西方の大砲手
006
SSSランクパーティ【
パーティに所属していた頃は「悪い方の裁縫師」等という忌々しい悪名がついていたが、現在の通り名はそれより酷い。
「……おい、パーティ崩壊クソ地雷が来たぞ」
「げっマジかよ? うわ、本当にパーティ崩壊クソ地雷だ……」
パーティ崩壊クソ地雷。
直球の悪口だ。
「あれだけの事を引き起こして、よくもまだ冒険者ができるよな」
パーティの要であった「良い方の裁縫師」ことヨイシアの違法な追放。
それによるパーティの崩壊。リーダーは利き腕を失って引退。
冒険者界隈では悪評も広まり切って、どこのパーティでも門前払い。
それだけならまだ良い方だ。生産職のワルメアには、冒険者ができなくとも本業がある。
しかし、それは本業の裁縫師としても同様だった。
若く実績のない裁縫師など、どこかの工房に所属しなければ仕事が貰えるはずもない。
それならまだ、ソロで冒険者をする方がマシだ。
「……私の、何が悪かったってのよ」
かつて【翠鳳の警報】に所属していた他のメンバーの大半は、新たなパーティを再結成した。
その名も【
飛び抜けて強かったリーダーはもういない。ヨイシアの作った能力補正付きの装備も、あの冒険の前に、ワルメアの指示で燃やしてしまった。
ランクは実力相応のCランクで安定感もない、ありふれた新興パーティだ。
また、【水泡の恵宝】にとっては、
彼は
回復魔法の使える魔法士が、正当な理由もなく、高性能なヨイシアの法衣の装備を行わず、結果として本来ならば救えたはずのゴメスの腕を喪失することになった――そんな多少無理筋の訴えだった。
これは特にシャンが恨まれていた訳ではなく、利き腕を失ったゴメスが生活していくための資金として、法的に賠償金を取りやすかったためでしかない。職によってはワルメアや、他のメンバーが同じ目にあっていた可能性もある。
現在のシャンは今は色々と反省し、ヨイシアへの追悼の日々を送っていると報があった。
ワルメアも新パーティ結成時に勧誘を受けたが、彼女は参加を断った。
その時は冒険者を引退して、裁縫師一本で生きて行こうと思っていたのだ。まさか、裁縫師としての仕事が得られないとは、思いもよらなかった。
後から仲間に加えて貰おうと思った時に
は、新しいパーティには既に
Eランクのソロ冒険者が受けられる仕事は、かつてワルメアが切望した冒険とは程遠い物だった。
「大きい穂を実らせなさいよ」
ある時は水稲への追肥を。
「ロン。対々和ドラ3です」
ある時は違法賭博の代打ちを。
「ヘイヘイホー……ヘイヘイホー……」
ある時は材木の採捕を。
そうして、ワルメアがどうにか糊口を凌いでいたある日のことだ。
「裁縫師のワルメアさんですね。メン募を見たんですけど」
<当方裁縫師、全パート募集>
駄目元で掲示板に貼っていたパーティメンバー募集の貼り紙に、ある冒険者パーティから反応があったのだ。
初めて見る面々だと思ったが、聞けば、彼らは北方から来訪した冒険者パーティだという。
「優秀なソロの裁縫師の情報が、
「あ、あはは……それはどうも……」
ワルメアにも、それが自分ではなくヨイシアの方だろうとは想像がついた。
ヨイシアがソロ冒険者だった頃から十年までは経たないが、相当前の情報ではある。北方は遠方なので情報が届くのも遅い方なのだろう。
「それで、今回はどのダンジョンを目指すの?」
笑い方を忘れかけていたワルメアは、多少ぎこちないながら、笑顔で尋ねる。
北方からの来訪者、新たな同朋らは答える。
「はい。やはりここに来たからには、最高峰と名高いあのダンジョン、霊峰ハイホウに挑もうかと」
ワルメアの表情が、作り笑顔のままで凍り付く。
ワルメアを含めたそのパーティは万全の準備をして霊峰ハイホウに挑んだが、それまで情報になかった「大砲」で武装した魔物達によって潰崩し、
その時に大砲に魅了されたワルメアは単身、大砲の製法があるという西方に渡り、その地方の大砲工房で火砲の工法や用法、
心根は意外と熱い方だったワルメアは時に、つい法を犯して逮捕をされることもあったが、無事解放されーー裁縫師よりも
優れた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます