第157話/冷たい隙間風
松本梨乃.side
みんなと会え、ステージで踊り歌える日は私にとって待ちに待った日で気合が入る。
でも、来月で今やっているライブ会場でのライブが終わり、不定期のライブだけになる。
大きなステージでライブをするのは嬉しいけどツアーはまだ出来ないし、ライブが私のルーティンに組み込まれている。
なのに、大事なライブを奪われる…私の生きがいなのに。私が私でいられる場所なのに。
車の中でみんなにおはよーと挨拶をしながら車に乗り、美香と由香里と車の中で話しながらみのりの家に向かう。
今日のスケジュールは雑誌の撮影と夕方からはいつもの会場でライブをする。
朝から晩までみんなと過ごせるのは嬉しいけど、もうすぐ映画のオーディションがあり、やりたくない気持ちとみのりに言われた言葉に答えたい気持ちの狭間に揺れている。
自分の演技のどこが良いのか分からない私はきっと女優に向いていないのに、なぜか裏腹で演技を褒められることが多い。
私はアイドルとしての評価がほしい。女優は私のやりたいことでは…なんて我儘な考えだって分かっているけど本当にそうなんだ。
やりたくないことでとぐちぐちと悩んでいると、みのりの家に着き、みのりが「おはよー」と言いながら車に入ってきた。
みのりは私の栄養剤だ。みのりに会えると元気になり、みのりが隣にいるだけで私は最高の気分になれる。
だけど…美香のバカ。
何でそんなこと聞くの。
「みーちゃん、昨日は高橋君とキスシーンだったよね。どうだった⁉︎」
「えー!そうなの⁉︎美香は見てないの⁉︎」
「見たかったけど、私は撮影がなかったから見れなかった」
みのりが椅子に座った瞬間、後ろの座席に座っている美香と由香里が前のめりになり、高橋君とキスシーンをしたみのりに興奮しながら感想を聞いている。
そんなこと聞かなくていいのに最悪だ。
「えっ、、普通だよ」
「なにそれー!あの高橋君とキスなんて凄いことだよ」
美香の興奮ぶりにみのりが困惑をしている。当たり前だ。役としてキスをしているのであって2人は恋人同士ではない。
「この前さ、初めて高橋君に挨拶したけどカッコいいし、優しそうだよね」
「そうだね」
「みーちゃんは二度目の共演だし、仲良いし…ふふ、いつか付き合ったりして」
美香のニヤニヤとした表情もムカつくけど、美香の安易な考えと言葉にイライラが募る。
たった2度、共演したからといって恋に発展するかなんて分からないのに。
「ないよ。高橋君は人気アイドルグループのメンバーだし、もし付き合ったとしてもバレたら私は一貫の終わりじゃん。そんなの絶対に嫌だし、私は恋愛に興味ないから」
〈信じていいんだよね…〉
みのりと高橋君はドラマの撮影の時から仲が良かった。同い年ってのもあるけど、高橋君が一番話していたのはみのりだった。
みのりの言葉を信じたいけど不安が拭いきれない。それほど…お似合いだったから。
私だって…みのりとキスをしたい。でも、私の願望は儚い願いであり、演技でもみのりとキスをした高橋君が羨ましかった。
こんなにも近いのにみのりの唇は遠い。アイドルじゃなかったら、女同士じゃなかったら、友達じゃなかったらと考えるけど、、
アイドルだから、女同士だから、友達だから私はみのりのそばにいられる。私がもし一般人で、男で、ただのファンだったらさらに遠くから見つめるだけだ。
みのりと付き合える確率は1億分の1であり、どれだけ可愛くなっても、カッコよくなってもみのりに気づいて貰える確率はない。
きっと、どれだけ好きだと叫んでも届くことはなく、遠くからアイドル藍田みのりを応援するだけの人生になるだろう。
好きだから、それでも幸せなのかもしれないけど私は嫌だ。私はみのりの隣にいる。
みのりに簡単に触れられる距離にいるせいで贅沢者になってしまった。
「みのり…お腹空いた」
「えっ?ちょっと待ってね、、あっ、飴だったらあるよ。これでいい?」
私の言葉に慌てて鞄を漁り、いちご味の飴を取り出し渡してくれるみのりは優しく、美香や由香里にも拗ねないように配る気配りはリーダーであり、最高の女の子だ。こんなの好きにならないはずがない。
勇気がほしい。あと少しの距離が遠く、優しい眼差しのみのりに触れたいよ。
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