第76話/No.4

緊張する。大きな建物の中には人が沢山おり、可愛い子達ばかりで…改めてオーディションに来たんだと認識し体が強張る。

控室に入ると、オーディションを受ける子達は真剣な表情で原作の漫画を読んだり、マネージャーさんと打ち合わせをしている。


私は周りの真剣な空気にやられ緊張がピークになり心臓に痛みが走る。そんな私とは対照的に美香や由香里は初めてのドラマのオーディションにワクワクしており、目を輝かせ落ち着きがなく周りを見渡している。


「みのり、頑張ろうね」


よっちゃんが緊張している私に声を掛け、緊張をほぐそうとしてくれている。

でも、テレビで見たことのある若手女優を見つけ私は更に緊張する。改めて私達は凄い場所にいると理解できた。


梨乃はこの中でヒロイン役を勝ち取った。梨乃は凄い。私はプレッシャーに負けそうで強気な私がどこかに飛んでしまった。

みんな、鮎川早月みたいな髪型をし役柄に合わせたキャラを作り込んでいるし、それぞれの気合いが伝わってくる。


私が受かるパーセンテージは何%だろう?1%でもあればいいけど自信がない。

少しでも緊張をほぐそうと鞄の中から漫画本を取り出す。でも、本を持つ手が震えており、深呼吸しても治らない動悸が続く。


周りの子達は私より経験豊富で知名度のある人達だ。演技経験もない私は…



弱気になり絶望していると、梨乃からLINEが来た。一言、待ってるからと。

強気な発言で驚いたけど頑張ってって言われるよりいいのかもしれない。

お陰で負けん気が復活し、梨乃に追いつきたい、負けたくないと気持ちが昂る。


私は深く深呼吸し背筋を伸ばす。鮎川早月はカッコいいキャラだ。弱気な自分を排除しなくては勝ち取れない。


「10番から15番の方、移動お願いします」


徐々に私の番号に近づいている。私の隣にいた美香と由香里が「呼ばれた!」と意気揚々と立ち上がり私に「行って来るねー」と言いながら部屋から出て行った。


私の番号は16番。美香達と連番だから一緒に呼ばれると思っていたけど、5人ずつみたいだから私は次の番だ。

16番か…。4×4は16で面白いなと笑ってしまった。私は4という数字に縁がある。


私はどうしても4番が欲しい。梨乃が待つ高みへ必ず行くために。




自分が呼ばれるのを待つ間、また漫画本をパラパラと捲り、何で共学なのに鮎川早月は学校の王子様なのかと考えた。女子校ならまだ分かるけど共学だから男子がいる。


きっと作者は女性だろう。じゃないと女の子を学校の王子様みたいな設定にしないし、美沙が言っていた通り、普通は主人公とヒロインのラブコメにするはずだ。

だから、小春と早月は友情を越えた関係性になる。美沙の言い分があっていれば。


これから小春と早月の関係はどうなっていくのかな?きっと関係性の強い友達関係で終わるとは思うけど、2人の関係性が大好きだと言う人が多く、2人の物語を求めている。


〈小春の心の拠り所〉


主人公の森田翔平は小春と趣味が合い、一番話が合う同級生の男の子。

鮎川早月は虐められそうになっていた小春を助け、人の温かさを教える女の子。


主人公とヒロインが最終的に恋人になるのがオーソドックスで一般的だ。でも、今の時代オーソドックスは古い考えでもある。

私としてはどんな終わり方であろうとヒロインの小春が幸せな形で終わればいい。


私の中で小春=梨乃に変換しているからかもしれない。小春が梨乃に似ている部分が多く、感情移入してしまっている。

梨乃が虐められていた過去を知っているから私も鮎川早月のように守りたかった。


「みのり」


「何?」


「アドバイスとかではないんだけど…いつも通りのみのりでいればいいと思うよ」


「いつも通りの私?」


「鮎川早月とみのりは似てるから…」


「そうかな?」


「うん。だから、リラックスしてね」


よっちゃんに私と鮎川早月が似ていると言われた。ハンバーグが好きだったり負けん気が強い所は似ているけど、どうなんだろう?

スポーツは得意ではあるけど、、


もしかしたら見た目の雰囲気が似ているって意味なのかもしれない。髪も色も合わせた。

そうだ…私は鮎川早月になりきらないといけない。じゃないと強力なライバルに勝てないし梨乃に置いてかれてしまう。


そっと指で漫画本の鮎川早月を触る。私に貴方を演じさせてと願いながら、ドアの方から私の番号が呼ばれ本を閉じた。


やるしかない。

私は負けない。

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