言葉のない夕暮れ、夜の魔法(15分間でカクヨムバトル)

春嵐

01

 わたしは。


 喋れなかった。


 声が出ない。喋れるときと喋れないときがあって、今は、喋れないほう。


 夕暮れ。


 海岸線沿い。ビルの屋上。


 夕陽を、眺めていた。


 喋れないから生きていけないなんてこともなくて。普通に、日々は進んでいく。普通の生活。普通の人生。


 地平線に、ゆっくり近付いていく、夕陽。あんなふうに。今この屋上から、わたしも飛び降りてしまおうか。


 喋れないわたしは。きっと静かに、なにも言うことなく、落ちる。海にぶつかっても、やっぱり、音はしないんだろうな。


 わたしの人生も。


 この夕陽のように、暮れてきているのかもしれない。


 夜の予感。ゆっくりと、静かに。やわらかく、わたしを包む。


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