EX07 出張サルメちゃん
「たーのもー!」
「たーたた、たーのもう!」
ルーナとリリアンは楽しそうに言った。
ここは王都の冒険者ギルド。その玄関を入ってすぐの場所。
パーカー姉妹、リリアン、そして姉妹のお付きのメイドは昨日の夕方頃から王都入りしていた。
クリスは本日、自分のメイドと王城のお茶会に参加しているので、ルーナたちと一緒にはいない。
ルーナ、リリアンの2人と一緒にいるのはモニカだ。
(冒険者ギルドですか。初めて来ましたが……)モニカが周囲を観察する。(巨大な酒場のような造りですね)
ちなみに冒険者ギルドの建物はパーカー家よりも小さい。ただし、隣に広い修練場が付属している。
テーブルや椅子が並んでいて、数名が酒を飲んで談笑していた。
というか、みんな一カ所に集まっている。
とりあえず、みんなルーナたちを一瞥。そして例外なく頬を緩めた。
(変態冒険者たちから、可愛いお嬢様たちを守らなければっ!)
モニカには自分のことがよく見えていない。
ルーナたちを見て微笑む者は、とりあえずみんなロリコンと仮定して警戒するモニカだった。
左の壁に冒険者たちの実績が貼り出されている。誰が新たな果物を発見しただの、どこのパーティが地図の空白を埋めただの、そういう情報だ。
「リリちゃん、あっちに受付の人がいるよ!」
「でもあっちの人だかりも気になるぞ!」
「じゃあ先に人だかりに行ってみよぉ!」
「おー!」
ルーナとリリアンは走って冒険者たちが集まっている場所に移動。
モニカは歩いて2人に続いた。
「これが私の剣、ラグナロクです」
茶髪をハーフアップにしている少女が、何度も大剣を構え直していた。
少女が構えを変える度に、「おー!」という声が上がる。
少女は真っ黒なローブを着ていて、パッと見ると魔法使いのようである。
しかし、少女の持っている剣は非常に高価なものだとすぐ分かった。それも、魔法使いの持ち物とは思えないレベルで。
「えー、その剣すごーい!」とルーナ。
「おう! キラキラしてるぞ!」とリリアン。
素人のモニカですら、少女の大剣を見て「ほぅ」と息を吐いた。
それほどまでに美しい大剣だったのだ。
「これはラグナロクと言って、伝説級の武器ですね」少女が説明する。「まぁ、私ぐらいの実力者じゃないと、扱いきれませんがね(ふっふっふ! 私すごいです! みんな感心しています!! ふっふっふ!)」
「貸して貸して!」
「あたしもあたしも!」
ルーナとリリアンが少女に寄っていく。
「いえ、知らない子には貸せませんよさすがに」
少女が苦笑い。
「私ルーナで、こっちはリリアン」
「これで知ってる子だな。そっちは?」
「私は傭兵団《月花》遊撃隊長のサルメ・ティッカです(いやいや、自己紹介しただけの女の子にラグナロクは貸せませんけども、この子ら可愛いですね。え? 何この子たち、尋常じゃなく可愛いんですけど? うちの団長さんより綺麗なんじゃ?)」
「「傭兵団《月花》!?」」
ルーナとリリアンは驚いて顔を見合わせた。
2人の技術は魔法兵の技術。そして魔法兵の生みの親は異国の傭兵団であり、その名は《月花》である。
(ふっふっふ! 団長さん! 今やこんな子供たちですら、《月花》を知っている時代のようですよ! 素晴らしいです! 出張の度に布教活動……もとい《月花》の武勇伝を吹聴してた甲斐がありますね!)
サルメは誇らしい気持ちで胸を張ったが、胸はあまり大きくなかった。
「あれ?」とルーナが首を傾げる。「でもサルメって名前、確か初期のメンバーの名前だった気がするよ?」
「おう、そうだったな。魔女さんに《月花》の話は聞いてたけど、サルメって初期のメンバーだから、冒険王コンラートとか、最強冒険者ルミアとかと同世代だろ?」
2人の疑問に、周囲の冒険者たちもざわついた。
それもそのはず。《月花》が立ち上げられたのは割と昔の話だ。
「その2人は私よりずっと年上ですが、まぁいいでしょう」サルメがラグナロクを背中に仕舞う。「私たち《月花》に年齢の概念はありません。不死ではありませんが、不老に近いですね(ちょっとミステリアスに言いましたけど、実際は時を操る魔物を飼っているだけなんですよね)」
「へぇ、そうなんだ」
「よくある話だな」
「え?」
ルーナとリリアンの反応に、サルメの方が目を丸くした。
「よ、よくある話ですかねぇ? お、おかしいですね……。普通、驚くんですけど……」
「だって身近に年齢不詳の人いるし(魔女さんのこと)」
「だよなー。別に驚くほどのことでもないぞ(ナデテとか年齢3桁だぞ)」
「そ、そうですか」サルメが咳払い。「では、情報収集も済んだので、そろそろ私は行きますね。一応、任務中なので」
サルメは小さく手を振ってから、ギルドをあとにした。
「ちぇ、剣貸してくれなかったね」
「いつか、あたしらはもっといい剣を見つけようぜ!」
「そうだね! そして売り飛ばそう!」
「おーう! 次は受付行ってみようぜ!」
2人はタタッと走って受付へ。
受付はギルドの奥にあった。
カウンターがあって、受付の女性が2人座っている。
その2人とは別に、お酒や料理を提供するウエイトレスが2人。
カウンターの奥は厨房になっていて、料理人らしき人物がまた2人。
「お嬢さんたち、誰かのお迎えですか?」
20歳前後の受付嬢が言った。
「んーん」ルーナが首を振る。「私たち、冒険者になりたいの」
「登録してくれ! あたしら、魔獣ルーナリアンってパーティだぞ!」
2人が言うと、受付嬢が微笑む。
「お嬢さんたち、年齢は?」
「「12歳!!」」
2人が元気よく言った。
「ふふっ、冒険者になれるのは15歳からなので、3年後にまた来てね(可愛らしい冒険者だわ。微笑ましいけど、冒険は過酷なのよ?)」
「ちぇ、やっぱり無理だったね」
「そうだな。まぁいいや」
「ところでお姉さん」ルーナが笑う。「このギルドで、1番実績のある人って誰? 今いる?」
「そうですねぇ」受付嬢が思案する。「マリンさんのパーティでしょうねぇ。マリンさんはそこでミルクを飲んでいますよ。他のメンバーは残念ながら、実家に戻っているようです」
受付嬢が指さした先には、赤毛の女性が座っていた。
サルメがいた時は、サルメの近くで「おー」とか言っていた人たちの1人だ。
髪型はよくあるロングストレート。顔はまぁ可愛い方だが、凜々しさの方が目立つ。
剣を腰に装備している。厚手の布の服の上から、革の鎧。下半身はなぜか短いスカートだった。
足には頑丈なロングブーツ。
(お尻周りを守る気がないっ!?)
(スカート、だと!?)
ルーナとリリアンは、マリンの格好に驚いた。
(なぜスカート?)モニカも困惑していた。(休暇中だからですか? なら鎧も外せばいいのに。はっ!? もしかして、そういう羞恥プレイ!?)
まぁとりあえず、ルーナとリリアンはマリンの方に寄って行った。
マリンが2人を見て微笑んだ。
「やぁ、小さな冒険者たち(ロリ可愛いっ! ああん、ロリ可愛いっ! 僕はこの子たちをナデナデしたいよぉ!)」
マリンの声はハスキーで、自信に満ちあふれている。
少なくとも、ルーナたちはそう思った。
「こんにちは。私はルーナで、こっちはリリアン」
ルーナが自分とリリアンを紹介する。
モニカは今回も紹介されなかったので、ちょっぴり悲しかった。
サルメの時もモニカはスルーされていた。
「僕はマリン・コックス」マリンが言う。「僕に何か用かな?(ナデナデしたいぃぃぃ! 可愛い! この子ら、超可愛い! 獣のマントとか装備してるぅぅ! 可愛い!)」
ルーナとリリアンは冒険装備だ。
もちろん、馬車での移動中や宿泊しているホテルでは、それなりに綺麗な服を着ていたけれど。
「用ってほどじゃないんだけど」とルーナ。
「あたしらと勝負だっ!」とリリアン。
ちょっとした沈黙。
リリアンの声が大きかったので、雑談していた冒険者たちも注目した。
(あっれー? もしかしてこれ、お嬢様たち、現役の冒険者に喧嘩売りましたぁ?)
モニカは冷や汗をダラダラ流している。
「勝負、というのは?」
マリンが小首を傾げた。
「冒険者の強さを知りたいの!」
「そうだ! あたしらは冒険者の強さを知りたい!」
2人が真っ直ぐな瞳で言うものだから、マリンも「ふむ」と頷いて思案する。
(まぁ、ボチボチほどほどに戦ってあげようかな。最後には、わざと負けてあげてもいいね。いや、むしろ僕が普通に勝って、落ち込んでいるこの子たちの頭をナデナデすればいいのでは!? そうすれば、自然にロリっ娘をナデナデできるのでは!? あれ、僕天才じゃね!? よぉし! ロリっ娘たちをナデナデするぞぉ!)
マリンの中で結論が出た。
「では、修練場で軽く相手をしてあげよう」マリンが立ち上がる。「君たちの将来の指標になれるよう、全力で相手をする」
マリンの言葉で、ルーナとリリアンが顔を見合わせて「やったー!」とハイタッチ。
そんな2人の様子を見て、マリンは心から(ロリっ娘可愛い)と思うのだった。
そしてモニカはホッと息を吐いた。
(マリンさんがいい人で良かったぁぁ! まぁそうですよね! 12歳の可愛いお嬢様たちに、本気で怒る大人なんていませんよね!! 全力って言っても、最後には軽く負けてくれたりするんでしょうし!!)
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