隊長

 カーブの奥から現れたのは、お馴染みの路面電車…ではなく、ド派手な彩色を施した装甲車両であった。同車両は、線路内に侵入したスライムの群れを弾き飛ばしたり、轢き殺したりしながら、走行を続け、踏切を通過し、都電*川線・学*院下停留場のプラットホームに停車した。

 車両側面に設けられた「出撃ドア」が左右に開いたかと思うと、複数の戦士たちがホームに降り立つ。オタ**マン風、キャ**ーン風、ガッ**マン風、テッ*マン風…タツノコ作品をテーマにした仮装パーティーの出席者としか考えられない格好をしていた。

 官民共同(だが、実際は後者主導だと云われている)で結成された対スライム部隊〔駆逐戦隊〕であった。俺も情報としては知っていたが、実物を見るのは今夜が初めてだ。大量発生の連絡を受けて、駆けつけてきたのか。


 駆逐戦隊の隊員たちは、各自の利き腕に『スライムキラー』をさげていた。日本刀と西洋剣を組み合わせたような奇妙なデザイン。名称が示す通り、スライムを斬る(狩る)ために開発された武器だ。特殊合金製で、連用に耐える強度と「羽のように軽い」軽量性を併せ持つという。

 それを使って、連中は片っ端からスライムを殺し始めた。駆逐と云うよりも、虐殺と表現したくなる凄惨な光景であった。その中でも、特に凄まじい働きをしているのが、彼らの大将格らしいオタ**マン風であった。おそらくあいつが、源(みなもと)シオールであろう。


 駆逐戦隊の若きリーダー、源シオール。謎めいた雰囲気と現実離れした美貌が話題を呼んで、今やシオールは、業界の大アイドルと化している。芸能界入りの誘いも一度や二度ではないらしい。綽名は魔少年。シオールの応援団体(ファンクラブ)が幾つもあると聞いている。

 まったく忌々しいやつである。全日本醜男代表たる俺にとっては、美少年だのアイドルだのは、生涯を通じての宿敵であり、シオールの助けを借りるぐらいなら、スライムに食われた方がマシだとさえ思う。

 与えられた幸運を俺は素直に喜んでいた。シオールよりも先にセーコが来てくれて、本当に良かった。でなければ、俺は多分死んでいた。スライムの群れに飛び込み、自殺に近い形で最期を遂げていただろう。


 セーコは駆逐戦隊の到来と同時に、追撃を中断していた。理由はよくわからないが、彼女の中に共闘の意思はないらしい。自分の出番はここで終わったとでも云うかのように、戦場から退くと、階段を登り、歩道橋の上にいる俺の方に近づいてきた。

 セーコは全身に返り血を浴びていた。左の手裏剣にも、右の刀にも血の糸が絡みついている。激戦を物語る何よりの証しだが、彼女の動作や足取りに疲労の気配はまったく感じられない。

 鍛え抜かれたセーコの肉体は、無尽に等しい、桁外れのエネルギーが蓄えられているようであった。蛇頭の超戦士、まさにコブラガールだ!

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