2章

第1話

 7月26日


 世界にモンスターが出現してから107日目。


 日本時間 AM09:13


 世界は再び、巨大な揺れに襲われた。

 今回の揺れは前回よりも長く11分程度続いた。


 後に第2次ダンジョン災害と呼ばれることになる、2度目のダンジョン進化であった。



 世界中の海に漂流する島が現れ、空にも浮遊する島が現れたのだ。


 海の方は、ぶつからなければ害のない島と一定距離に入ると攻撃してくる島の2種類が確認される。これにより、多くの船が沈むことになった。


 空の方は、全ての島が一定距離内で強力な攻撃をしてくることが確認された。そのため海以上に大きな被害が出ることになった。


 陸上にあるダンジョンは外から見た変化は起きていない。



 ダンジョン進化の内容は、ダンジョン内がさらに広くなったこと、つまり各階層の広さだけでなく階層数の増加である。さらにはモンスターの増加と強化である。浅層ではモンスター数が5倍ほどに増加しているが、ダンジョンが広くなっていることが原因かは不明である。


 問題は、同じ種族で同じレベルのモンスターであっても、1次成長ダンジョンと2次成長ダンジョンでは、単純に強さにおいて2倍ほど差があることだ。


 もしも善戦していた相手がいきなり倍の強さになったとしたら?


 モンスターの数が増え強化された結果、ダンジョンから帰還できない者が増加した。成長したダンジョンに入っていたとはいえ、そのダンジョンがいつ成長したものかどうか判別できる者はそういない。

 生還できた者と出来なかった者の違いは、実力は当然のこと運も大きく影響していた。



 モンスターに関する事で一番大きな変化は、モンスターが実体化したことであった。これにより血飛沫などが苦手な者の多くがショックを受けたが、そんな事は些事であった。


 これまではモンスターを斃せば魔石が確定ドロップしていたが、2次成長ダンジョンでは、モンスターを斃しても解体しなければ魔石が手に入らなくなったのだ。

 勿論、解体する事でモンスターの素材を入手できることになったわけだが、生々しい肉や血液などに怖気や嫌悪を感じる者が大半を占め、死体を焼却し魔石を得るかそのまま魔石や素材を諦める者、1次成長ダンジョンでしか活動しない者と、住み分けが明確になった。


 それでも、ダンジョン活動人口としては2次成長ダンジョンが大人気である。その最たる理由は、今まで背景同然であった植物や鉱石などの採取が可能になったからだ。


 早い話がゴールドラッシュが起こったのだ。


 職業でいえば生産職が一番歓喜し、次いで研究者や好事家こうずからがダンジョン産の珍品に殺到した。当然、企業や国も魔石以外の資源を入手できる事が可能となり、大注目している。



 何よりも世界を騒がせたのは、ステータス画面に表示された内容であった。


 ”これより120日後、売買システムの【買う】にある物は全て1000倍のSPが必要となります。”


 これには薫も驚いた。

 理由は簡単で、この時点で薫はダンジョン内で素材が獲得できるとは知らなかったからである。薫が考えたことは、従魔のお小遣いを千倍の1億SPに増額するかどうかであった。


 薬を沢山ストックしている薫と違って、巷では薬の高額化が確定したことでダンジョンアタックに悩む者たちで溢れかえった。これまでのように気軽に購入し使用すれば、赤字も有り得るのだから当然だ。さらに装備類の更新や日常生活へも大きな不安を与えるのであった。



 一次産業従事者にとっては明暗が分かれる事になった。農業や畜産業は、これまで売買システムでは食料品が格安で提供されていたことで、廃業を考えていた者たちも継続する事に意欲を見い出すことが出来たからである。林業は技術伝承・保護だけとなる。

 また、漁業の方は危険な海となってしまったことで、近海での漁さえも減少傾向となってしまっている。


 他方、製造業は大わらわである。只でさえマンパワー不足なのに部品や機械の注文が殺到しているのだ。

 新人族化して作業する側のスペックは上がっても、既存の機械を使用した製造スピードが直ぐに上がる分けもない。機械のスピードアップを図るにも設計や部品から見直しが必要なのだから。


 何よりも、新人族化した者が探索者へ転職する事案が増加したことと、探索者に強い興味を持つ若者が増加している事が経営者を悩ませている。

 これは、探索者が自分たちの活躍を撮った映像を配信し、人気を博すようになったからだ。モンスターを退治する場面だけでなく、ダンジョン内の美麗な景色や幻想的な雰囲気は、スケルトンハウスしか体験したことがない層の心を掴んだことが大きい。


 食品工場DXは当初から1年後に稼働停止予定と発表されている。これは、食料品としては栄養もあり問題ないが、かなり味気ないために自活できる者たちからは敬遠されるようになったことが大きい。

 政府としては、国内の食物生産が軌道に乗り次第、非常時用として温存する方針である。


 日本政府は大きな買い物をほぼ終了していたために、今後の薬の確保と提供方法や新資源の取り扱いについて対応策を議論することになったが、広大な国土を持つ国は頭痛の種が増えたことで苦心していた。

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