第111話

 薫の従魔であるタマとリリスは、気が向けばYouTuberとして活躍している。時折、勝手にサクラの訓練動画もアップしていたりする。


 タマとリリスは、どちらもチャンネル登録者数が脅威の2億人越えである。世界人口が激減した現在、チャンネル登録者数が5千万人越えが世界第3位という状況であったりする。

 タマとリリスの人気が如何に凄いことか数字として分かるものの、人類には意外と余裕のある者が多いということもまた知ることが出来る。



 薫は、タマの1日と題した動画を見る。

 タマは、[開拓都市]にある畑で、朝から作物の収穫を行っている。しかし、タマの格好がどうして三角巾と割烹着にショートパンツなのかは、謎である。


 1ha(ヘクタール)毎に区切られた畑には、色々な作物がすくすくと育っている。その中のトウモロコシ畑で、トウモロコシを次々といでは、背中に背負った籠へポイポイっと投げ込んでいくタマ。


 一般人には動きが速すぎて分からないかも知れないが、タマは1本から1房だけを捥ぎ取っている。おそらく1番美味しい物だけを選別していると思われる。捥ぎ取ったら根元から切り倒し、次へ移動し同じ作業を繰り返しているのだ。


 この事を初めて薫が知った時、勿体ないことをするタマを注意した。だが、ことの詳細を聞かされた薫は、素直にタマへ謝罪し深く感謝した。

 この魔道具の中が発展するにつれ現れた生き物たちの正体は、妖精や精霊だという。それらは、供物を捧げる事でこの地の力を強め、様々な恩恵をもたらしてくれるそうだ。因みに、サクラが食材として狩りをしている動物は、その恩恵の産物であるそうだ。


 野菜と果物の収穫を済ませた後は、室内に飾るための花を摘むタマ。そのタマに蝶々が群がっていると思えば、小さな羽の生えた人、妖精であった。薫はまじか~と呟いただけであった。

 普通に見ていれば蝶々の群れであるが、動画を見ている者の中には気になって画像処理技術を駆使して妖精の正体に辿り着く者もいるに違いない。だが、妖精だと気付いたとしても、薫の許可がなければ中に入ることは出来ないのだから、別に問題ない。


 最早人類にとってファンタジーな存在は、すぐ身近に数多いるのだから。


 他にも山の幸や海の幸の収穫、調合作業をしている動画などがアップされている。時折見せるタマの仕草が可愛いけれど、動画の内容としては凡庸なもので、登録者数と再生回数の多さに理解が及ばない薫であった。


 基本的にタマは、午前と午後にちょこっと作業をしたあとは、ほとんど薫の傍でごろごろしている。サクラのように、ダンジョン行きをせがんだりはしない。最近は、春香やドライと生産について語り合ったり、一緒に料理や調合を行ったりもしていたりする。




 最近のサクラは、春香の従魔であるコスモスと一緒に、毎日バビロンタワーの37階層で階層主を相手に実践訓練を行っている。2人で全力を出して階層主を相手をすると丁度良い強さなので、とても機嫌が良い様だ。


 実践訓練が増えたことで、とても沢山食事を摂るようになったサクラ。お菓子の摂取量も増大し、お小遣いのSPでは賄えなくなってきたようで、タマからお菓子作りを習い始めた。


 最初は、サトウキビや果物で我慢していたサクラであったが、舌が肥えてしまったサクラにとっては我慢など無理であった。知らなければ思い悩むこともなかったことも、上があると知ってしまったからには欲しくなる。


 食に限らず、快適な住環境然り、便利な移動手段然り、立ち位置の心地良さ然り、知的欲求の追及然り。例を上げればきりがない。


 結局は、努力しても届かず諦めて我慢するか、必要な手段を使って手に入れるしかないのだ。

 快適な住環境と一口に言っても、それは個人で全く違う。豪邸が良い者もいれば、狭い個室を好む者、他人が一緒にいなければダメな者、散らかった環境が落ち着く者、室温が低い方が好きな者など本当に様々だ。


 そしてサクラは、SPの増額ではなくお菓子を自分で作ることにしたのだ。自分が満足できるお菓子を自ら作れるように。薫的には、サクラの向上心を素晴らしいと思いはするも、購入できる物や作ってくれる者がいるのなら、そっちの方が楽で良いと思っている。


 薫自身、バビロンタワーに入るようになってダンジョンに直接行くのも悪くないかと、最近思い始めている。これは、本やゲームや映画などの娯楽に飽きてしまった事が最大の原因である。薫のチキンハートも、退屈には勝てないようである。

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