第75話/カンパリーナ
田中/奏多みどり.side
今日は鮎川早月役を決めるオーディションの日だ。基本、ドラマのオーディションには原作者は来ない。権限がないし、いたら迷惑になるから来ることはない。
そんなオーディションに私はひっそりと潜り込んでいる。密偵的なものだ。
でも、ちゃんとテレビ局の許可は取ってるし、編集者の人にもどんな人が来るのか見たいだけだからと必死に説得した。
編集者さんからこっそり貰ったオーディションを受ける人のリストを手に持ち、愛しのみのりちゃんを探す。
昨日、受け取ったリストを見ながらみのりちゃんの名前を見つけた時、胸を撫で下ろし天を仰ぎながら何度もみのりちゃんが受かりますようにと願った。
鮎川早月はみのりちゃんを当て書きして作ったキャラだ。陰キャだった高校時代、みのりちゃんみたいな子にずっと憧れていた。
ヒロインの佐藤小春と仲良くなる鮎川早月。これは私の願望である。自分の過去は変えられないなら作ってしまえと願望を描き、鮎川早月は人気キャラになった。
私は早月をみのりちゃんに演じてほしい。早月を演じられるのはみのりちゃんだけだ。
最初に行われたヒロインのオーディション。この役も梨乃ちゃんに演じて欲しくて、せめてオーディションだけでもとプロデューサーにお願いしてCLOVERの事務所にオーディションのオファーをしてもらった。
だからね、梨乃ちゃんがヒロイン役に決まったと聞いてめちゃくちゃ嬉しかった。
次は鮎川早月の番。私はずっとドキドキしている。担当編集者さんから若手女優の森川愛ちゃんが三番手役の久保田凛に決まったと聞いて、鮎川早月役もオーディション無しで決まるのではないかと不安になった。
だから、鮎川早月の役はオーディションが開催されると聞き、安堵して倒れ込んだ。
鮎川早月は私にとって一番重要なキャラだ。絶対に妥協をしたくなくて、みのりちゃんにせめてオーディションだけでも受けてほしくてずっと神様に願っていた。
オーディション会場の中には沢山の若い女の子がおり、みのりちゃんのライバルになるのかと思うとため息を吐きたくなる。
みんな可愛く綺麗で…。だけど、やっぱりみのりちゃんが私の中で世界一だ。
私の目の前には私がずっと見たかった鮎川早月がいて…涙が勝手に流れた。
みのりちゃんは私が思い描く実写版の鮎川早月になってくれた。
もし、みのりちゃんが早月役を勝ち取ったら嬉しすぎて昇天するだろう。流石に言い過ぎたけど気持ちには嘘はない。
でも、ドラマを絶対に見たいし、みのりちゃんをこれからも応援したいから死ねない。
もうすぐ、オーディションが始まる。担当の編集者さんにはさりげなく…鮎川早月はCLOVERの藍田みのりちゃんをモチーフにしていると何度も伝えた。
本当は「何度も聞きましたよ…」と言われるぐらい刷り込みをしたかったけど、この話をしようとすると逃げるので諦めた。
でも、私にやれることは全部した。後はみのりちゃんの頑張り次第できっと、みのりちゃんが早月の役をやったらドラマは成功する。
もし視聴率がついてこなくてもきっと原作ファンは満足するはずだ。原作者の私が色んな所で最高のドラマだと言いまくるし、この作品はみのりちゃんあってのドラマなんだ。
私は『みのりの』が演じる『あゆはる』が見たい。みのりちゃんに出会って、自分の過去を変えて(どうでもよくなって)主人公とヒロインのラブコメではなくヒロインと学校の王子様のラブコメに路線を変更した。
あゆはるコンビの人気が出て、私と同じ思考の人が多いことが分かり嬉しかったな。
CLOVERに出逢い、私の人生はさらに豊かになった。みのりちゃんのお陰で梨乃ちゃんにも出会え、私の人生が変わる。
アイドルなのになぜか自信がなくて、まるで昔の私みたいな松本梨乃ちゃん。
私はみのりちゃんと梨乃ちゃんの関係性に惹かれた。同い年で互いに支え合い、仲が良く見た目も性格も対照的な2人。
みのりの(藍田みのり×松本梨乃)
私にとって最強のコンビであり、私の大好きなカップリング。まさか私がカップリング的なものにハマるとは思わなかった。
でも、私は2人の関係性が好きなだけで百合が好きとは違う。2人が自然と醸し出す戦友感と雰囲気が好きなのだ。
私は妄想の中で2人の関係を楽しんでいる。
これは私の自己満足。
そんな自己満足と理想を鮎川早月と佐藤小春のカップリングに詰め込んでいる。
もし、みのりちゃんが早月役を掴んだら映像でみのりのの〈あゆはる〉が見れる。
私の夢まであと少し…
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