12話 次の冒険のために!
ルーナ・パーカーは庭でカエルを捕まえた。
あまり大きくない、緑のカエル。アマガエルという種類だ。
ルーナは右手の親指と人差し指でカエルを摘まんで、庭の掃除をしているメイドの元へと走った。
「がおー! 殺人ガエルだぞぉ!」
ルーナはカエルをメイドの顔に近づけた。
メイドはビックリして飛び上がる。
その姿が面白くて、ルーナはケタケタと笑った。
「お、お嬢様!? またそんなゲテモノを捕まえて!」
「あはは! あげるー!」
ルーナはカエルをポイッと投げた。メイドの方に。
メイドは慌てて横に飛んでカエルを避けた。
カエルは上手に着地して、何事もなかったかのようにどこかへ逃げた。
そしてルーナはメイドの元を去る。
(ああ、お嬢様の笑顔は天使!! まさに天使!! 可愛い!! 愛しい!! 美しい!! カエルを投げつけてこなければ! って、あれ? お嬢様はなぜ外に? クリス様が仕事から戻ったら報告しなきゃ……)
メイドはそんなことを考えてから、掃除に戻った。
ルーナは自分の部屋の真下に移動して、手袋をはめる。
そしてロープを伝って自分の部屋に登った。実は外出禁止中なのだ。勝手に無人島に行ったことへの罰はいくつかあって、外出禁止はその1つだ。
ルーナはクローゼットを開けて、お遊びセットに着替える。リリアンと遊ぶ時の、汚れてもいい服のこと。
茶色を基調とした布製のシャツとズボン。それからブーツ。初夏だから屋敷では半袖にスカート姿なのだが、汚れてもいい服は長袖だ。
どうせ森に入ったり秘密基地に行ったりするので、肌を守るために長袖の方がいい。
「ヒラヒラした半袖とかで森に入るバカは、ケガして泣けばいい。昔の私みたいにね!」
ルーナは一人で楽しそうに言った。
そして服の上から毛皮のマントを羽織った。
このマントはルーナとリリアンが無人島で狩った鹿の皮だ。それを丁寧になめし、マントに加工したのだ。
ルーナはロープを伝って外に出て、屋敷を囲む塀の側まで移動。
助走を付けて塀の上に手をかけて、サッと登る。
「ルーナ! 時間通りだな!」
塀の外で待っていたリリアンがルーナを見上げて笑った。
「ふっ、私に外出禁止など効かないのだぁ!」
ルーナは自慢気に言ってから飛び降りる。
「こっちは?」
リリアンがルーナの尻をバシンッ、と叩いた。
「あぎゃぁぁぁ!!」
ルーナが変な声を上げて飛び上がった。
「ご、ごめんルーナ」リリアンが驚き、慌てふためいて言った。「そ、そんなにダメージ受けてたなんて知らなくて……」
「百叩きとか、正直どうってことないんだけどね? でも反省してる振りして嘘泣きしてたら、バレて棒鞭で10回も叩かれたの。追加でだよ? さすがの私も死ぬかと思ったよ。あれはもう武器の領域だよ。久しぶりに本当に泣いちゃった」
それが昨日の午前中の話。午後はマントを作っていた。
「だ、大丈夫なのか?」
「うん。お姉ちゃんが薬塗ってくれたし。お姉ちゃん本当鬼畜可愛い」
「か、可愛いのか? あたしは怖いだけだけど……」
「えー? お姉ちゃんすぐ怒って可愛いよ? えへへ。どんどん怒らせたくなっちゃう」
「ルーナって割とあれだよな、性格あれだよな(悪いってことはないんだけど、面白いというか、変というか、あたしじゃ上手に説明できないな)」
「そう! あれなの!(私の性格が可愛いとか、素敵とか、そういうことでしょ? もぉ、ハッキリ言ってくれていいのに。照れ屋さんなんだから)」
二人はとりあえず手を繋ぎ、魔女の家の方へと歩き始める。
「ところで、そのマント超カッコいいじゃん!(ルーナによく似合ってる。ルーナ見た目は可愛いけど中身は野獣だし)」
「でしょ! 頑張って作ったの! あとで貸してあげるね!(きっとリリちゃんにも似合うよね。リリちゃん中身はチョロいけど、見た目は強そうでカッコいいし)」
ちなみに、皮はルーナが持って帰ったが、肉のほとんどはリリアンが持って帰った。
ゴブリンの頭蓋骨は、リリアンが昨日のうちに秘密基地に持って行って飾ってある。
鹿の頭部もリリアンが持って帰って、現在は肉を落としている最中。綺麗な頭蓋骨にして、それも秘密基地に飾る予定だ。
◇
魔女の家。
「がおー! 野獣ルーナちゃんだぞぉ!」
魔女が玄関を開けた瞬間、ルーナが両手を広げて魔女を脅かした。
(な、なんて可愛いのかしら! 抱き締めたいっ!)
「魔女さん秘密教えてやるよ」リリアンが言う。「ルーナって実は外出禁止なんだぜ!」
「がおー! 外に出れないルーナちゃんだぞぉ!」
「そ、そうなの?(この子たち、外出禁止の意味知ってるのかしら? 可愛いからどうでもいいけども)」
「野獣ルーナがひとたび野に放たれると!」リリアンが深刻な表情で身振り手振りする。「人々は喰らい尽くされ!! 世界は暗黒に満ち!! そして人々は奴隷にされるのだぁ!」
(人間は食べられるのか奴隷にされるのか、どっちなの!? ああ、でも一生懸命そんな意味不明なことを言うリリアンが可愛く、そして愛しく、舐めたい。ペロペロしたいわ。真剣に。全身を。念入りに)
「がおー! それが嫌なら、早く新しい冒険の用意をするのだ魔女よー!」
「するのだー!」
ルーナとリリアンが同時に魔女に抱き付いた。
魔女は嬉しさの余り、少し漏らした。でもそれは当然、秘密だ。
「そ、それじゃあ、そうねぇ。同じ島に道具なしとかは?(美少女柔らかい。美少女いい匂い。押し倒したい。性的な話よ)」
「それは難易度高すぎるからまだ無理だよぉ?(魔女さん、現実見てよ。さすがに無理でしょ? そりゃ妄想の中じゃできるけどさ。高難度サバイバルのことだよ?)」
「それに、そんなの手抜きだぞ。ちゃんと新しい場所探してくれよ(面倒だからっていきなり押し倒したら犯罪だろ? それと同じ。ちゃんと手順ってものがあるんだからな? 冒険訓練の話だぞ?)」
「分かったわ。まずロケーションを選んで。砂漠、荒野、山、河、街、廃墟、森とか、そういうのね(その全てで美少女といいことがしたいわ。今はルーナとリリアンに夢中よわたし。犯したいわ)」
「「廃墟!!」」
二人の声が重なった。
「了解。いい感じの廃墟を探しておくわね。レベルアップだし、魔物が出てもいいわよね? それと、道具を減らすことね」
「「はぁい!」」
二人は嬉しそうに返事をしてニコニコと笑った。
そして魔女から離れる。そう、この二人はずっと抱き付いていたのだ。その温もりが消えてしまい、魔女は心底ガッカリした。
「はぁ……(永遠に美少女の温かさに溺れたいわ)」
魔女が溜息を吐いたので、ルーナとリリアンは顔を見合わせた。
(ねぇリリちゃん。魔女さん困ってるのかな? 先にお礼しとく? ちゅーとか)
(分かるぞルーナ。あたしと早く二人きりになりたいんだろ? でも魔女さんはあたしら好きだから、なかなか帰してくれない。だから魔女さんにバイバイのちゅーでもして、喜んでいる間に去ろうってことだろ?)
二人はコクンと頷いた。
まったく気持ちは伝わっていないが、結果としてやることは同じだった。
「魔女さん魔女さん」とルーナ。
「ちょっと屈んでくれ」とリリアン。
「あら? なぁに?」と魔女が屈む。
「「いつもありがと、魔女さん大好き」」
二人は魔女の頬にキスをした。ルーナが右でリリアンが左。
(リリちゃんと冒険の次だけどね!)
(まぁ、ルーナと冒険の次にな!)
でも魔女に媚を売っておいて損はない。
次の冒険のため。次の次の冒険のために。
「はぅぅぅ!(美少女が何もないのにキスしてきたぁぁ!! これ両思いじゃないの!? やれる!? これやれる!? 街にいられないとか、もうどうでもいいわ! やりましょう! ええ! 即! やりましょ……)」
「じゃあね魔女さん! なるべく早く探してねー!」
「じゃあな!! また遊びに来るぜ!」
ルーナとリリアンはすでに魔女から離れ、手を振っていた。
「え、ええ! 魔女のお姉さんに任せなさい!(くっ……だがまだチャンスはある! 急いで次の冒険を見繕ってあげるわ!)」
ルーナとリリアンは、嬉しそうな魔女の表情を確認してから、森に向かって駆け出した。
森には二人の秘密基地がある。
それにしても、と二人は走りながら同じことを思った。
((魔女さんってチョロいなぁ))
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