第5話 タイマン前にイチャイチャ見せつけるとオジサン怒ります
立国川高校から徒歩数分、橋を越えた場所に六森という雑木林がある。
林の中にはアスレチックやトイレも設置されており、本来子供の遊び場であるのだが、林の中は日が差さず、墓地が隣接し、人が近寄りがたい場所である為、いつしか不良達の溜まり場と化していた。
高校を中退した棟田もその事を知っており、タイマンの場所を六森に指定してきた。
林の中に入ると、近隣の中学の制服を着た、場にそぐわない三人の美少女(?)が待っており、俺の姿を見るや否や、俺のところへ駆けつけてきた。
この三人は、彼女らの友達が暴走族にレイプされたのが許せず澪の紹介で麗の仲間入りした中学生のメンバーであった。
「この子達って澪が呼んでくれたの?」
「そうっスよ。この辺の喧嘩スポットといえば六森しか無いんで、予め来て貰いました」
後から知ったのだが、六森は不良達の間でタイマンの聖地などと呼ばれているらしく、澪もここで何回か近隣の中学のトップとタイマンを張っていたらしい。
蛇足ながら、澪が市内の中学全てのトップをシメたのは言うまでもない。
「武先輩! お久しぶりです!」
吾妻香月……吾妻君が俺の左腕に抱き着くと
「あーっ! カズ君ったら抜け駆けしてずるい! アタシにも武先輩を別けて!」
そう言って三人娘のリーダー格であるギャル風美少女、
「受験中は先輩に会えなくて寂しかったんですよぉ~」
香織はそんな事を言いながら胸を押し付けるようにして俺の腕を抱く手の力を強めた。
年齢相応の慎ましい胸とはいえ、喧嘩前にそんな柔らかいものを押し付けられたら色んな意味で危険なのだが。
「ボクもボクもおっ! 武先輩成分が足りなくて萎れちゃうところでしたよぉ~」
なんじゃその怪しげな成分は?
俺の疑問はとにかく、麗の中学生組でも見た目は断トツの美少女である吾妻君が俺の腕に長い睫毛がかかる瞳を閉じて猫のように頬摺りをしてきた。
そんな二人の様子を見て、中学生組、というかほぼ女だらけのチームである麗の中でも最大の巨乳の持ち主である大友静江……静江は頬を赤らめながら二人の間で視線をキョロキョロと動かしていた。
「オレの小碓クンは皆の小碓クンだろ? というわけでオレにも小碓クンをよこせ」
矛盾した発言を平気でしながら、澪まで胸をクッションにして俺の後ろからぶつかるように抱き着いてきた。
俺が困っていると、棟田はイラついた様子で痰を吐いた。
「このアマども! 小碓の後輩だか誰だか知らねーけど、ここは今から立ち入り禁止だ! さっさと他の処へ行ってこい! じゃなきゃ犯すぞ!」
すると吾妻君はわざとらしく怖がるように言った。
「武先輩助けてぇ~あのキモチワルイ粘着そうなオジサンに犯されちゃうよぉ~」
いや、君を犯すってどうやってやるんだ?
世の中にはそういう嗜好の方もいらっしゃるらしいが、麗衣のパンチラで夢想する、極めて健全な俺には想像もつかなかった。
「カズ君。きっとこのオジサン、武先輩が女の子三人からモテモテだから嫉妬しているんでしょ? 年寄りの僻みって怖いよねぇ」
香織が吾妻君に合わせて言うと、澪まで畳みかけるように続けた。
「そうだよなぁ。いくらモテないからって、オジサンの嫉妬程醜悪で見苦しいものはないよなぁ~」
女三人寄れば姦しいとは言うが……、いや、この場合、微妙にこの諺は正しくないか。
それはとにかく、俺と同じ歳でオジサン呼ばわりされた棟田は額に血管を浮かび上がらせ、女子であろうと殴り掛からんばかりの物騒な雰囲気を醸し出していたが、何か良いことでも思いついたのか、一転して嘲るような笑みを浮かべながら言った。
「見る目がねぇガキどもが。どうやってコマされたか知らねーけど、コイツがそんなに良い男だとでも思っているのか?」
そして棟田は俺に指をさしながら続けた。
「コイツのあだ名知っているか? サンドバッグだぜ! 毎日俺に腹殴られていたサンドバッグ野郎だぜ。女にも苛められて反論できないで半泣きしていたチキンだぜ? そんなダッセー野郎だぜ? 如何だ? 幻滅しただろ! ハハハハハッ!」
在りし日の俺を思い出したのか? 棟田が笑いだすと、香織はまるで棟田をゴミを見るかのような目で言った。
「うわぁ……苛めを嬉々として語るなんてサイテー」
「あ? 普通、そんな雑魚サンドバッグに失望するだろ?」
思っていた反応と違ったのか?
やや棟田が焦りの色を浮かべているのを尻目に、澪が俺の頬に軽くキスした。
ひやあっ!
慣れない柔らかい感触に俺が声に声にならない声を上げると、俺を抱く腕の力を少し強めながら澪は言った。
「そんな話ならとっくの昔に小碓クン本人から聞いているぜ。でも、アンタは小碓クンにぶちのめされただろ? 苛められていた相手に拳だけでやり返すなんて中々出来るものじゃねー。オレはその話を聞いた時、ますます惚れたけどな」
俺を貶め、彼女らを失望させるつもりが、それどころかキスという形で俺に対する親愛の深さを見せつけられるのは想定外だったのか? 棟田は唖然として言葉も出ない状態だった。
そんな様子の棟田を意地悪そうな視線を向けながら、吾妻君が続けた。
「そうですよ。美夜受先輩がきっかけを与えてくれたのかも知れないけれど、苛められなくなったのは武先輩自身が努力して、強くなったからです。だから武先輩は格好いいんですよ」
吾妻君の台詞に少し目頭が熱くなりかけたが、軽く俺の肩にキスをしてきたので一気に感動が覚め、粟肌が立った。
「皆ありがとう。でも、今は関係無い。前のタイマンで棟田が納得いかないって言うなら、何度でも叩きのめしてやるまでさ。だから少しだけ離れていてくれないか?」
すると、三人は素直に俺の言うことを聞いて、俺の体から離れた。
「はい! 少しだけ離れるけど、あんな奴すぐにやっつけちゃってくださいね!」
「いや、吾妻君。喧嘩終わったらまたくっ付くつもりかよ……」
「武先輩! 終わったらこの後デートしましょうよ♪」
俺の顔を覗き込むようにして香織は悪戯っぽく言った。
「悪いな香織。この後、風邪を引いた麗衣の家にお見舞いに行く予定なんだ」
「じゃあサクッと終わらせて、皆で麗衣先輩のおうちに行きましょう」
「ああ。分かった」
「後でお尻触らせてください!」
「……待たせたな。じゃあやろうか棟田」
澪の何時ものセクハラ発言は無視して、俺は棟田にタイマンを始めることを促した。
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