第17話 魔鉱溶融炉①

 その日のうちに魔鉱と向き合う日々が始まった。ゴードンの店にもいくらかの魔鉱の蓄えがあった。しかし、そこにも問題が出始めているようだった。


「さっきも言った通り、魔鉱は武器として使われなくなってきている。その煽りを受けて、最近では魔鉱の流通量が激減しているんだよ。魔鉱を使う鍛冶屋がいなくなっているから、魔鉱が安く手に入るのは結構なことなんだが、このままでは手に入らなくなる恐れがある」


 ゴードンはため息交じりに言った。原料が枯渇すればその技術は衰退することだろう。

 

「それなら、どこか取引先を探しておく必要がありそうですね」

「ああ、それもそうだが。それよりも、冒険者ギルドで依頼した方が良いかも知れん」

「冒険者ギルドでですか? それではこの辺りで魔鉱が採掘できる場所があるんですね?」

「まあ、あるにはあるが……そうか、ダナイは冒険者だったな」


 その言葉に頷くと「魔鉱の採掘は俺に任せて下さい」と確かに請け負った。ゴードンはダナイがDランク冒険者であることを確認し、それを容認したのであった。


 魔鉱が採掘できる場所はダナイがこの世界に降り立って初めて登った山だった。なるほど、あの廃村は魔鉱を採掘するのを生業にしていたのだな、と一人納得した。


 ゴードンは魔鉱とその原石である魔鉱石を目の前に持ってきた。魔鉱は淡い赤みを持つ金属だった。ダナイはそれに何か不思議な気配のようなものを感じていた。


「魔鉱はな、魔力を帯びた金属なのだよ」


 ほれ、とそれをダナイに手渡した。ズッシリとした重さを感じる。どうやら鉄よりも少しばかり重いようだと睨んだ。


「厄介なことに、この魔鉱石から魔鉱を取り出しても、品質が一定にならないのだよ」

「ええ!? そんなことがあるんですか。それは厄介ですね。品質が安定しないと商品として売りに出せませんよ」


 その通りだ、とゴードンは頷く。それこそが魔鉱の衰退の原因だろうと言った。ゴードンは名刺サイズの魔鉱をやっとこで掴むと、予め用意してあった火床へと差し込んだ。


「魔鉱は鉄のように色が変わるまでに時間が倍近くかかる。燃料は多めに用意しておくように。それから、さっきも言ったかも知れないが、もの凄く堅い。何度も何度も力一杯叩かなければ加工できないのだよ」


 ゴードンの言葉にこれは気軽に作る物じゃないな、と理解した。手伝いながらも何一つ見逃すまいとゴードンの作業を穴が空くように見つめた。


 なんとか一振りの小型のナイフを作り上げたが、ゴードンは精魂疲れ果てていた。慌ててゴードンをカウンターに連れて行くと、すぐに飲み物と食べ物を差し出した。


「ありがとう、ダナイ。これで魔鉱を扱うことの大変さが分かったかね? あれだけ苦労して、このサイズの物しか作り出せないのだよ」


 力なくゴードンは笑ったが、その壮絶な作業を見ていたので、とても笑うことはできなかった。できあがったナイフも色味にムラがあった。これが先ほど言っていた品質が一定ではないと言うことだろう。熱して赤くなっているときは全く分からなかったが、こうして完成品を見ると良く分かる。本当に厄介な代物のようだと黙り込んだ。


「今日はここまでにしておこう。明日からはダナイにも作ってもらうからな」

「分かりました。任せて下さい」


 しかし、逃げるつもりはなかった。きっと何かヒントがあるはずだ。宿に戻り、夕食と入浴を済ませると、椅子の上にドッカリと腰をかけた。テーブルの上にはペンと紙が用意してある。


 目を瞑り、魔鉱について調べ始めた。ついでに謎の金属ミスリルについても調べた。


「なるほど、鉄が魔力を帯びたものが魔鉱で、銀が魔力を帯びたものがミスリルになるのか。どちらも長い年月魔力に曝される必要があるみたいだな。一朝一夕には作られないというわけか。ちなみに銅が魔力を帯びると……なんだ、何にも変化しないのか」


 ブツブツと言いながらメモを取っていく。魔鉱にムラができるのは鉄が魔力を非常に通しにくいからであった。逆に銀は非常に良く魔力を通すため、ミスリルは魔鉱に比べて遥かに品質が安定していた。


 魔鉱の品質を安定させる方法が何かあるのではないかと考えていると、一つの項目に目が留まった。


「魔鉱の溶かし方……? そうか! 一旦魔鉱を完全に溶かして均一化すれば品質が安定するはずだ。でもどうやって溶かすんだ? 何々、魔鉱溶融炉の作り方? なるほど、専用の魔方陣を使った設備があるのか!」


 興奮して足をパチンと叩いた。こうしちゃいれらねえとばかりに、その設計図を紙の上に書き出した。あとはこの設備を師匠の家の中庭に作るだけであった。

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