第15話/予測不能のピンク

私達の日常はそれぞれで、平日は高校生の美香と由香里は学校に行き授業を受ける。

19歳の私と梨乃はバイトをしながら、歌やダンス、自分磨きをする。


時々思う。朝からバイトをする生活をするなら大学に行けば良かったと。

バイト漬けの日々を過ごしているとアイドルなのに何をしているのだろう?と考えてしまう自分がいて嫌だった。


事務所に入った当時、私はCLOVERに賭けていた。だから、進学を選ばず…なんて言い訳だけどそれだけ本気だったんだ。



バイトが終わり、私と梨乃は恒例のライブをするためライブハウスに向かう。

楽屋に入り、ラフな服に着替え髪を結んでいると制服姿の美香と由香里が鞄を重そうにしながら一緒に楽屋に入ってきた。


これはきっといつものパターンだ。2人は私を見るなり飛んできて「みーちゃん!勉強教えてー!」と言ってくるはず。

私は急いで2人から逃げようとするけど、勘のいい2人から逃げられず捕まってしまう。


2人に腕を両方から思いっきり掴まれ痛いし、絶対に私を逃さないという強い意思を感じられ…諦めるしかなかった。


「みーちゃん!もうすぐ試験なの!」


「だから、教えて!」


美香と由香里はあまり勉強が得意ではない。だから、年上の私はいつも宿題の分からない箇所や試験が近づくとこうやって捕まる。

今からストレッチをしてリハをやってとやることがあるのに、勉強道具を鞄から出され教えるしかなくなった。


私は仕方なく椅子に座り、美香の鞄から出された教科書を手に取る。

最近の私は2人の家庭教師であり、リーダー・母親役と役割が増えてきた。


「どこが分からないの…」


「こことここ!」


美香が教科書を開き、分からない箇所を指で指す。私にとって簡単な数式の問題なのに美香は数式を見ながら嫌そうな顔をする。


「簡単じゃん」


「みーちゃんが頭良いからでしょ!」


「美香も勉強したら、すぐに分かるよ」


「頭のレベルが違うの!」


なぜか怒り気味の美香にまず数式の解き方を教える。数学なんて数式の解き方さえ覚えれば簡単で後は応用ばかりである。


「どう?分かった?」


「分かった!みーちゃん、天才!」


次は由香里の番だ。美香同様早く早くと私を急かし、教科書を押し付けてくる。


「由香里は何が分からないの…」


「英語!もう、全然分かんない!」


英語はひたすら暗記しかない。まず、スペルを覚え、その次に文法を覚え、あとは英文の解釈を理解する。その繰り返しだ。

この方法で…って由香里に言ってもダメだろうから、由香里の教科書を借りノートに試験に出そうな問題を書く。


由香里は「テストは嫌ー」と駄々をこねたけど、英語はひたすら自分との戦いだ。

何度も復習し覚えるしかない。私もそうやって高校生の時に勉強してきた。

でも、問題を書いても解こうとしない由香里に、仕方なく解き方と答えを教える。


英語は基礎が出来ていれば教えやすいけど、スペルからだと大変で教えることが多すぎて私までも匙を投げたくなる。

英語はとにかく暗記だから頑張ってと由香里に言うと「暗記嫌いー」と駄々を捏ねるから私は教科書を閉じた。


「あ、、みーちゃん、ごめん…」


「じゃ、次はこの問題を解いてみて」


やっと由香里が問題に挑もうとする。教える方も相手にやる気がなければ教えられない。

由香里に単語の意味を教えながら、文法も一緒に説明する。勉強はやり方を1つ覚えるだけで見え方は変わってくる。


「由香里、この文法はよくテストに出やすいから必ず覚えてね」


「うん!」


年下組の2人は時々悪ガキになるけど、素直でちゃんと私が怒ったことを反省し吸収する。

だから、私は2人が好きだ。仕事に対して手を抜かないし、上を目指している。


「みんな、そろそろ着替えてリハしないと時間ないよ」


勉強を教えていると時間の流れが早い。梨乃に声を掛けられ、慌てて携帯で時間を確認すると30分以上経っていた。

美香と由香里は急いで教科書とノートを鞄に入れ、着替えるために立ち上がる。


私も椅子から立ち上がり飲み物を一口飲む。ライブ前なのに疲れてしまった。

エネルギー補給のため、飴を舐めようと鞄から飴玉を取ろうとすると背中に視線を感じ振り向くと梨乃と視線が合う。


手に持っていた飴玉を梨乃に渡すと嬉しそうに笑い、ギュッと腕を組まれる。

最近の梨乃は美香や由香里化してきている。甘えん坊で…まるで美沙みたいだ。

私との距離が近く、私が意図していない《みのりの》が出来上がっている。


やっぱり梨乃の中で何か変化があったのだろうか?梨乃に違和感を感じる。

そして、私達を呼びにきたよっちゃんがなぜか私と梨乃を見て困惑した顔をする。


「ほら、、みんな!リハするよー」


よっちゃんの言葉に着替え終わった美香と由香里が慌てて私と梨乃の元へ来た。

みんなでステージに向かい、私は飴玉を食べそこねる。梨乃が私にずっと腕を組んだままで手を使えなかった。


そう言えば、美香と由香里に勉強を教えている時、梨乃から視線を感じた。

時間を気にしてくれていたのかな?と横にいる梨乃を見るといつもの梨乃で、纏っている雰囲気だけが変わっている。


パステルイエローから濃いピンクに…


ピンクって何で人気あるのかな?私は小さい頃からピンクが好きじゃなかった。

一度、気まぐれでピンク色について調べたことがある。無邪気・燃えるような情熱の両極性を持つ色で恋愛を意味する代表色だ。


そっか。恋愛に全く興味がないからピンクが好きじゃないのか。

恋なんてどうやるのかも分からないし、何が楽しいのかも私には分からない。

恋愛なんて蛇足で私にとって無意味だから。

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