第46話/無限のイマジネーション

今年最後のライブが終わり、私達はみんなでお参りに行くことにした。

未成年である私達の保護者の代わりとしてよっちゃんが付き添い、私達は神社に向かう。


美香と由香里はみんなで夜ふかしできることに喜び、テンションが高くうるさすぎる。

2人は良い匂いを漂わせる屋台が沢山ある境内を私と梨乃の腕を引っ張りながら歩き、食べ物に目をキラキラさせ興奮している。


「あー、いちご飴!」


「美香!たこ焼きもあるよ」


美香と由香里が屋台で売られている食べ物を見て騒がしいし、こんな時間から食べたらと思うけど今日はアイドルのチートデイだ。

大晦日ぐらい好きな物を食べたいし、屋台を見たらやっぱり食べたくなる。


「梨乃は何か買う?」


「うーん、私もいちご飴を買おうかな。みのりは何か買うの?」


「私は甘酒かな」


「ふふ、みのりって…」


「どうせ、おっさんくさいとか言うでしょ。甘酒、美味しいのに…」


「みのりー。私も甘酒好きだよー」


「やった、仲間がいた」


お酒大好きなよっちゃんは甘酒も好きみたいだ。冬は甘酒だよねーと言い、早速甘酒を売っている屋台を見つけ「甘酒発見!みのり、行くよ」と連れていかれる。


よっちゃんが甘酒を二杯頼み、久しぶりに甘酒を飲んだ。甘くて、確かに好き嫌いが出そうな味だけど私は小さい頃から好きだ。

梨乃は美味しいーと言いながら飲む私とよっちゃんを興味津々とした顔で見る。


梨乃に飲んだことある?と聞くと「ない」と言われ、私は飲む?と梨乃に差し出した。


「いいの?」


「試してみてよ」


恐る恐る一口、初めての甘酒を飲む梨乃を見守る。梨乃は「あっ」と驚きながら、明るい表情で「美味しい!」と言ってくれた。


「でしょー」


「甘くて、飲みやすくてビックリ」


「梨乃、全部飲んでいいよ」


「えっ、でも」


「大丈夫。もう一杯買うから」


私と梨乃とよっちゃんは甘酒を飲みながら、いちご飴を片手に持ちながらたこ焼きを食べる美香と由香里の元へ行く。

2人の姿は食いしん坊の子供みたいで、イタズラ心で美香のいちご飴を一口食べると美香が「あー!」と騒ぎ出した。


「みーちゃん!」


「うん。美味しい」


「私のいちご飴ー!」と騒ぐ美香に笑いながら、年齢も性格も違うメンバーと過ごす時間が楽しいと心から思えた。

きっと、アイドルにならなかったら梨乃、美香、由香里、よっちゃんに出会えていない。


CLOVERになれたからこそと感慨深い感情が湧き上がる。苦しい時もあるけど、みんながいるから楽しくて、頑張ろうと思える。

毎日のように一緒にいても苦痛なく過ごせるのは、きっとみんなが本気でアイドルを目指しているからだ。同志と言える存在。


「みんな、そろそろお参りに行くよー」


「はーい」


よっちゃんの掛け声に美香がたこ焼きをもぐもぐと食べながら声を出す。

16歳の美香は食べ物を食べている時、子供みたいな姿で口元にソースを付けている姿はまるで幼稚園児だ。


「美香、口元にソース付いてるよ」


「みーちゃん、拭いてー」


顔を私の方へ向け、早く早くと急かす。私は鞄からティシュを取り出し拭いてあげた。

そんな私達を見て、よっちゃんが微笑みながら「親子みたい」と言い、写真を撮る。


「あー、よっちゃん!いきなり撮ったー」


「私は日常の切り抜きを撮りたいの」


美香は意識していない時に写真を撮られ、慌ててすぐに写真のチェックをする。

写真に対して強いこだわりがある美香は自分がどの角度でどんな風に写真を撮ったら可愛く写るか研究している。


美香の自己プロデュース能力はメンバーの中で一番であり、だからこそ美香がセンターと立つことにみんな納得している。

もちろん、悔しい気持ちはあるしいつかは自分もセンターにと思っているけど。


「よっちゃん、私も撮ってー」


由香里がよっちゃんに私も私もと言い、美香と肩を組みながらポーズを取る。

アイドルではない時間の最年少組の2人は私にとって無邪気な孫みたいな存在だ。だから、つい甘やかしてしまう。


でも、アイドルの美香と由香里は私のライバルになる。ちゃんとメリハリをつける2人。

仕事に対してのプロ意識がきちんとあるし、アイドルの仕事に妥協をしない。



だから、このグループで売れたい…



やっと受かった、巡り会えたグループ。そして、よっちゃんという心強いマネージャーもいて、戦友の梨乃もいる。

最強の布陣で来年メジャーデビューするからには必ず売れたいと言う気持ちが強い。


手が暖かい…私が美香と由香里を見ながら来年の抱負(未来)について考えていると、隣にいる梨乃が手を繋いできた。

私の顔を見つめ、「来年もよろしくね」と言われ私もよろしくと言う。


CLOVERは来年が正念場だ。メジャーデビューしても売れないアイドルは沢山いる。

私は人気のあるアイドルになりたい。私は小さい頃から沢山のアイドルを見てきた。

だから、人気のアイドルになる為には実力以外のものも必要だと分かっている。



【きっかけ】が必要なんだ…



「みのり、私…頑張るね」


「えっ…?」


「みのりのためなら何でも頑張れる」


急に梨乃が何か意を決したような言い方をし、私の手を強く握る。私のためとはどういう意味だろう?

私達の会話を聞いていたよっちゃんと梨乃の視線が合い、よっちゃんは苦笑いする。

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