第11話/妄想のPRINCE.SS

今日は朝からダンス動画の撮影をし、夕方からライブをし体がいつもより疲れていた。

だけど、ライブ終わりに美沙から電話が掛かってきて急いで美沙の家に駆けつける。


美沙は私の助言通りに彼氏に気持ちを伝えたけど、最低な彼氏に「マジ、疲れる」「つまんねぇ」と言われ泣いている。

この言葉を美沙から聞いた時、私は本気でそいつを殴りに行こうと思った。


今までの彼氏も酷いけど今の彼氏(現元彼に降格)が歴代で最低野郎だ。美沙は傷つきながらも別れたみたいだけど私は悔しい。

何で美沙ばかりこんなにも傷つかないといけないのと怒りが出てくる。


私の腕の中で泣いている美沙の頭を撫でる。肩が美沙の涙で濡れ、今日は色々と疲れる1日になった。

恋愛なんて…本当に面倒くさい。私は元々恋愛に対して面倒うって考えを持っており、恋愛なんて疲れるものでしかなかった。


「美沙、もう忘れなよ。次は良い人に出会えるかもしれないから」


「うん…」


この言葉も私は何度口にしただろう。美沙に対する常套句が多すぎてもう覚えきれない。

美沙が何度も誰かと付き合うたびに同じ言葉を毎回言っており変わることがない。同じことの繰り返しでループ再生だ。


重たいな…


ベッドの上で美沙に押し倒され、仰向けの私に美沙が引っ付き甘えてくる。さっきまで泣いていたのに…美沙は切り替えも早く、だから次々と恋をする。

そんな美沙の甘え方は年々酷くなってきており、幼児化が進んでいる感じだ。


美沙は5歳児みたいに無邪気に甘え、私の首元に頭を置き、最低の元彼野郎と別れた悲しみなんてとっくに無い感じだ。

これもいつものことで、美沙が恋人と別れた後に私はこうやって保護者になる。


だけど、身動きが取れないのは嫌だ。美沙といると動きを制限されることが多く、何も出来なくなることが多い。

今も携帯を触りたいのに美沙にホールドするみたいに抱きつかれ身動きがとれない。


「美沙、そろそろ離して」


「やだー、みのりを堪能してるの」


いつも通りの美沙に戻ったけど、私に対し「みのり、大好き〜」と言い、私を恋人の代わりにし甘えてくる。

私はそんな美沙に対して反応しない。ただ、ひたすら無になり受け入れる。


慣れといった方がいいのかもしれない。私と美沙は女子校出身でハグや手繋ぎなんて日常茶飯事だった。

友達同士の距離の感覚がバグっており、どれだけ美沙と距離が近くても何の感情も無く、されるがままの状態で明日のことを考える。


「あっ!」


「へへ」


美沙に頬にキスをされ、やっと美沙と距離を置く。流石に美沙をこのまま放置すると何をするか分からないし疲れた。


「あー、離れた」


「ライブ終わりだからお風呂に入りたいの」


「じゃ、私も入る〜」


美沙がひっつき虫のように私から離れない。仕方なくそのまま一緒に階段を降り、慣れ親しんだ美沙のお母さんにお風呂に入ることを伝え、美沙と一緒にお風呂に入る。


明日は朝からバイトだ。アイドルをやっているのにバイト生活から抜け出せないこの状況を考えるとため息がでる。

浴槽の淵に腕を置き頭を乗せ、物思いに耽る。前進はしたけど、まだ先は長い。


「みのり、考え事?」


「まぁ…」


「今度は私が癒してあげるよー」


「こら、引っ付くな」


お風呂に入っているから当たり前だけど裸の美沙が私に抱きつくから、美沙の肌の感触がダイレクトに伝わる。

高校時代からいつも美沙は私に引っ付いてきた。私に張り付いている美沙の方に顔を向けると今にもキスができる距離だった。


でも、こんなに近くに美沙の顔があっても私も美沙も驚かない。この距離も慣れた距離で、美沙を見つめると美沙が私に微笑む。


梨乃は…私から目を逸らす。


この違いは何だろう?やはり、慣れなのだろうか?私と美沙が高校時代から友達で、、ってダメだ。今日は疲れのせいで頭が回らないし、体が疲れている。


「みのり、いつもありがとう」


「えっ?」


今日はお風呂から上がったらすぐに寝ようと思っていたけど、美沙の言葉で諦める。

私は昔から美沙に弱い。弱いから突き放せなくて美沙をつい甘やかしてしまう。でも、美沙が好きだから甘やかしたい気持ちが強い。


長く湯船に浸かってるせいか頭がボっーとしてきた。そんな中、朦朧としながらもまた梨乃について考える。

梨乃が美沙みたいな性格だったらもっと簡単にカップル売りができたかなと?


今も梨乃とのカップル売りの葛藤がなくならず、悩むのをやめたいけど悩んでしまう。

きっと、梨乃が良い子で真面目でファンが理想とする純白のプリンセスだからだ。


私は純白のプリンセスではない。

でも、偽ることはできる。





「みのりは私の王子様だね」


意識が朦朧としている私に言った美沙の王子様という言葉に脳が反応する。あんまり嬉しくない言葉だけど、ふと思い出した。

エゴサした時、ファンの人がSNSに私のことを梨乃の王子様と書いていた。


私は女なのになぜ王子様なのだろう?と考え、梨乃の彼氏役って意味にたどり着いた。

ファンが理想とするアイドル像はとても窮屈でリアルを嫌う。現実を拒否し、固執した偽りしかない世界を望んでいる。

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