第101話 調査開始

 夜は男連中を三グループに分けて警戒にあたることにした。俺はアベルと共に、明け方の時間帯を警戒することになっている。


 特に魔物が現れることもなく時間は過ぎていった。明け方頃には、暇だったので朝食の準備をしながら警戒をしていた。かまどにはグツグツと朝食用の野菜スープが出来上がりつつあった。


「魔物は一匹も現れなかったね」

「そうだな。他の時間帯も現れていないようだ。随分と魔物よけの効果があるみたいだな」

「この魔物よけの魔道具がどこでも売られるようになれば、冒険者たちはもっと楽に旅をすることができるようになるかもね」


 確かにアベルの言う通りかも知れない。この魔物よけの魔道具を売り出すのも良いかも知れないが……機密事項が多かったりするんだよな。突然こんなオーパーツのような代物が出回れば、それこそ悪いやつらに目をつけられるかも知れない。


 そのせいでみんなが危険な目に遭うのはごめんだからな。これについては慎重に考えなければならない。

 冒険者だけでなく、町や村の安全性を高めることもできるだろう。だが、申し訳ないが、今は家族を守る方が大事だ。


 そんなことを考えていると、リリアとマリアが起きてきた。どうやら朝食用の野菜スープの匂いにつられたようだ。


「おふぁよ~。お腹すいた~」


 眠そうな顔を隠そうともせずに、マリアがアベルに垂れかかった。おうおう、朝から見せつけてくれるじゃねぇかよ。

 アベルはアワアワしていたが、それが何だか可愛らしい感じだった。


「何だ、マリアは良く眠れなかったのか?」


 チラリとリリアの様子をうかがいながら言った。リリアが俺にも垂れかかって……はこないか。俺の隣に座ると、いつものように髪や髭をモフりだした。そうだよね。そうなるよね。


「しっかり寝ていたわよ。どちらかと言うと、寝過ぎなんじゃないのかしら?」


 そうかも知れないな。冒険者はいつ眠れるか分からない職業だ。寝ることができるときにしっかりと寝ることができることも、冒険者を続ける上で必須の能力だからな。


「リリアは良く眠れたか?」

「そうねぇ、ダナイが隣にいなかったから、微妙かしら?」

「何だそれは……」


 リリアは俺を抱き枕にする傾向にある。それならば、リリアの安眠のためにも専用の抱き枕でも作ってやるとするか。


 そうこうしている間に、他のメンバーたちも起き出してきた。朝食用のパンを用意すると、すぐに朝食を食べ始めた。


「目的地まであと二、三日はかかる。なるべく疲労を溜めないようにして先を急ごう。それにしても、昨晩は運が良かったな。魔物が一回も現れないなど、前回のときはなかったからな」


 捜索部隊の隊長が首をひねりながら言った。隣に座っていた他の捜索部隊のメンバーも、それもそうだな、と考え込んでいた。


 うーん、これは考えるまでもなく、俺の作った魔物よけが効果を発揮しているのだろう。それはそれで楽できるのでいいが、大騒ぎになるのは困るな。何とかバレずに済むと良いんだけどな。



 結局、一度も魔物に遭遇することなく目的地周辺までたどり着くことができた。道中、しきりに首をひねっていた捜索部隊の顔にも、ここまで来ると緊張の様子がうかがえる。


「見えるか? あの大きな岩山の中にエンシェント・エルフのすみかがあるんだ」


 確かに良く見ると、木々の間から山のように大きな岩山が見え隠れしている。それでもまだ、それなりの距離がありそうである。


「この辺りはまだ警戒されていないみたいだね」


 ベンジャミンもそれなりに狩猟経験があるのだろう。この辺りの気配を察知することができるようである。


「どうだろうか? 警戒できるだけの人数がいないだけかも知れない」


 エンシェント・エルフの数は分からないが、それほど多くはないだろうとの隊長の見方だった。

 あの質素というよりも、粗末な暮らしでは、大人数を支えることはできないとの判断を示した。


「さてどうするか。外に出てきたエンシェント・エルフをうまく捕まえることができれば、色々と話を聞けそう何だけどな」

「言葉は通じるのか?」

「正直に言わせてもらえると、分からん」


 俺の質問に、隊長が苦々しい表情で答えた。

 いきなり攻撃してきたのだ。聞く耳を持たなかったのか、それとも言葉が通じなかったのか。それを確認する余裕もなかったのだろう。


「まずは周辺の情報収集だ。どこかこの辺りにキャンプ地を作らないといけないな」


 この周辺には岩山はなく、身を隠せるようなところはない。木を切り倒して場所を確保しても、相手からは丸見えだろう。それならば。


「それじゃ、地中に拠点を作りましょうか?」

「そんなことまでできるのかね?」

「多分、大丈夫だと思います」


 エンシェント・エルフが住んでいる岩場と、おそらく彼らが利用していると思われる湖。そのどちらからも少し離れている場所に拠点を設置した。


「ダナイ忍法、土遁、地下拠点の術!」


 もはや魔法名は適当である。正直なところ、イメージしやすければそれで良いと思っている。

 アッサリと完成した地下室に、周りの地面と同じようにカモフラージュした木の扉を設置する。これで見つかる可能性は限りなく低くなるだろう。


 驚きを隠せない様子で地下室に入るメンバー。そこにはダイニングルームとそれに続く五つの部屋、風呂とトイレがあった。


「ダナイの魔法、パワーアップしてるわね。魔力は大丈夫なの?」

「大丈夫だ、問題ない」


 心配するマリアにそう答えながら、ポンポンと頭をなでてあげた。

 うん、本当にマリアは小動物系の癒やし系だな。ほっこりしてきた。事実、ディメンション・ルームに比べたら、大したことはなかった。


 やはり無から有を作り出すのは大変な労力がいるようである。

 あっけにとられていた他のメンバーも、「ダナイならしょうがないか」といった様子でそれぞれの部屋に荷物を置きに行った。何かもう、そんな風にとらえられているようである。


 片付けが終わると、全員がダイニングルームへと集まった。これからの行動を確認するためである。


「まずは付近の調査だ。魔力封じを無効化することができることが望ましいからな」

「そうだな。魔法封じを無力化すれば、向こうも魔法を使ってくるようになるだろう。しかし、こちらが使えないのは非常にまずい。何せあちらは、魔法以外の攻撃手段を持っていることだしな」


 それぞれがうなずいた。エルフにとって魔法が使えないのは恐怖以外の何者でもないのだろう。心の支えは必要だ。


「それから、意思疎通が可能なのかも調べなければならない。接触するのが手っ取り早いのだが、それは最後の手段だろうな」

「そうね。水場に張り込んでおきましょう。そうすれば、話し声を聞けるかも知れないわ」


 エリザの意見に捜索部隊のメンバーがうなずいた。それならば、エンシェント・エルフの動きを確認できるすべがあった方がいいな。


「エンシェント・エルフは金属製の装飾品を身につけていたりとかしないのか? それがあれば、金属探知機で居場所を特定することができるんだが」

「金属製の装飾品か。あの様子だと難しいだろうな。木彫りの装飾品なら身につけているかも知れないがね」


 ダメか。かなり質素な暮らしをしているみたいだしな。金属は貴重なのかも知れない。


「ダナイ、その金属探知機で魔力を探知することはできないの? エンシェント・エルフはみんな魔力を持っているんだから、それを探知できれば居場所が分かるんじゃないの?」


 マリアが聞いてきた。なるほど、それは良い考えかも知れない。昔に比べると、俺も魔力が何たるかは分かるようになっている。きっと作れるはずだ。


「そうだな。ちょっと改良してみるとしよう」

「そんなに簡単にできるものなのかい? それなら、ダナイの魔力探知機ができてから本格的に行動を開始しよう。それまでは、周辺の地形の把握と、エンシェント・エルフが展開しているであろう結界の解析だな」


 ベンジャミンの言葉に、その場の全員がうなずいた。

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