第85話/ラブ・サーキュレーション
松本梨乃.side
月が変わり、日々色々なことが始まり周りの景色が変わっていく。バイトを辞め、アイドルの仕事一本になった私は気合を入れる。
今日はCDジャケットとMVの撮影で、久しぶりに衣装を着てカメラの前でポーズをとる。
隣には髪型が変わったみのりがおり、私の心はいつも以上に熱くなる。
別にみのりを見た目で好きになったわけじゃないけど、今の髪型が似合っいてつい目で追ってしまうことが増えた。
そんな私にこの前よっちゃんが急に「程々が大事よ」って言ってきて、最初は何のことだろうと思っていたら、みのりの頬にキスをしたことについての言葉だった。
私は分かってるよとぶっきらぼうに言い、よっちゃんは私に苦笑いして、でも「みのりののブームは確実に来るよ」と言われ、私の口角は上がった。
きっと、ドラマが始まれば私とみのりのコンビは注目される。私はみのりが早月役に決まったあとSNSを検索し『あゆはる』の人気があると知りテンションが上がったからだ。
みのりの手が私の肌に触れ、当たった部分が熱をもつ。きっと、抱きしめられたら沸騰したお湯のように熱くなるかもしれない。
恋は湯沸かし器のように体温を急激に上げていく。下がることのない恋の温度。
カメラマンの人が笑顔でと私達に指示をする。ライトアップした場所で私達は引っ付きながら笑顔を作る。
デビュー曲の「Kiss Me」は可愛くアップテンポの曲で笑顔がよく似合う。
近くでみのりの匂いを感じながら、いくつかの写真を撮り、最後はみんなで確認しながら写真について意見を出し合った。
私はこの時、二番手になってやっとよかったと思えた。もし私が三番手か四番手だったらみのりと隣同士になれなかった。
パソコンで写真を見ながら私は微笑む。みのりが私の肩に顔を乗せ、美香と由香里を削除したら恋人同士に見える写真だった。
恋人に後ろから抱きしめられる私…できれば反対を向きたいけど心臓が大変なことになるし、まだ恋人ではないからこれで丁度いい。
ジャケット撮影が終わり、次はMV撮影で衣装を着たまま別スタジオに移動する。
コートを羽織っているみのりの手はポケットの中にあり、寒がりだから仕方ないって分かっているけどこれじゃ手を繋げない。
でも、曲げているから腕は組みやすく私はみのりの腕に腕組みをし歩いた。
みのりは私の心の内に気づかず「寒いねー」と呑気に言い「早く冬が過ぎないかな」って寂しいことを言う。
「梨乃、足元気をつけてね」
「あっ、うん」
みのりのことばかり考え、上の空気味の私は段差に気がついてなかった。段差を乗り越え、私はみのりを見つめる。
みのりはさりげない優しさが多く、その度に私の胸はキュンとする。まるで漫画のようなオノマトペが私の心情に当てはまる。
車に乗り込み、私はいつものようにみのりの横に座った。「眠くなったら、肩に頭乗せていいから」ってまた優しい言葉を言い、私を笑顔にさせてくれた。
風で乱れた私の前髪をさりげなく直し、みのりはどこまでも漫画の世界の王子様だ。
みのりの肩に頭を乗せ、私は目を瞑った。朝が早くて、みのりが眠そうにしていたし、私もみのりを近くで感じていたかった。
吉田夏樹.side
今日の撮影が終わったら、みのりと梨乃はドラマの仕事に本格的に関わる。早く、早くとドラマの発表が待ち遠しい。
毎日のようにSNSで「彼女はちょっと変わっている」のエゴサーチをし、多分意図的に漏れた映像化の情報に対する呟きを探している。
主人公を演じるアイドルの高橋君の評判は上々だ。まだ確定ではないから分からないけど、情報が本当だったら絶対に似合うからやってほしいと言う意見が多かった。
そして、佐藤小春と鮎川早月を誰が演じるのかと沢山議論されている。
人気のあるキャラだからこそ、演じる人は人気とか関係なくイメージが合う人がやってほしいと書かれていた。
キャストの発表をされた時、ファンからはどんな反応がくるのだろう。きっと、最初はこの子誰?が多く、必死に松本梨乃と藍田みのりのことを調べるだろう。
そして、事務所のHPに辿り着き、今年デビューするアイドルのCLOVERを知る。
無名の新人か…とため息を吐く人もいるかもしれない。でも、大丈夫だよ。オーディションを勝ち抜いた作者お墨付きの2人だから。
特に鮎川早月はモデルとなった藍田みのり本人が演じるから完璧だし、あゆはるファンはCLOVERのSNSを見たら沢山堪能できる。
私が撮った沢山のあゆはるが写っているし、これからも私があゆはるを輪を広げる。
車の運転をしながらバックミラーでみのりと梨乃を観察する。2人は可愛い寝顔で寝ており、きっとこのショットを写真に収めればSNSできっと反応が返ってくる。
赤信号になったらこっそり携帯で写真を撮ろう。マネージャーの仕事はタレントを支え、バックアップすることだ。今、求められているものを供給しなくてはいけない。
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