第110話

 カミーユは目覚めると、涙を拭った。

 母と優しい義父の夢を見たからだ。3人で手を繋ぎセーヌ川沿いを散歩していた。しかし、カミーユだけは、その橋を渡ることが出来なかった。両親は向こう岸から笑顔で声を掛けているのだが、カミーユにはその内容を聞き取ることが出来なかった。

 だが、今のカミーユには、悲しみよりも嬉しさの方が勝っていた。


 パリにいた頃見ていた夢は、両親がとても心配そうな顔をしていたからだ。でも、薫と一緒に日本に来てから、今朝見た夢の中では、両親が笑顔だったのだ。寂しさは当然あるが、2人が安心してくれたことは理解できた。


 パリでは、全てを諦めようとしたが諦めきれずに、マイダンジョンを運営していた。それが縁で、薫に出会うことが出来たし、棚ぼたで彼女になることも出来た。動画の中で生きる希望を与えてくれた薫は、病魔も治してくれた。ライバルは多くて優しくて手強いけれど、たしかな希望ができたのだ。

 焦らず少しずつ確実に、挫けそうになったら2人の事を思い出して、何ものにも負けない活力を貰うのだ。もう決して、心を偽ることも暴力に屈したりせず、幸せになると決めたのだから。

 またいつか3人で手を繋ぎ、2人に報告するその時が訪れるまで、精一杯生きて素敵な人生を送るのだ。





 剣聖の伊藤刀児は、旧メンバー1人と新しく加わったメンバー8人、合わせて10人でダンジョンコア討伐を行っていた。残りの旧メンバー4人は、2組のパーティーで新加入15人のレベル上げを行っている。なお、剣聖以外は全て女性である。


 レベルを上げ強くなるためには、質と量が必要な事に気付いた剣聖は、人材の育成から始める事にしたのだ。ダンジョンの難易度が上がるほど、生息するモンスターの数やレベルも強化され、攻撃も強力で多彩になってくる。だから、数には数で、質には質でという、基本で対処することにした。


 アンタッチャブル(如月薫)との訓練で訪れた高レベルダンジョン。自分と同レベルのモンスターは、新たに覚えたスキルを使う必要があるくらい強かった。そこで剣聖は、魔法の使用をほぼ止めてアーツを重点的に鍛える事にした。その結果、スキルとアーツの最適な組み合わせを見つけるため、モンスター相手に試行錯誤を繰り返す日々となっている。


 アンタッチャブルが言うには、モンスターは日々ステータスが微増しているらしい。どこまで増えるのか分からないが、確実に強くなっているそうなのだ。追加情報として、倒し方次第では魔石以外のアイテムもドロップすると言っていた。モンスターが受肉しているかも、なんて感じで。



 学生時代は、親に沢山迷惑をかけた。社会人となってから、せせこましく稼いで人生を送るのが嫌で、手っ取り早く金を稼ぐためにホストになった。幸い、つらは悪くなかったし、話すのも不得手ではなかったので、スタートは悪くなかった。上からも気に入られ、先輩からも可愛がられてアドバイスも活かすことが出来て、気が付けば店で指名トップになっていた。


 2月に体調を崩し、暫くお店を休んだことで己を見つめ直す機会が出来た。休んだ埋め合わせのため、以前よりも仕事に精を出した。

 それから3日ほど休みを取り、数年ぶりに親元に帰りプレゼントでもしようとしていた矢先、ダンジョン災害が起きてしまった。


 伊藤刀児が目を覚ました時には、沢山の安否確認メールが届いていた。最初は、メールを読んで悪戯だと思った刀児であったが、同じ様な内容ばかりが続いたことで、悪戯ではないことに気付いた。


 SNSには、モンスターが出現し人を襲う動画や沢山のモンスターの画像がアップされており、助けを請う書き込みや探し人の書き込みで溢れていた。


 最初刀児は、家族へ電話をかけ、全員の無事を確認した。次に、お店に連絡をして無事であることを伝えると、喜ばれはしたが営業は無期限停止を告げられた。退職金代わりの臨時金を配ると言われた刀児は、自分の分は後輩に分配してほしいと告げ、世話になった数年間を思い出し、感謝の言葉と別れの言葉を告げた。メールをくれたお客には、お店を止める事になった経緯も丁寧に説明し、お詫びと感謝の返信を行った。


 田舎に戻った刀児は、モンスター退治を始め、群馬県民限定の剣聖教を立ち上げた(つもり)。お客だった数人が刀児の元に来て、一緒にモンスター退治の活動を手伝うようになった。



 [安らぎのコテージ]で休憩し過去を思い出していた刀児は、このまま剣聖教を継続するか別の団体を作るかで、葛藤するのであった。

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