第10話 二階級昇進

 森を抜け、草原を抜けるとイーゴリの街が見えて来た。門番のラウリが二人に気がつくと、大慌てで二人の元へとやって来た。


「無事だったのか! 三人娘が慌てた様子で戻ってきたから何事かと思っていたところだよ」

「危なかったところをダナイに助けてもらったわ」


 そのときラウリは二人を見て驚きの表情を見せた。どうしたのかと首を傾げながら門の方へと向かっていると、街の中から何人かの人達が出てきていることに気がついた。その中は冒険者ギルドの職員のロベルトも混じっていた。

 そのただならぬ様子にラウリに尋ねた。


「何かあったのか?」

「ああ、きっとリリアの捜索に向かうところだった人達じゃないかな?」


 ラウリが言ったとおり、その人達はリリアの捜索のために集まった人達だった。その中にリリアの仲間達もいるようだった。リリアの名前を呼ぶ声が聞こえる。


「リリア! 良かった、無事だったんだね。無事で本当に良かった」

「ありがとうリリア。お陰で無事に街まで帰ることができたわ」


 壊れ物を扱うかのようにダナイが地面にリリアを下ろすと、すぐに三人娘がリリアを囲んだ。リリアは自分の無事をアピールしていたが、本当に何もなかったのか丹念に調べられていた。


「ダナイ、お前がリリアを助けたのか?」

「ああ、森で偶然出会ってな。熊に襲われていたのを助けたのさ」


 ロベルトの問いに「何のことはない」と答えた。それを聞いたロベルトや、三人娘、捜索のために集まった人達は顔を見合わせて首を傾げた。


「確か聞いた話だと、ブラックベアに襲われたと聞いたんだが」

「そうだ。真っ黒なブラックベアって呼ばれている熊だったな」

「そのブラックベアはどうなったんだ?」

「こうなったよ」


 そう言って懐から大きな魔石を取り出した。周囲に驚きの声が上がる。その声に今度はダナイが首を傾げた。強そうではあったが、倒せないことはない。その程度の強さだと思っていた。


「お前一人でやったのか?」

「うーん、リリアも魔法で攻撃をしていたと思うが」


 リリアの方を向いて言ったが、リリアは首を左右に振りそれを否定した。


「もちろん攻撃はしたわ。でもブラックベアには通用しなかった。さっきもダナイに言ったけど、時間稼ぎが精一杯よ」

「なら一人で倒したのか……」


 ロベルトが絶句している。周囲もシンと静まり返った。ダナイの背中に冷や汗が流れる。もしかしてブラックベアを倒すのはまずかったのか。

 しかし、リリアを助けるにはどのみち倒すしか選択肢はなかったのだと思い直した。魔力が枯渇して動けなくなっているリリアを逃がすのは無理だっただろう。


「とにかく、二人が無事で良かった。後処理は冒険者ギルドに戻ってからにしよう」


 ロベルトの言葉によって一部が冒険者ギルドへと戻って行った。もちろんダナイは再びリリアを肩に乗せて移動した。


 ダナイとリリア達はそのまま冒険者ギルドの奥の部屋へと案内された。


 これは大物が出てくるぞ。初めて奥へと入ったダナイは緊張した。昔からお偉いさんと会うのはとても苦手だった。それに気がついたのか、リリアはダナイを安心させるかのように頭や髭をモフモフと撫で回した。


 案内された部屋には、予想通り立派な服装に身を包んだ初老の大きな体つきの男が待っていた。その隣には眼鏡をかけた目付きの鋭いエルフの女性が座っている。


 そのエルフの女性はダナイと、ダナイの髪や髭をしきりに触っているリリアの様子を見てその目が大きく見開いた。そういえばラウリも同じような表情をしていたな、と思い出した。やっぱり俺達の組み合わせはおかしいのだろう。そう思うと、落胆せずにはいられなかった。


「どうぞ空いている席に座って下さい」


 部屋まで案内してくれたロベルトの指示に従って席についた。ダナイの隣にはリリアが座っている。


「俺はこのイーゴリの街にある冒険者ギルトのギルドマスター、アランだ。呼び捨てで構わない。隣は副ギルドマスターのミランダだ」


 アランの紹介にミランダが頭を下げた。ダナイを見るミランダの目は険しかった。ダナイは何か気に入らないことをしてしまったのかと頭を捻った。ひょっとしたらリリアとミランダは姉妹、もしくは親戚なのかも知れない。変な虫がついたので牽制しているのだろう。


「さっそくで申し訳ないが、君達にあった出来事を残さず話してもらえないか? ブラックベアがグリーンウッドの森に出没したとなると、こちらでも対策を採らないといけないからな」


 どうやら思った以上にことは深刻であるようだと認識し、リリアと代わる代わる状況を細かく話した。その間もしばしばリリアはダナイの毛並みをモフモフしていた。どうやらこの毛並みを相当気に入ったようだ。


「なるほど、大体分かった。ダナイ、お前は今日からDランク冒険者だ。本来ならCランク冒険者まで上げたかったが、冒険者ギルドの規定で一度では二階級までしか上げることができないからな」


 アランはダナイから受け取った大きな魔石を手でもてあそびながら言った。ロベルトに冒険者証明書を渡すと、すぐに部屋を出て行った。


 昨日冒険者登録を済ませたばかりなのに、もうDランク冒険者にまで昇進してしまった。確かアベルとマリアはEランク冒険者だったはず。急な出世に戸惑いを隠せなかった。


「当然の結果よ。ダナイがFランク冒険者だったなんて、信じられないわ」

「いや、俺は昨日冒険者登録をしたばかりなんだけどな」

「えええ!?」


 その場にいた、ダナイを除く全員が声を上げた。どうやらとんでもない速さで出世したようであることをこのとき初めて認識した。


「私だってようやくCランク冒険者なのに……」


 リリアが複雑な顔で呟いた。リリアでもCランク冒険者。三人娘はDランク冒険者であった。

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