第141話/あなたにトリコ

松本梨乃.side


レッスン着に着替え、床に座りながらストレッチをする。ライブ以外で、久しぶりにみんなが集まり、今日は今度出演するメジャーデビュー曲を歌う音楽番組への練習の日だ。


でも、みのりが午後から別仕事で抜けるから一緒にいられる時間が少ない。

ストレッチの段階でみんなの表情からすでに気合いが入っているのが分かる。特に美香はセンターとしての熱量が凄い。


みのりは髪を後ろで結び、キャップを被っており…カッコいい。可愛い女の子なのに、みのりはカッコいいとつい思ってしまう容姿で本当にずるい。いつも見惚れてしまう。


そんなみのりを横目に見ながら、ストレッチを続けているとよっちゃんがカメラを持ってレッスン室に入ってきた。


「みんな、練習始めるよー」


「はーい」


よっちゃんが鏡の前にカメラを設置し、音楽の準備をする。私達はそれぞれの位置に立ち、ポーズをとった。やっと、やっと…アイドルとして日の目を浴びる。


それもメジャーデビュー曲を歌う初めての音楽番組がプライムタイム時間。これほどのチャンスはなく、絶対に掴みたい。


私はどれだけ演技を褒められても、アイドルとして褒められる方が嬉しい。私の一番は永遠にアイドルだし、アイドルになりたくてこの世界に入った。


よっちゃんの掛け声で音楽が鳴り、私達は歌い踊り始める。この時間が最高に楽しく、隣にはみのりがいて美香がいて由香里がいる。

アイドルは私の生きる糧だ。贅沢と言われても、アイドルじゃない私は私じゃない。





最後の決めポーズをとった後、一度カメラで振りの確認をする。みんな、録画した画面を見ながら意見を出し合い話し合う。特にセンターの美香は積極的に意見を出している。


みんな、今度の歌番組がCLOVERとして大事な番組だって分かっている。やっとアイドルとして輝ける時が来たのだ。


振りのタイミングを修正しながら何度も踊り、私達は疲れたーと言いながら床に座り込む。流石に何度も踊ると体力が持たない。

それでもやっぱり、16歳の美香は体力が有り余っており倒れているみのりにのしかかる。


「美香、重いって」


「甘えたいのー」


「美香、ずるいー!」


美香の行動に由香里が嫉妬し、今度は由香里がみのりにのしかかる。2人はいつまで経っても甘えん坊でみのりに甘える。

出来るならこんなことで嫉妬なんてしたくない。でも、2人はいつもみのりとの距離が近く私の地雷を踏む。


「みーちゃんはピアスしないの?」


最近、イヤリングからピアスになった由香里がみのりの耳朶を触りながら聞いている。


「うーん、しないかな」


「もしかして、穴を開けるのが怖いの?絶対にそうでしょー」


「別に怖くないし…ピアスに興味がないからしないだけ」


みのりはクールな感じに見えるタイプだけど、実は一番の乙女なのかもしれない。

まさか、耳に穴を開けるのが怖いなんて知らなかった。由香里に本心を当てられたみのりは恥ずかしそうにしている。


「みんなー、休憩終わりだよ。もう一度、練習するから、ほら、ほら、立って」


よっちゃんに促されて私達は立ち上がる。私とみのりはドラマの撮影があるからみんなで集まれる時間が今日しかなかった。

アイドルとしてようやく一歩進もうとする私達はやる気に満ちている。


あと少しで私達のCDが発売され、アイドルとして新しい道を歩く。メジャーデビューしたらライブは大きな会場しかしないのは不服だけど、アイドルをやれるなら我慢する。

それに私も大きな会場でライブをするのに憧れている。夢は武道館とドームだし。


あと少し…


CLOVERは大きな夢は羽ばたく準備は完了した。後は羽ばたくだけだ。

そして、みのりとの距離を更に近づけ…


恋人になりたい


恋愛禁止なんてどうでもいい。恋は止められるものではない。だから、私は止まらない。

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