第122話
5月30日
世界にモンスターが出現し始めてから51日目。
この日、日米露の関係者が如月家を訪れていた。彼らが訪ねて来た理由は、高度400kmに存在するものに関する事であった。
話を聞くと、世界にモンスターとダンジョンが発生した前日にISS(国際宇宙ステーション)に新たなステーションクルーが到着したそうだ。引継ぎ作業などもあり直ぐに入れ替わりで帰還するわけではないのだが、地上とのコンタクトが取れなくなったことで、予定通り帰還しても良いものか6人で相談し合った結果、コンタクトが取れるまで帰還しないことにしたそうだ。
なんでも、地上に帰還しても回収して貰わないと自分たちでは満足に身動きが取れない為、最悪餓死などの可能性があるために帰還作業を見送っていたらしい。
ようやく地上とのコンタクトが可能となったのは、5月の初め頃であったそうだ。ISSクルーが無事であったことに関係者らは安堵したそうだ。それから直ぐに、3人のクルーは無事に地上への帰還を果たした。だが、ISSに滞在する事になった3人は、いつダンジョン化するかもしれない場所で研究など出来る精神状態になく、可能な限り早期の帰還を望むようになった。
ISS滞在クルーは米露出身者のため、両国は新たに手に入れた[乗り物]を用いて救出を試みたが、高度100kmが限界らしく[乗り物]による救出計画は破棄された。更に残念なことに、帰還に使用した宇宙船をメンテナンス出来る設備がダンジョン化で使用不可のため、次回打ち上げられる期日も不明だ。期待を掛けられたコスモスXも、肝心の施設がダンジョン化しておりクルーの救出は手詰まりの状態となっているそうだ。
ここで、日本が絡んでくる。
世界でも稀にみる復興を始めた日本。新人族を探索者としてダンジョンの攻略や魔石の獲得に活用し始めたことは、世界の知るところとなっている。
もしかしたら日本のHTVが使用できるのではないかと。
しかしその期待は見事に打ち砕かれ、途方に暮れる事になった米露。日本の施設も例に漏れずダンジョン化しているためだ。
そこに再び希望の光が灯る。ダンジョン化した国会議事堂からの救出作業に居合わせた職員から、如月薫は瞬間移動が使えるという情報を入手したからだ。その結果、一縷の望みを託して薫に会いに来たという訳である。
~~~~~
確かに薫は瞬間移動を使える。薫は現在レベル66で、スキルレベルが上がるたびに改造をしっかり行ってきた甲斐もあり、瞬間移動レベル5で移動距離7万3483.2km、消費MP67、移動可能人数16名となっている。
大地図や大用心は、レベル50時にレベルMAXまで上げてしまったので9069万9264kmとなっている。
しかし、薫にはスキル削除というものがある。試しに自分の持つ清浄スキルを削除してみたところ、スキルポイントが戻って来て再習得も可能となっていたので、再習得した。
つまり一度削除して再習得すれば、改造スキルの効果が高い今ならば大地図などの範囲をもっと広げることも可能であるし、ステータス上昇系スキルも同様に効果を上げることが出来る。
だがしかし、現在必要性を全く感じない薫は、そんな面倒くさいことはしないのであった。スキル操作やアーツもそれなりに習得したことと、モンスターと直接戦闘をしていないことでやや慢心傾向にある薫。
なお、自身の職業スキルは削除できないことも確認した薫であった。そのスキルとは、空間拡張と空間収縮だ。どちらも似たようなもので、どちらかロストしても困らなかったからである。
当然他人のスキルを削除した場合も確認する事を忘れない薫は、春香に槍術スキルを覚えてもらってからスキル削除を実行した。
その結果、春香にはスキルポイントが戻らなかった。また春香の場合、ステータス画面だけでなくスキル画面からも槍術スキルが消えていた。
次に薫が試したことは、春香に槍術のスキルオーブを使用してもらい習得できるかどうかであった。こちらは無事に習得することが出来た。
スキルを習得するには相性があることは分かっている。それは、習得時のスキルポイントの多寡で分かる。これは探索者登録した者全員に公開されている情報であるし、SNS上にもそれなりにある。
春香は槍術を習得するのにスキルポイントを3消費した。これは一番少ないポイントである。支援系や生産系の職業になると6~9ポイント必要になる。それ以外になると10倍以上のポイントが必要になったり習得できない。
以上のことから、やはり敵は確実に消すのが一番安全だと確信した薫であった。薫は自分のようにスキルオーブを沢山所持している人物がいないことに気が付いていない。
~~~~~
人命救助を依頼された薫には3つの選択肢がある。
1つは自分で出向いてクルーを助ける。
1つは迷宮化防止結界を設置する。絶対隷属眼の元になった精霊眼と究極空間収納(∞)を持つ薫には、その場に行かなくとも簡単に実行できる。この場合は、食料等とクルーの精神状態が問題となる。
1つは依頼を受けない。
そこで薫は条件を出した。クルーの救出と迷宮化防止結界を設置するかわりに、報酬はお金やSPではなく、米露にあるダンジョンをいつでも好きな時に討伐できる権利である。
今やダンジョンは危険を孕む災厄であると同時に、SPの獲得や魔石というエネルギー資源の宝庫であり、新人族が強くなるためには必須の場所でもある。
だがしかし、ダンジョンの数は全てを把握できないほど無数に存在しており、日々新たなダンジョンが発生している状況だ。目の前の少年がそれを潰してくれるというのだ。米露側は本国の了承をすぐに取り付けた。
薫にはISSの位置など簡単に知ることが出来た。上空400kmを高速で移動する緑の点の塊を見つけるのは実に容易かった。
薫は米露それぞれから、自分が救出に来た新人族であることを証言させた映像の入ったスマホを受け取ると、一瞬でISS内へと移動した。
突然現れた闖入者に驚き目を瞠る3人のクルー。だがしかし、声を上げたり取り乱す様な事はなかった。流石は選ばれし者たちである。薫が少年であったことも影響したのだろう。これがゴブリンなどのモンスターであった場合、かなり違った反応であったに違いない。
薫は英語で簡単に自己紹介をすると、スマホの映像を見せた。3人のクルーは安心したのか、無自覚に疲れた顔を薫に見せた。
如月家で待っていた者たちにとって薫は、本当にあっという間にクルーを連れて戻ってきた少年という印象であった。
日米露関係者が帰った後、薫は確認作業を行うことにした。
[乗り物]である隠密烏の性能を再確認することだ。果たして高度100kmが限界だと聞いた情報が正しいのかを。
薫が試した結果は、ISSへも簡単に辿り着くことが出来た。隠密烏には問題ないことを確認した薫は、米露が使用した同じ[乗り物]を所有する日本政府から借りる事にした。
拍子抜けするほど簡単に許可が下りたので試してみたが、こちらもISSの高度まで問題なく到達した。
試しに新人族の職員に操作して貰ったら、高度100kmが限界であった。新人族でない職員に至っては操作不可であった。
薫は近くにいたダンジョンを攻略中の春人を攫うと、操作させてみた。結果は高度限界など起こらなかった。不満を漏らす春人を元いたダンジョンへ戻した薫は、今度は魔王に操作をさせた。
魔王は薫が東京へ来たことを聞きつけてやって来たのだ。魔王も春人同様に高度限界は起きなかった。序に魔王の兄にも操作して貰ったが、こちらは高度限界100kmとなった。
新人族職員はレベル23。魔王はレベル41。魔王の兄はレベル36。春人はレベル56。
魔王と春人に共通するもの。それは、称号の一人前だ。
検証というには数が少なすぎるが、高度限界が発生する原因は称号であると信じて疑わない薫。その理由は、隠密烏も政府から借りた[乗り物]にも、高度限界という説明がないからだ。
称号というものは、何かしら影響を持つものであるらしいことが分かった薫であった。日本政府としても、[乗り物]を貸しただけで情報を得ることが出来たため、大いに喜んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます