第16話 素晴らしき魔道具の世界②
宿に戻ったダナイはさっそく魔道具を作ってみることにした。各種工具を持ち出すと、さすがに宿の中で大きな物音を立てるわけにはいかないだろうと外に出た。途中で雑貨屋に寄り、必要そうな鉄板、銅板、銅線、小さな金床などを買い込むと、ニヤニヤしながら街の外の人気がない場所へと向かった。
「この辺りでいいだろう。それではさっそく……」
逸る気持ちを抑えながら、まずは銅板に魔方陣を刻み込んでいった。カツカツと小気味好い音を奏でながら彫り込んでいく。前世で習得した彫金の技術はドワーフとなった今でも健在であった。むしろドワーフになったことで器用さも上がり、以前よりも遥かに洗練されていた。
作ろうとしているのは小型化したライターだった。小さな魔方陣を描き終えると、ケース作りに入った。こちらは鉄板を叩いて形を整えた。できあがった入れ物に魔方陣と銅線を組み込み、小さな魔石と繋げた。もちろんオンオフのスイッチも忘れない。
「できたぞ。それではさっそく……ありゃ? 火が点かねぇ」
何度カチカチとやってみても、火がついた様子は見られなかった。しかし、よくよく目に近づけて見てみると、とても小さな火がついていることに気がついた。
「こんなに小さな火じゃ役に立たねえな。どうしてこうなった?」
答えはすぐに頭の中に浮かんだ。どうやら魔方陣の出力はその大きさに比例するようだった。ダナイが描いた小さな魔方陣では出力が弱すぎたのだ。
「なるほど、これが小型化できない原因か。これは参ったな。……いや、待てよ。もっと強力な火を出す魔方陣を使えばいいんじゃないのか?」
ダナイが改めて問うと、火の魔方陣、炎の魔方陣、業火の魔方陣……と次々と魔方陣の名前が頭に浮かんだ。効果が弱い順に並んでいるのだろうと判断すると、炎の魔方陣を選択した。
先ほどの魔方陣よりも複雑な構造をした魔方陣が頭の中に浮かぶ。それを繊細な手つきで彫り上げた。先ほどよりか一回り大きい魔方陣になってしまったが、なんとか許容範囲内の大きさだった。
「これでどうだ?」
期待に胸を膨らませてスイッチを入れると、ろうそくの明かり程度の火がついた。それを見て思わずガッツポーズをした。ここに小型のライターが発明されたのであった。
小型化に成功したのを良いことに、調子に乗ってライターの表面に微細な彫金を施した。思った以上の美しいものに仕上がったライターを見ながらニンマリすると、足取りも軽く宿へと戻った。
翌日、そのライターを手に持つといつものように鍛冶屋ゴードンへと向かった。もちろんそのライターは師匠であるゴードンにプレゼントするつもりであった。
「こ、これを私に?」
ゴードンは小型化された点火の魔道具と、それを彩る見事な彫金の装飾に見入っていた。火をつけたり消したりしながら装飾をひとしきり愛でると、ため息を吐いた。
「どうやらダナイには次の段階へと進む資格があるようだ」
「次の段階、ですか?」
「そうだ。これからは魔鉱を使った武器の作り方を教えよう」
「魔鉱?」
これまでは鉄製の武器しか作ったことはなかったのだが、どうやら魔鉱と呼ばれる金属がこの世界には存在するらしいことが分かった。これまでゴードンが扱っているところを見たことがなかったので、その金属が特殊なものであることだけは理解できた。
「ふむ、ダナイは知らないか。ミスリルはさすがに聞いたことがあるだろう。魔鉱はミスリルとは違い、とても堅くて扱い難い金属でな。武器や防具には向いているが、微細な装飾を施す必要があるアクセサリー類にはほとんど使用されていない」
ミスリルという金属のことも知らなかったが、それはあとで調べることにした。取りあえず今は知っているという体で話を進めた。
「使い方を間違えなければ鉄製よりも優れた武器が作れるのだが、最近ではあまり見なくなってしまったな。まあ、研げる者も少なくなっているようだし、仕方がないのかも知れんな」
魔鉱製の武器は世の中から忘れ去られようとしていた。ゴードンはその技術をダナイに託すことに決めたのだった。それはひとえにダナイを一人の鍛冶屋職人として認めたということでもあった。
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