散るのと同時に両手に強い痺れを感じた。
「なんだこいつ。雑魚どもとは違って力が強い」
清盛は必死で山王丸の一撃を受け止めようとする。
だが、山王丸は持ち前の腕力で押し続け、清盛の体勢を崩して海へと蹴飛ばした。
数メートルほど吹き飛び、海水で濡れる清盛。
「さあて、お前の被っている立派な鎧兜、俺にくれよ」
暗闇の中で、歯茎と異様なまでにに白い歯をむき出しにした不気味な笑みを浮かべながら、山王丸は斬りかかる。
清盛は腹を抱え、胃酸を吐きながら立ち上がり、持っていた太刀で受け止めようとした。
だが、時はすでに遅く、清盛の首に、月明りで白く輝く豪速の刃が迫る。
(父上、叔父上、そして家盛ごめん。俺もうここまでみたいだ)
このとき清盛は、死を覚悟した。
元服から頼長にバカにされたこと、石清水八幡宮で白河院と初めて話したこと、義朝と一緒に暮らしていた日々やこの前稽古したことが、走馬灯となって脳内でフラシュバックする。
「絶対に死なせるもんか!」
清盛の首があと少しで斬られようとしていた瞬間、盛国は山王丸の太刀を受け止めた。
「なぜ、盛国がここに?」
不思議そうな表情で、清盛は盛国を見つめる。
「全く、一人になりゃ臆病風吹かして逃げるし、雑魚と戦ってるときでさえ危なっかしい。大将相手なんて任せられるか!」
「待て、そいつは俺の獲物だ」
清盛は山王丸と戦おうとする盛国を制止する。
「ずべこべ言わず、お前は雑魚だけを倒してろ! 俺はこいつを食い止める。だから、行け!」
「わかった。ありがとう」
清盛は寄せては返す月光に照らされた白波を避けながら、濡れた砂浜を走る。
2
「死ね!」
薙刀を持った海賊の手下が清盛を襲う。
「死ぬのはお前だ!」
海賊の手下が薙刀を振り下ろし、矛が砂浜に埋もれたときを狙って蹴りつけ、倒れたところを短刀で一突きした。
「これで目標は達成した」
海賊の手下の死体から耳を削ぎ、また雑魚と戦うのを繰り返しながら、清盛は戦場を駆け回る。
目標を終えた後、清盛は戦場の中を駆け回っていた。
刀や薙刀で打ち合う者、組討をしている者、弓矢や投石で援護している者など、各々が自軍の勝利のためにベストを尽くしている。
(自分にできることは何だろうか?)
清盛は戦場の中で考える。
さっきまでは誰かに、「戦え」と言われてきたから戦った。だが、目標を遂げてからは、自分の裁量でやるしかない。
「戦え、戦え、生き残るために、戦え」
自分にそう言い聞かせ、清盛は血刀を片手に海賊の手下を斬りつける。
また一人、海賊の手下を斬り殺した。
次へ進もうとしたときに、
「おい、そこの若武者」
声をかけられた。
清盛は振り向く。
そこには、もじゃもじゃに生やした髭、粗末な服を鎧の下に着た赤銅色の肌をした赤鬼のような大男が立っていた。先ほど山王丸と一緒に名乗りを上げた男だ。
「よお、兄ちゃん」
「お前は、あのハゲの隣にいたヒゲモジャ男」
清盛はこの男を間近で見たとき、勝てないと悟った。逃げようとしても、海王丸の出す気迫のせいか、体が動かない。
「今なんつった?」
海王丸は耳に手を当て、ドスの効いた低い声で清盛に聞く。
「いや、なんでもないです」
先ほどの発言を清盛は必死で否定しようとする。
「ヒゲモジャ男って、さっき言ったろ!」
海王丸は持っていた青龍刀を振り上げ、清盛の頭を目がけて振りかざす。
清盛はそれを防いだ。
山王丸と剣を交えたときと同じように、火花が散ると同時に強い痺れを感じる。
「何なんだこの兄弟。力強すぎないか?」
「太刀ごとお前の頭叩き斬ってやる」
海王丸は青龍刀にさらに力を込めた。
清盛は後ろへ後ろへと押される。
「死ね!」
清盛の持つ太刀を折ろうとする勢いで、海王丸は斬りこむ。
清盛は後ろへ退き、海王丸の喉元を狙い突きかかる。
紙のように身軽な身のこなしで海王丸はそれを避け、清盛の背中を斬りつけた。
血の噴水が清盛の背中から噴き上がり、白波を紅く染め上げ、痛ましい叫び声が波の音に混じってこだまする。
「実戦でたくさんの人間を殺した俺と、貴族の世界でぬくぬくと育ったお前とでは、〈格〉が違うんだよ」
「俺は弱い。自分でも、それは、わかってる。だけど、まだここで、死ぬわけにはいかないんだよ。やらなきゃいけないことがあるから」
持っていた太刀を杖代わりにし、痛みをこらえながら清盛は立ち上がる。
「死に損ないは黙って寝てろ」
海王丸は清盛の足を斬りつけ、倒れたあとに馬乗りになった。
大量の血を流し、息をするのもやっとな清盛。
飢えた野獣のように鋭い眼光を瞳にたぎらせ、首元に切っ先を突きつけようとする海王丸。
「死ね!」
海王丸は清盛の首を斬ろうとしたときに、誰かに右手をつかまれた。それもかなり力が強い。
「誰だ?」
海王丸は振り返った。
目の前にいたのは、片方の目が寄っている大鎧を着た屈強な男だった。忠盛だ。
3
「清盛、よくここまで持ちこたえてくれた」
哀しそうな目で、忠盛は殺されかけている清盛を見たあと、腰に差していた小烏丸の太刀を抜いた。
唐剣のような切っ先だが、刀身にそりがある。日本刀と唐剣の特徴を足して2で割ったような見た目だ。
「誰だ、お前?」
海王丸は太刀を大上段に構え、忠盛目がけて力いっぱい斬りかかる。
忠盛はさらりとかわし、二の太刀を浴びせようとしたところで海王丸の左腕を斬りつけた。
腕は血しぶき共に宙を舞い、砂浜へと落下する。
「腕が、腕が!」
斬られた腕を抑えながら、海王丸は地面に伏して絶叫する。
「黙れ」
忠盛は海王丸の水落に蹴りを喰らわせた。
海王丸は泡を吹いて倒れた。
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