第102話/アンバランスな世界

松本梨乃.side


みのりといつも一緒にいたいなんて贅沢な願いだって分かっている。

でも、谷口さんの名前を聞くと我儘になり、帰る際…谷口さんの大学に行くと聞いた私はみのりを引き止めようとした。


でも、結局は出来なかった。また、みのりの優しさに漬け込むことは出来なくて、必死にみのりに「バイバイ」と言い離れた。

もし、今回も私の我儘でみのりを引き止めたら私はみのりに愛想を尽かされてしまう。


今日はいつもと違う電車に乗ったみのり。置いて行かれた私はみのりと別れてから、何本の電車を見送っただろう。ずっと、ベンチに座ったままだ。

みのりはただ、友達に会いに行っただけなのに私は悲観的で嫉妬まみれになっている。


明日も明後日もみのりと仕事で会える。ドラマが始まったらほぼ毎日会える。

なのに、私欲を満たすためみのりの時間を全て欲しがるなんて余りにも我儘すぎる。


どれぐらい経ったかな。流石にこのままずっと駅にいるわけにもいかず、タイミングよく来た電車に乗る。

1人で乗る電車はつまらなくて、窓から見える景色もちっとも綺麗じゃない。


仕方なく、大好きなアイドルの曲を聴いて寂しさを誤魔化そうとしたけど、一向にテンションが上がらず気持ちが変わらない。

みのりは今ごろ、谷口さんと一緒かな?みのりと谷口さんの仲が羨ましいよ。


きっと、誰よりもみのりと一緒にいた時間が長いのは谷口さんで異質な仲の友達。


手を繋いだり…

腕を組んだり…

バグをしたり…

キスをしたり…

肌を重ねたり…


こんな風に言葉にするとエッチで、とてもあり得ない関係だ。こんなの異常で異質すぎて、やっぱり理解できないし腹が立つ。


こんなの恋人同士がすることだ。湯船の中で肌を重ねるなんて…変だし、おかしいよ。

私は本気でみのりが好きだからみのりに私の気持ちに気づいてほしくてやった。


でも、みのりと谷口さんはただの友達。友達だけど異質で普通のラインを越えている。

このままだと、2人は普通を履き違えてとんでもないことをしそうで怖い。


ダメだ。他のことを考えないと沈んだ心からは抜け出せたけど頭がおかしくなる。

私は明日もみのりとは朝から夜までずっと一緒にいれる。明日も明後日もだ。





携帯にダウンロードした電子書籍を開く。降りる駅に着くまで漫画を読むことにした。

「彼女はちょっと変わっている」の小春は徐々に早月と仲良くなっていく。主人公の翔平と恋に落ちず早月との仲を深める。


凛に誘われ、早月の部活を見にいくことになった小春はバスケを楽しそうにし、カッコよくシュートを決める早月にドキドキする。

この漫画の設定が面白い。恋の面では翔平がサブキャラになり目立っていない。


主人公なのにね。だから、あゆはるの人気が高く、早月人気がとんでもなく凄い。

でも、この漫画の上手い所はちゃんと恋の面以外では翔平が主役って所。スパイスとして小春と早月の関係性を上手く描いている。


シュートを決めた早月が、見学に来ている小春を見つけ手を振る。小春は恥ずかしそうに小さく手を振り下を向く。

甘酸っぱい恋って感じだ。初々しくて、見てる人達を青春っていいなと思わせる。


バスケをするみのり…楽しみだな。踊っているみのりしか知らないからバスケをするみのりを想像するだけでワクワクする。

髪を後ろで結び、コートの中を動き回るみのりは絶対カッコいいし、きっとファンが増えちゃうね。あまり嬉しくないけど。


数巻分だけ読み終わり、次は私のSNSを開く。さっき、仕事の合間に撮ったみのりとの写真を載せると反響がすぐに返ってきた。

みのりのって言葉が大半だけどあゆはるって言葉も幾つかあり、原作ファンからの反応も沢山あった。あゆはるが浸透している。



最近、何倍にも増えたSNSのフォロワー数。ドラマに出るだけで変わってしまった。

撮影もまだなのに、みんなは何を求めているのかな。やっぱり…あゆはる?

でも、コメントに今度、森川愛ちゃんとの写真を待ってます!と書かれており…


嫌だなってため息を吐いた。勝手な思いの押し付けが一番しんどい。誰にも言えない私の心情だけが燻り溜まっていく。

私はドラマなんて本当はやりたくない…アイドルだけをやりたいのに。


きっと、私の気持ちを分かってくれるのは小春だけ。佐藤小春は私そのものだ。

推しと愛する人以外興味なんてない。

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