第12話/ミラージュ◇◆プリンセス

今日も朝から黙々とバイトだ。でも、横にいる梨乃はいつもより雰囲気が明るい。

別に梨乃がいつも暗いとかでもなく、今日の梨乃がいつもより光を纏っている感じだ。


梨乃は梨乃だけど…纏ったオーラを色で表すと淡い水色やシックな色だった梨乃がパステルピンクや黄色を纏っている。


「みのり、手を動かさないと先輩に怒られちゃうよ」


「あっ、ごめん」


梨乃の変化に驚き、私の手がいつのまにか止まっていた。ほぼ毎日、梨乃を見ているからこそ気づけた変化かもしれないけど…梨乃は気づいているのだろうか?


中身の変化は無さそうだから、きっと本人も気づいてなさそうだ。だから、気になって聞いてみることにした。

直接本人に聞いた方が早いし、思い当たる節があるからもしかしてと思った。


「ねぇ、梨乃」


「何?」


「もしかして恋してる?」


「えっ、してないよ。一度も好きな人なんて出来たことないし」


梨乃は手を止めず黙々と働く。もし、本当に恋をしていれば手が止まり戸惑うはずだ。

私の勘違いと分かり、私は「そっか」と言い、また手を動かし始めた。


でも、良かった。もし、本当に梨乃が恋をしていたら私はその恋を応援できない。

アイドルに恋はご法度だ。バレなきゃいいって思う人もいるけど、大抵バレてしまう。


それに、梨乃が初めての恋に夢中になりアイドルを辞めると言われたらと不安だった。

梨乃までも恋をし、恋人ができたらCLOVERには純白のプリンセスがいなくなる。


「みのり、急にどうしたの?」


「えっ、何でもないよ」


この手の話は思い違いの時、聞いた側は言い訳が難しい。でも、梨乃が私に今まで付き合った人数を聞いてきて話が逸れる。

ホッとしながら私は2人と答えると、梨乃は「そっか」と言い、また黙々と手を動かす。


まさか梨乃とこんな話をするなんて…やっぱり梨乃は変化している。

思い返すと、19歳という年頃の女の子なのに私達は今まで恋愛の話をしてこなかった。


私が恋愛に対してドライだったのもあるし、梨乃も恋愛系の話をしないから恋愛って言葉から遠ざかっていた。


「恋ってどんな感じなんだろう…」


「恋?」


「したことないから想像できなくて」


ピュアな梨乃の言葉にピュアじゃない私は言葉を発せない。私は元彼のことが本気で好きだった訳ではない。

告白されたから付き合い、特に高校生の時の彼氏などはステータスみたいなものだった。


「梨乃…良い恋をしてね」


過去を振り返り、思わず出てきた言葉。私と梨乃が違いすぎて、より汚してはいけない思いが強くなる。


「アイドルに恋はご法度でしょー」


「そうだけど…」


「でも、みのりみたいに優しい人と出会えたら恋しちゃうのかな」


「私みたいな人?」


「私の理想の人はみのりだから」


梨乃に私みたいに優しい人と言われ、苦笑いする。それに理想と言われても、私みたいな人はやめた方がいいよと強く言いたい。

梨乃みたいにピュアじゃないし、ドライな部分が強く恋に向いていない。


私は恋愛不適合者だ。恋愛に全く興味がなく、本気の恋をしたことがない。

それに、キスとかエッチなどは人間の欲望でしかなく、私にとって意味なんてない。だから、恋愛なんてしたいとも思わないのだ。


「梨乃?」


「えっ、あっ、何?」


「私をジッと見てるから」


「えっ…」


梨乃の手が止まり、梨乃の視線を感じて声を掛けたけど梨乃に驚かれた。

梨乃の視線と私の視線が交差してなかったことが不思議で、梨乃は私を見ていなかったのかと思ったけどちゃんと視線を感じた。


「ほら、仕事しよ…」


梨乃に目を逸らされながら言われ、誤魔化された気分だけど、確かに今はバイト中だ。

でも、私の中にはモヤモヤが残る。


恋/恋人/恋愛


の何が良いんだろう?一度も本気の恋をしていないからだと思うけど、私は基本1人が好きで恋人といる時間が面倒くさい。

彼氏とのデートも面倒いし、キスもエッチも相手の欲望を叶えるためだけだった。


私から一度もしたいと思わなかったし、疲れるし、だから美沙の気持ちも分からない。

何ですぐに惚れるのかも理解できないし、すぐに次の恋に行けるのが凄くて、私には恋のどこが良いのか全く理解出来ない。


◇恋に憧れる梨乃

◆恋に溺れる美沙


性格も恋に対しての考え方も全く似ていない2人。梨乃が静だったら、美沙は動で恋に対して正反対の2人に私は挟まれている。

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