第121話/甘すぎるジェリービーンズ

緊張する日々が怒涛のように過ぎていく。いつものようにライブをし、ドラマ撮影と雑誌の取材などの毎日が続いている。

ドラマに出演することで変貌した毎日を過ごし、少しだけ疲れが溜まってきた。


それに色々と環境が変わり、私達は必死にアイドルとして頑張っている。今のライブは新規のお客さんだらけで、古参のファンもいるけど新規のお客さんに埋もれている。

収入源だったチェキ会もなくなり、物販もスタッフ対応になった。


ファンとの交流がライブでしかなくなり寂しさを感じているけど仕方がない。実はよっちゃんに物販だけでもメンバーがしたらダメなの?と聞いた時、お客さんが私と梨乃の列に集中するからと言われ諦めるしかなかった。


私が美香や由香里の立場だったら嫌だ。

格差の苦しみを一番知っているからこそ。


そして、一番頭を悩ますのはドラマが決まった途端、親戚の無理な要望が来たこと。

主役を演じる高橋君のサインが欲しいと言ってきたり、愛のことを根掘り葉掘り聞いてきてうんざりする。


大学に進学しなかった私のことなんて眼中になかったくせに、私がドラマに出ることになった途端手のひらを返す。

唯一の味方のお父さんが盾となって親戚を跳ね返してくれているから助かっているけど、イライラが止まらない。



3月半ばになり、あと半月で出演するドラマが始まる。原作ファンからどんな評価を下されるのか正直怖いけど、監督と話し合って鮎川早月を作り上げてきた。

新たにバスケをするシーンも追加され、期待しているよと言われ奮起の毎日だ。


夜は台本を読み込み、台詞を覚え、演技の練習をし、大学受験の勉強をする。

私には休む時間がない。ドラマと取材とライブで毎日フル稼働している。


そして、梨乃にも疲れが見えてきた。ヒロイン役の梨乃は私より何倍も撮影するシーンが多く台詞の量も多い。

そんな中、最近の梨乃と愛はやっと普通に話すようになり、一緒の撮影の時はいつも3人でお弁当を食べている。


ただ、個人でのドラマの撮影や雑誌の取材が嫌らしく、高橋君と2人の撮影の時はよっちゃんが大変そうだ。

なんで私(みのり)がいないの?とよっちゃんに言う梨乃に困り果てている。私も苦笑いしながら梨乃を宥めていた。



今日は久しぶりにいつもよりドラマの撮影が早く終わり、私は帰り支度をする。

こんな日は体を休めるのが正解だけど私は携帯で時間を確認し、美沙がバイト先に居たらいいなと考える。


この前、美沙の家に泊まって以来また会えておらず、子供っぽいけど我慢の限界だった。


「みのり。この後、仕事ないならご飯食べに行かない?」


「ごめん。今日は予定があって」


「梨乃ちゃんと約束してるの?」


「友達に会いに行こうかと」


「高校時代の友達?」


「うん。一番仲のいい友達なんだ」


「へぇ。あっ、みのりって女子校だよね?女子校ってどんな感じなの?共学しか通ったことないから興味あるんだ」


「普通だよ。生徒が全員女子なだけで」


「それだけでも共学とは違うよ。だって、男子がいないし。ねぇねぇ…女子校だと秘密の恋とかあるのかな?」


愛が美香や由香里が私に聞いてきた同じ質問をニヤけた顔をしながら聞いてくる。

共学に進んだ人は女子校など同性しかいない学校出身の人にその手の話を聞きたくなるものなのだろうか?


「あったけど…普通の恋と変わらないよ」


「へぇ、みのりは頭が柔らかいね」


「そうかな?」


「うーん、やっぱり異性との交際と同性同士の交際は線引きしちゃうかも」


「そうなんだ」


恋に種類はない思っているけど、考え方は人によるのかもしれない。私は気にしたことがなかった。恋愛は自由だ、好きにすればいい。


「みのりってクラスでモテてたでしょ」


「えっ?モテたことないよ」


「ふふ、そうなんだ。みのりらしいね」


愛の言葉に含みがあり気になるけど、愛が別の話をし始めたから諦める。だけど、その話が私を困らせる。

軽い口調で「友達とキスしたことある?」と言われ、顔が引き攣る。


「あるんだね。そっか〜。ふふ」


女優の愛の笑顔は可愛いくていつも完璧だ。だけど、私には不穏な笑顔に見えた。

ニコニコと笑う愛は私に友達の写真を見せてほしいと言ってきた。なぜ、美沙の写真を見たがるのかは分からないけど、断る理由がない私は美沙の写真を見せた。


愛は美沙の写真をまじまじと見るなり、口角が上がり笑顔になる。可愛いねと褒めてくれたのは嬉しいけど何かが気になる。

写真を拡大して、ふふと笑い…今日の愛は私の知っている愛ではないように感じた。


目がキラキラと輝いている。

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