第114話

 5月29日


 世界にモンスターが出現し始めてから50日目。


 如月春人とその仲間8人は、探索者として活動するべく東京へとやって来た。現在春人たちは、千代田区にあるダンジョン探索サポートセンターへ向かっている。東京と大阪、2つの都市で試験運用が始まってから今日で5日目である。


 春人たちがわざわざやって来た理由は、先頃日本政府から発表された、新人族がダンジョン内で活動する上でサポートや規制に関する情報をチェックしたカズたちが、今の内に登録しようと提案してきたからだ。なお、多少のトラブルはあったものの全員が親の承諾を得ている。



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 トラブルというのは、親がSPを稼げるようになったことが要因だ。曰く、子供たちには危険なダンジョン活動を止めて欲しいとか、新設される学校へ通う準備をしろとかである。


 当初は学校生活や部活動をしたいと思っていたカズたちであったが、今ではダンジョン活動に熱を上げている。冷静になって考えると、レベル差によるステータス差はかなり大きいという事に気が付いたと同時に、部活動に注いでいた情熱は急速に冷めてしまった。それに加えて、仲の良いクラスメイトや部活仲間に後輩とも連絡は取っていることもあって、学校に通う魅力をほとんど感じなくなってしまった。


 つまりダンジョンコア討伐で大金を得られたことに加え、それによる社会への貢献といった自己満足が、一種の麻薬のような効果を少年少女に及ぼしているのだ。


 現実問題として、ダンジョンがこのままであるはずがないと言った意見がSNSには多い。もしもダンジョンからモンスターが出て来た場合、レベルが低くて対処できずに死ぬのはまっぴらだと思うのは誰しも同じ。それ故に政府も、18歳未満は基本的にレベル上げの禁止としているだけで、罰則は設けていない。未熟な精神で能力を振るい周りに迷惑を掛けないようにとの配慮であるが、子供だろうと大人だろうと、結局はその人間の資質によるところが大きいのだ。


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 日本政府からは、発表前に如月家へ招待という名目で参加の依頼が来ていた。その時にステータス判別シートも5人分送られていた。だが、ステータス判別シートによる能力の公開が気に食わない薫は、SNSで拒絶の意思を示した。


 ステータス判別シートを使用すると、情報偽装スキルが無効化されてしまうことが分かったうえに、薫の持つEXスキルである究極空間収納(∞)については全く反応しない為、薫が空間収納非保持者と表示される事も分かった。


 そもそも今の薫にとっては、地球上なら何処へでも瞬間移動できる範囲となっており、ダンジョンコア討伐に至っては国内の新人族に配慮して、国外のダンジョンコアを討伐しているのが現状である。


 因みにアインスの場合は、薫がダンジョンの送迎を行うようになっている。これは、真祖エルフという新たなる人種を世界が知った時に、どの様な反応が起きるのかを話し合った結果である。


 両親の場合はダンジョンをエンジョイする派なので、政府案を承諾し登録はしたが、ダンジョンコア討伐は極力請け負わない事を明言している。


 春香の場合は、薫が登録しないので自分も登録しないことにした。カミーユも春香と同じ対応である。カミーユはとても特殊な職業なので、同じような職業が見つかるまでは、人前に出る気はないらしい。


 春人の場合は、返事を保留にしていた結果が今の状況だ。登録するならカズたちと一緒にと思っていた春人は、提案を受けた時にとても喜び快諾したのであった。




 案内板に従い到着したダンジョン探索サポートセンターは、ある改装タワーの中にあった。複数ある改装タワーに大勢の人が出入りしているので、案内板がなければ見つける事は難しい状態であった。


「実際に来てみると、やっぱ東京ってかなり人が多いな」

「僕たちの街だと、夏祭りや初詣でもこんなに人を見る事なんてないもんね」


 大輔と俊樹の会話にカズも加わる。


「いくら大量に人死にが出たとはいえ、世界に誇る日本の首都なんだ。この狭い中に集中してんだから、多いに決まってんだろ。おっ、あれが登録者の行列じゃねえの?」

「だな。それにしても、5日目だってのに並んでんな。全員が東京者ってわけでもねえのかもな」


 カズの指差す先には、登録受付会場と書かれた立札があり、室内に並びきれない者たちの行列が廊下にまで出来ている。それを見た一行は、春人が述べた感想に共感し相槌を打った。


 そこへ、春人に声を掛けて来る者がいた。


「あの、もしかして如月春人様ですよね? あの動画を見て大ファンになりました。握手して下さい!」


 振り返ると、190cmを超えるイケメンの大男の顔があった。しかし、こちらですといった追加の声が下から聞こえた。そこには、小柄であるものの大男とよく似た顔をした男性がいた。


「名乗りもせずに失礼しました。僕は加賀エリック。こちらは弟のリアムです」


 エリックと名乗った男性は、春人に右手を差し出してきた。しかし、春人がその手を握り返すことはなかった。


「名乗ったのに済まねえが、握手はしねえ。力加減をミスって怪我させたくねえからよ。それと様付けはよしてくれ」

「いえいえ、こちらの配慮が至らず申し訳ありませんでした」


「マジだ。あれ本物じゃん」「きゃー、動画よりも断然イケメンなんですけど」

「まさかアンタッチャブルの弟君が登録しに来たの?」「レベルがどれくらいなのか滅茶苦茶興味ある」


 人の多い場所で話していたこともあり、春人たちの周りは野次馬に取り囲まれていた。加賀兄弟は、自分たちの所為で目立つことになった春人へ頭を下げ早口で謝罪の言葉を口にすると、野次馬の中へと消えていった。


 人集りが出来たことで、何らかのトラブルが起きたと思ったダンジョン探索サポートセンター職員がやって来て注意を促す。


「建物内での騒ぎは禁止されています。全員速やかに解散して下さい。注意を聞き入れない方には、然るべき対処をさせて頂きます」


 武装した職員が言い終わる前に大半の者は散り始め、あっという間に野次馬は消え去ってしまった。取り残される結果となった春人たちは、職員からトラブルの原因について聞き取りに協力をするよう請われ、素直に別室へとついて行った。


 部屋へと入った春人が目にしたのは、面識のある人物であった。

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