EX02 お風呂で悶々お姉ちゃん


 クリスは湯船に身体を沈め、小さな息を吐いた。

 今日も一日が無事に終わった。


「……まぁ、モニカへのお仕置きはありましたけれど」


 誤って窓を割ってしまったとのこと。


「本当はルーナかリリアンが割ったのでしょうけれど、モニカは本当にいいメイドですわ……」


 だから罰を与えるのは心苦しいのだが、モニカがどうしてもと聞かないのだ。


「モニカがあんまり真剣に言うものですから、あたくしも『嘘でしょう? 本当はルーナかリリアンが割ったのでしょう?』って聞けませんのよねぇ」


 クリスは気付いていないが、それこそがモニカの逆調教の成果である。

 深く突っ込まず、とりあえずモニカがそう言うならお仕置きしよう、という流れが刷り込まれているのだ。

 クリスは目を閉じて小さく背伸びをした。

 ちなみに、長く煌びやかな金髪は頭の上で結んでいる。お湯に垂らすと張り付いて気持ち悪いからなのだが、ルーナは「トマトのヘタみたい」と言っていた。


「お姉ちゃん! 一緒に入ろう!」


 唐突に、ルーナが風呂場に入ってきた。

 クリスはビックリして目を丸くした。


「えへへ。ビックリした? ねぇお姉ちゃんビックリした?」


 言いながら、ルーナが湯船に入る。


「え、ええ。ビックリしましたわ(きゃーー!! 可愛いルーナの裸ですわ!! 可愛い! 可愛い! もう可愛いしか出てきませんわ!!)」

「脅かそうと思って、コッソリ準備したもんね(やったぁ! お姉ちゃんビックリし過ぎて顔が赤くなってる!)」


 ルーナは脱衣所では一切の音を立てないよう、注意して服を脱いだ。

 気配を消すのはお手の物。冒険者志望なので、そのぐらいは可能だ。


「やりますわね。あたくし、ドキドキしてますわ(だって可愛いルーナと向かい合ってお風呂に入ってますもの!! このまま姉妹の壁越えちゃう!? 越えちゃう!?)」

「本当!?」


 言いながら、ルーナが両手でクリスの両胸を鷲掴みにした。


「ちょ、こら……(ひゃうっ! ルーナ!? いきなり!? いきなり越えちゃいますの!? なんて容赦ない妹! 可愛い!)」

「ドキドキは分からないけど、お姉ちゃん育ったね(柔らかーい! リリちゃんだとこんなに膨らんでないから、揉んでもつまんないけど、お姉ちゃんのは楽しいなぁ!)」


 うにょん、うにょん、とルーナは一切の容赦なくクリスの胸を揉みしだいた。


「ちょ、ま……だめ……ですわ……(はぅぅ! 実の妹に! 実の妹にぃぃ! てか揉むの上手ですわね! まさかあのメスブタといかがわしい遊びをしているのでは!?)」

「よし、私先に洗うね(揉むの飽きちゃった)」


 ルーナは唐突に揉むのを止めて、浴槽から出た。


(えぇぇ!? 終わりですの!? もう終わりですの!? なんですのこれ!? お預けですの!? あたくし、トロトロでヤバいから出るに出れませんけれど!?)


 クリスはとっても残念に思った。

 ルーナは髪の毛を結んでいないので、肌にペッタリと張り付いている。

 そして、浴槽を出た時にルーナの痛々しいお尻がクリスの目に入った。


(だ、誰ですの!! ルーナの可愛いお尻をデコボコにした愚か者は!! って、それあたくしですわ!! だってルーナが全然、言うこと聞いてくれませんものぉぉぉ!! お父様、お母様、ぶっちゃけあたくし、ルーナを躾ける自信がありませんわぁぁぁあ!!)


 学校を追い出されるレベルのわんぱく少女である。クリスの手には余る。

 それでも、パーカー家の女子として恥ずかしくないようにと厳しくしたのだ。あまり効果があったとは思えないが。


「そういえばルーナ」クリスが言う。「もう勝手に冒険に行ってはいけませんわよ?(行くならちゃんと、あたくしの許可を得てからですわ)」


 クリスは冒険を禁止する気はない。どうせ魔女とクリスで覗きという名の見守りを行うのだから安全だ。

 要は、勉強やら何やらをキチンとこなし、許可を得て欲しいだけ。


「行かないよー(えへへ、行くけどね!! お姉ちゃん絶対にダメって言うから、黙って行くんだけどね!)」


 ルーナは髪を洗っている。


「そうですの……(あれ? これまた黙って行くパターンですの!? あれだけお仕置きしたのに!? 効果なさすぎてもうお仕置き止めようかと思ってますわ)」

「うん。てか、お姉ちゃん洗ってあげるよ?」


 ルーナは髪を洗い終え、クリスを見て言った。


「い、いえ、大丈夫ですわ(ルーナのせいでトロトロだっつってんでしょうが!)」

「えー? 洗うよ? 髪も身体も丁寧に洗うよ?(いつもなら、出てくるのに。どうしたんだろう? 何か隠してるのかなぁ? うんこ漏らしたのかなぁ?)」


 言いながら、ルーナは自分の身体を洗い始める。

 専用の布を石けんで泡立てて、優しく肌を拭くような感じで。


「そ、それは困りますわ(バレちゃう! 実の妹におっぱいグニャングニャンにされて気持ちよかったのバレちゃいますわぁ!)」


「何も困らないよ!(何か隠してるなら暴いてやるぅ! 漏らしたならお姉ちゃんにお仕置きしてやるぅ! えへへ!)」


 何気に、モニカの教育の成果が出ているルーナだった。


「ち、違いますわ。その、今日は自分で洗いたい気分ですわ(今の状態で丁寧に洗われるとか!! ある意味拷問か! 姉妹の壁ブレイク寸前ですわ! あんまりしつこいと押し倒しますわよ! あたくしの理性があるうちに、諦めなさいな!)」

「じゃあ、お姉ちゃんが私の背中流してくれる?(とりあえずお姉ちゃんを湯船から出してみよう)」

「それなら、まぁ、いいですわよ」


 クリスはゆっくりと湯船を出た。

 ルーナはとりあえずクリスの裸を眺めたが、特に変わった部分はない。


(なんかジッと見られてますわ! はっ!? まさか実はルーナもシスコンですの!? そういえば、色々と思い当たりますわ! 間違いない! あたくしたち、両思いですわ!)

(やっぱり湯船が怪しい。お姉ちゃん自身には何もなさそう。よぉし)


 ルーナはサッと動いて湯船を覗き込んだ。

 しかしそこには何もない。お湯だけである。


(お姉ちゃん、うんこ漏らしたのかと思ったけど、そんなことはなかった!)

(え? どうしましたのルーナ? 突然湯船を覗き込んで)


 クリスは困惑した。


「さ、お姉ちゃん洗って」


 ルーナは何事もなかったかのように背の低い風呂用の椅子に座った。


「え、ええ。ところで今の動きは何でしたの?(気になりますわ!)」

「何でもないよ(お姉ちゃんがうんこ漏らしたと思って調べたって言ったら怒るよね? どうしよう? 怒らせようかな? お姉ちゃん怒ったら可愛いからなぁ)」

「そうですの(もしかして、深い意味はありませんの? ルーナの行動は謎が多いですわ)」


 クリスは自分の両手を石けんで泡立てて、素手で優しくルーナの背中を撫で回す。


(まぁ、今はルーナの柔肌を楽しむとしますわ!! ふふふ! 変態魔女め羨ましいですの!? ねぇ羨ましいですの!?)


 クリスは虚空を見上げ、ニヤリと笑った。



「ああああああああ!! 羨ましいわぁぁぁぁぁぁ!!」


 魔女は水晶に映ったパーカー姉妹のお風呂模様を見ながら叫んだ。

 当然だが魔女は全裸でベッドの上だ。


「ルーナのお姉ちゃんになりたいわぁぁぁ!! クリちゃんのあの『羨ましいか変態魔女』っていう表情がムカつくわぁぁぁ!! てか覗いてるのバレてて笑えるわね!!」


 言いながら、魔女は水晶をクルッと回転させる。

 水晶は宙に浮いていて、魔女は指を動かしただけで直接水晶に触れてはいない。

 それでも水晶は回転し、次にリリアンの姿を映した。

 ちょうど、リリアンは近所のお風呂屋に到着したところだった。


「ふふ、ボーイッシュ美少女のお風呂模様も精一杯覗くわよぉぉぉ!!」

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