今宵、ロレンツィ家で甘美なる忠誠を 恋のはじまりは銃声から

深見アキ/ビーズログ文庫

プロローグ

プロローグ


 混沌の街ネザリエ潜伏せんぷくさせていたちょうほう員からの一報は、青年の興味を強く引いた。


 うすく暮れはじめた窓の外からは、甘く、さわやかなレモンの花の香りがする。

 ここよい風がカーテンをらし、アンティークの家具でくされたしつ室に初夏のおとずれを告げていた。

 執務机の上にはランプがともされ、一枚の報告書を照らす。

 日時と場所。とある人物の身体的特徴とくちょう

 ほんの数行足らずの内容に何度も視線を走らせた青年は、やがて机の横に置かれた受話器を持ち上げた。美しいほほみを口元にかべ、自分よりもとしかさの通話相手に向かってほがらかな声を出す。

「――ああ、どうも。大至急、ネザリエ行きの往復の船を押さえてもらえるかな。ええ、 もちろん今すぐ・・・です」

 

友好的な、しかしきょすることを許さない口調に、通話相手の答えは「Siはいいったくだ。 ちょうどそのタイミングで部屋のとびらがノックされ、呼び出しておいた腹心が顔を出す。

 

 あわただしい夜が幕を開けようとしていた。

 

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