第16話/私の存在証明
ライブが終わり、着実に増えているみのりのファンに手応えを感じる。
ファンからの歓声やチェキの列の違いに私は浮かれ、私のファンである田中さんが「写真見たよ!」と嬉しそうに報告してくれた。
動画撮影の時にみんなで休憩していた時の写真が公式のSNSに上がっており、田中さんが私が梨乃に膝枕をされている姿が可愛かったと言ってくる。
その写真を撮ったのはよっちゃんしかおらず、よっちゃんには驚くことばかりだ。
私はずっと何で私と梨乃のコンビがこんなにも人気あるのか不思議だった。公式SNSには私が梨乃に甘えている写真がよく載っているらしく、いつのまにか私と梨乃のコンビ人気が出たみたいだ。
「みのりちゃんと梨乃ちゃんのコンビが好きすぎて、みのりのの写真があるとテンション上がっちゃう」
「ありがとうございます」
ファンの人に梨乃とのコンビが好きと言われると不思議な気持ちだ。別にカップル的な意味で言っている訳ではないと分かっているけどそんな風な意味にも聞こえる。
別に嫌な気分になることや偏見とかないけど、私と梨乃だと想像ができない。
コンビ売り・カップル売りってなんだろう。ファンは何を求めているのかな?メンバー同士の恋愛なんてあり得ないのに。
そんなことを思っているのに私はカップル売りを便乗しようとしている。だって、相乗効果を知ってしまった。
でも、梨乃が純白すぎて困っている。私のせいで汚してしまうかもしれない。
私は田中さんに手を振りながら梨乃を横目で見る。梨乃も私みたいに《みのりの》について何か言われているのだろうか?
もしかして…最近、梨乃が私に対して距離が近いのはみのりのを意識しているから?梨乃も私と一緒でもがいているの?
お客さんを見送った後、楽屋で汗を拭き、帰るために服を着替える。
家に帰ったらお風呂に入ってと考えていると美香と由香里にまた捕まった。
試験勉強の続きを教えてほしいと言われ、私はため息を吐きながら分かったと言う。
美香と由香里はきっと引き下がらない。だったら素直に受け入れたほうが効率がいい。
みんなでファミレスで勉強することになり、3人で行こうとすると梨乃も行くと言い出し4人で行くことになった。
私達はライブハウスから近いファミレスに向かい、私と梨乃・美香と由香里の座り位置で座り、対面で私が2人に勉強を教える。
1時間ほど勉強を教えた後、休憩することになり私は背もたれに背中を預けた。
2人に勉強を教えながら、隣にいる梨乃がずっと携帯を触っているのが気になっていた。
梨乃は私達といて暇ではないのだろうか?そんな事を考えながら、携帯を机の上に置き飲み物を飲む梨乃を見ていると、美香が私に質問をしてくる。
「ねぇ、みーちゃん」
「何?」
「何で、頭の良い高校に行ったのにアイドルになったの?」
この質問はよくクラスメイトに言われた言葉である。何でアイドルになりたいの?と。そんなの、理由なんて決まってるのに。
「私がアイドルになるのが夢で、アイドルが好きだから」
「私と一緒だ」
有名進学校の女子校に通っていた私はクラスメイトにアイドルを目指していると言うといつも苦笑いされた。
みんな今時の女子高生だけど、有名大学を目指すほどの学力の持ち主だからだ。
「大学にはなぜ行かなかったの?」
由香里も疑問を口にする。これもクラスメイトから散々言われた言葉だった。
「親と喧嘩したの。大学を取るかアイドルを取るかって」
高校3年生の時、親と半年間ぐらい同じ話をした。受験はどうするつもりなのか、本気でアイドルとしてやっていくのかと。
何度もオーディションに落ち、それでも諦めなかった私を親は呆れていた。
親が親戚に自慢する有名進学校に通いながら大学に行こうとしない私に対して。
私は別に大学に行っても良かった。だけど、きっと大学に行ったら親はそのまま就職しろと言ってくると分かっていた。
半年がかりでアイドルをやりたいと説得し、今はバイトの日々を過ごしている。
友達の美沙が有名大学に進学し、楽しそうに大学生ライフを満喫している姿を見て、最初は悔しかったけどそんな気持ちは減った。
後悔しないと決めたから。私の一番はアイドルで二番もアイドルなんだ。
それにアイドルをしていない自分を想像できない。私の小さい頃からの夢はアイドルだけだった。アイドルの道を絶たれたら私は何をしたらいいのか分からなくなる。
私は…寂しそうな顔をしていたのだろうか?梨乃が机の下で私の手を握ってくる。
確かに今になってちょっとだけ心が揺らいでいる。アイドルをしながら大学に行ってもよかったのではないかと。
未来が見えないと心が弱ってしまう。私は梨乃の手を握り返し、明日のことを考える。
明日の予定は…何だろう。まだ、何も決めていない。バイトもライブもアイドルの仕事もない日で何もない。
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