第18話/フローズン・ハート
流石、テレビで何度も紹介されたお店だ。頼んだパンケーキがちゃんと美味しかった。
だけど、1200円はやはり高い。私の好きな物は同等のお金を出せば心も満たされる。
「みのり、美味しいね!」
「うん。美味しい」
今日は平日で雨の日なのにお店に入るまでに30分並んだ。並ぶのが苦手な私はこの時点でヘキヘキしたけど我慢をした。
アイドルの握手会だったら何時間でも並べるし、握手する為ならお金を惜しまないけど…
この30分は苦痛でしかない。
きっと、自分が本当に時間やお金を使いたいことじゃないと喜びが半減されるのだろう。
これが感覚の違いで、それか私がドライなだけでアイドル好きの性なのかもしれない。
「梨乃、こっちも食べていいよ」
「やった!少し貰うね」
私が頼んだパンケーキは苺と生クリームがたっぷり乗った物で美味しいけど、途中で甘さに疲れウンザリする。
周りの人達はニコニコとした顔で写真を撮り、パンケーキに手を付けるまで何分掛かるのだろう?ずっと写真を撮っている。
カップラーメンが出来上がって5分も放置したら麺が伸びて美味しくない。それと一緒なのに、この一皿にみんな何を求めているの?
梨乃も何枚か写真を撮ったけど、早く食べようって言ってくれたから良かった。料理が乾燥していくのを5分間ずっと見るなんて嫌だ。
「みのりもこっち食べてみて」
「うん。貰うね」
2人が頼んだパンケーキは甘く、甘くない紅茶を飲みながら食べ続ける。
この店は可愛い服に可愛いパンケーキがよく合う。まさに梨乃の姿(アイドルとしても)がお手本で…私は欠点ばかりだ。
私は恋愛の面ではアイドルに向いているけど、梨乃があまりにも輝いており眩しくなった。
ステージ上ではアイドルとして全うしているけどリアルになると正反対すぎる。
「みのり、この後どうしようか?」
「えっ?あっ、そうだな…」
パンケーキをフォークで突きつつ、自虐していたら梨乃に声を掛けられ慌てる。
できれば、雨を避けられる場所がいい。窓から見える雨の量はずっと変わらず、これ以上スニーカーを濡らしたくなかった。
「あれ、松本さん…?」
「えっ…」
「あっ、やっぱりそうだ〜。覚えてる?中学の時、一緒のクラスだった近藤尚美」
梨乃と一緒に携帯でどこに行こうかと模索していると梨乃の友達らしき女の子が梨乃に話しかけてきた。
女の子は笑顔で中学時代のクラスメイトと言ったけど、梨乃の顔色が暗い。それに、近藤さんだっけ?なぜか顔がニヤついている。
「久しぶり…」
「ねぇ!久しぶりだねー」
私は2人を交互に見てピンとくる。梨乃は中学時代、クラスメイトに虐められていた。
私は正義感が強いわけではない。でも、はっきり言ってこの手の人はウザい。
萎縮する梨乃を見て、今も優位に立っていると思っている姿が馬鹿すぎて苛立つ。
「あっ、せっかくだから電話番号交換しようよ。また、会いたいし」
人はなぜ…ってこんな事を考えるのも面倒くさい。頬杖をつきながら状況を見ていたけど、梨乃が心底嫌そうな顔をしている。
もうそろそろいいかなと思い、私はずっとニヤニヤと笑う女の子に声を掛ける。
「あの、すみません。そろそろ行くのでいいですか?ほら、梨乃。行こう」
「えっ」
私の突然の行動に梨乃が驚いているけど、これ以上ここにいたくないし、女の子の後ろにいるニヤついた顔をする男の人もムカつく。
私は梨乃の手を掴み、レジまで歩く。後ろで「ちょっと!」とイヤミ(近藤)さんの声が聞こえたけど無視をした。
「みのり…」
「梨乃、今日は私の奢りね」
レジの会計を早く終わらせたくて梨乃の分も一緒に払う。お店から出ると小雨になっていたけど嫌な気持ちになった。
やっぱり雨は好きになれない。灰色の空は暗すぎるし、私の気持ちも下げる。
「みのり…ありがとう」
梨乃が下を向きながら私にお礼を言う。梨乃は可愛いのに下を向く癖があるのはきっと中学時代のトラウマだろう。
だから、梨乃のおでこに人差し指を置きおでこを上に上げる。
「こら、下を向かない」
「えっ、、うん」
「梨乃、昔は昔。今は今だよ。さて、次はどこ行こうか?」
「えっとね、、散歩!」
「じゃ、散歩しようか」
やっと笑顔になった梨乃に釣られるように天気が変わっていく。雨が止み、まだ曇り空だけど傘をささなくてよくなった。
「あっ、雨が止んだね」
「うん」
「梨乃、近くの公園に行こうか」
「うん!」
傘を閉じ、水溜りを避けながら歩いていると空に虹が出ていた。久しぶりに見た虹は綺麗でつい歩みも止まる。
隣の梨乃も虹に見惚れている。互いに「綺麗だね」と言いあい虹の橋を満喫する。
何もない日より、何かあった日の方が楽しい。梨乃に誘われ外に出てよかった。
「みのり…腕組んでいい?」
「腕?いいよ」
梨乃の腕が私の腕に回り、私達の距離が近くなる。梨乃は彼氏が出来たらこんな風に甘えるのかな?梨乃の笑顔が眩しすぎる。
私は一度も元彼にこんな風に甘えたことがない。付き合った彼氏に「別れよう」と言われたら「分かった」と承諾するだけ。
縋ることもせず
追うこともせず
寂しがることもせず
私は欠陥品なのかもしれない。
トラウマからも脱却できておらず、昔は昔って分かっているのに変われない。
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