第199話/荒ぶるモノローグ

松本梨乃.side


私は怒りでずっと俯いている。私の頭の中と心はグチャグチャで自分でも溢れる怒りを抑えられない。


ねぇ、、何で?

何でなの!!!


ラブ・シュガーを毎日のように読み、私もみのりとこんな風な恋愛をしたいと思いを馳せていた物語だから余計に苦しかった。


きっと、みのりが演じるのは柚木天だよね?だって私の中で柚木天はみのりだもん。

みのりが天になって苅原絵里を演じる人と恋人同士として恋愛しキスをする。


あり得ないから!

受け入れられるはずないじゃん!!


漫画を読んでいる美香達の声に苛つく。いちいち、「おー」とか煩いし。

ベッドシーン!とか言わないで!したくもない想像をしちゃうでしょ!


ラブ・シュガーを何度も読み、内容を完璧に覚えているからこそ苦しい。

みのりは絵里とキスを何度するの?何度、絵里に愛の言葉を伝えるの?


みのりはただ仕事をするだけと必死に頭で理解しようとしてもみのりが天として絵里とキスをするのが嫌だ。

高橋君とするより嫌!きっと、絵里が女の子だから、余計に嫉妬してしまう。


そもそも、ドラマに出ることはアイドルの仕事ではない。アイドルの仕事はステージの上で歌い・踊ることだ。


どうせ…私のアイドル論は誰も理解してくれない。よっちゃんもみのり達も。

だから、みのりはドラマのオーディションを受けたし、私はよっちゃんに何度もオーディションを受けようと説得された。



みのり・美香・由香里はみんな女優志望なのを知っている。今の時代、歌手も女優をやり、女優も歌手をやるなんてと当たり前で仕事の括りなんてないと頭では分かっている。


頑固な頭が私を雁字搦めにしているのも知っている。私もドラマに出たし…

きっとここまで私が固執するのはまだアイドルとしてやりきれてないからで、夢の武道館でのライブも叶っていないから。


私は早くライブをしたくて頑張ってきた。なのに、私の大事なライブを奪っておきながら早く大きな会場でライブをすることを目指さないの?なぜ、寄り道をするの?


夢が叶うまで、私にとって演技の仕事は寄り道で恋の障害物だ。邪魔者でしかない。



目を閉じると昨日、好きなシーンを読み返したラブ・シュガーが頭の中で再生される。

幸せそうに笑い合う天と絵里。絵里の腕が天の首に回り、2人は幸せなキスをする。


頭がモヤモヤする。アルバムに向けて沢山の打ち合わせをしないといけないのに私の頭の中は柚木天とみのりのことだらけ。

ラブ・シュガーの呪縛から抜け出せない。大好きな作品なのに…大っ嫌いになりそう。


みのりが遠く感じる。いつのまにかドラマのオーディションを受けていたし。

みのりが私を置いて1人で先に行こうとする。雁字搦めになっている私は一歩も動けずみのりの背中だけを見ている。


どうやったら、私はみのりに追いつくの?


早く、みのりと同じ位置まで行かないと私は更に取り残される。私に出来ることは何だろう?もっと、ダンスを頑張ればいいの?

何を磨けばみのりの隣に行けるのか誰か教えて欲しい。初めて感じた恐怖が私を襲う。


みんな同じ方向を向いているのに、私だけ同じ方向を向いていないことに気づき、孤独感に襲われる。私はひとりぼっちだ。



今もあの小さなステージに私だけ取り残されている。でも、私は大好きだった。

ファンとの距離が近くて、沢山応援してくれてめちゃくちゃ幸せだったよ。

あの場所に戻りたい…ずっとあの場所にいたかった。あそこが私の場所なんだ。


なんて…そんなこと言ったら怒られるよね。あの場所から抜け出したくて、未来が見えなくてアイドルを辞めようとしていた。


私はあの場所を都合よく使っている。デビューできて、歌番組に出れて、CLOVERの名前が少しずつ広がってきた途端、またあの場所に地下に戻りたいなんて…みのり達から怒られるね。


それに、今も地下から抜け出せていないアイドルから「だったら、変わってよ!」と怒られそうだ。みんな、必死に地下から抜け出そうともがいて、苦しんでいるのに…


それでも…


視野が狭いって分かっているけど、私を救ってくれたアイドルはステージの上で歌い・踊るアイドルで演技をするアイドルではない。


分かってるよ…


本音を言っても何も変わらない。

ぶちまけたい本音は奥底に沈むだけ。

【誰も】私を分かってくれない。

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