第130話/Fate

人生って不思議だ。動かない時は全く動かないのに動き出すと止まらなくなる。

急に動き出した私の人生。めちゃくちゃ嬉しいけど、戸惑いも大きい。それはきっと、私が新人で自分に自信がないからだ。


ドラマの撮影前に話があるとよっちゃんに言われ、事務所の会議室で映画のオファーが来たよと言われ驚いた。

だって、私は演技経験が一度しかないし、新人にオファーが来るのは奇跡に近いのだ。


よっちゃんに熱い口調で映画について、オファーについて語る。

ドラマで共演中の高橋賢人君との恋愛映画。人気少女漫画が原作で、作品は知らないけどめちゃくちゃ人気だよと言われた。


今のドラマが終わったらこれからもドラマや映画のオーディションを沢山受けれたらいいなと思っていたから予想を越えている。

それに、梨乃が演技が上手いからもしオファーが来るとしたら梨乃だと思っていた。



映画の内容は幼馴染同士の恋で、互いに好きなのに気持ちを伝えられず、夏祭りがきっかけで気持ちを伝え、恋人同士になる恋物語。

定番的な話だけど、人間はハッピーエンドの恋愛が見たくて定番を求める。


よっちゃんに渡された原作の漫画を電車の中で読みながら私が演じる女の子を考察する。

とても可愛くて、主人公の男の子とお似合いの女の子で甘酸っぱい恋がよく似合う。


私はそうは思わないけど、学生時代の恋は特別な恋と言う人がいる。梨乃も制服デートに憧れており、高校生カップルを見るたび「羨ましい」と言っていた。


高橋君と私が出演する映画も幼馴染同士の初々しいラブストーリー。

王道のラブストーリだけど、切なさも入っておりもどかしさがある距離感の設定だ。


◇互いに好きなのに、ずっと近くにいたから言えなかった想い

◇幼馴染と言う距離感が邪魔をする

◇好きな人を失う怖さとの戦い


大好きだから言えない気持ち。失うぐらいならと諦めてしまう恋の話みたいだ。

好きなのに言えない気持ちって何だろう…?

そもそも、諦めている時点でそれは恋と言えるの?私には分からない感情すぎる。


◆恋愛のどこがいいのかな?

◆何が楽しいの?

◆そもそも恋ってどんな感情?


私はこの主人公とヒロインの感情が全く分からない。そもそも好きって感情が分からないからきっと一生理解できないだろう。

恋・恋愛・愛などが欠落している私は感情のないロボットに近いのかもしれない。





体を動かすと気持ちいい。今日の私は鮎川早月になり、バスケの撮影をしている。

最近は1日が過ぎるのが早く、あっという間に1日が終わる。本当…1日が短すぎて月日の流れが恐ろしいぐらい早い。


昨日は高橋君との映画が正式に決まり、よっちゃんが事務所で梨乃や美香達に私が映画に出演することを報告し大変だった。

美香と由香里に何度も「羨ましいー!」と言われ、梨乃に「おめでとう…」と言われた。


あれだけ未来が怖かったのに怒涛に動き出す未来。私は置いていかれないようしないといけない。置いていかれたら終わってしまう。



はぁ、はぁ。体を動かすと気持ちいい。早月としてのバスケシーンの撮影はいつもより気合いが入るし私の見せ場だ。

久保田凛が佐藤小春を無理やり連れ、早月がバスケの練習をするのを見にくるシーンは原作でかなりの人気がある。


あゆはる推しにとって、とても大事なシーンで、アイドルにしか興味がなかった小春が早月に見惚れる大事な場面。


この漫画はやっぱり変わってる。普通だったら主人公の翔平がバスケ部で同じアイドルファンの小春が翔平の新たな一面を知りっていう展開になりそうなのに。


珍しい定番を覆す物語。先の展開が読めず、私もこれからどうなるのか予想出来ない。

でも、私は定番や王道より予定調和を崩す話が好きだ。だって、定番はつまらない。


小春は早月と恋愛関係に発展するのだろうか?でも、この物語の主人公は翔平で、翔平の矢印的なものも存在する。


きっと、翔平は小春が好きだ。


それに、早月の気持ちが全く分からない。早月は小春のことをどう思っているのだろう?

これまで、早月の心情が描かれてないから分からず…作者はどうするつもりなのかな?


ボールを何度もバウンドさせ、手にボールを馴染ませる。私が小春と早月のことを考えてもどうなるかなんて作者にしか分からない。

考えても仕方ないと頭を切り替え、今から始まる撮影に集中する。


撮影現場はいつも緊張感があっていい。気が引き締まるし、高橋君・愛など芸能界の先輩であり活躍している人達と一緒にいると活力が漲る。


第一線で活躍する人は全てにおいてカッコよく、2人の驕らない姿勢にも尊敬するし、演技に対する熱量も凄い。


私はボールを脇に抱え、監督と撮影シーンについて真剣に話し、動きなどを確認する。

バスケのシーンは早月の見せ場で、視聴者から評判が良い。鮎川早月役の私の見せ場だ。更に早月ファンを増やしてみせる。



理想通りのフォームでボールが綺麗にゴールに入ると気持ちいい。早月みたいに私も自然と笑顔が溢れる。

コートの上を全力で動くと頬に汗が流れていく。仕事が楽しくて笑顔になる。


大事な四番手の役は私に未来を見せてくれた。監督からカットがかかり、私は真剣にモニターを見ながら動きを確認する。

私はこの世界で生きていたい。アイドルとして女優として生きていたい。


鮎川早月としてモニターに映る私はアイドル(CLOVER)兼女優の藍田みのり。私が小さい頃から憧れていた自分がいる。

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