第6話

「見つかった。見つかったぞ」


 アベルはその壁画を掲げた。埃まみれの壁画には青い宝石が太陽に照らされて光り輝いている。例の宝石職人が通りかかって、それを見ると大声で言った。


「ミチル様だ、ミチル様だ」

「ええ何、ミチル様だと」


 大長老は重い足で走って、それを寄こすように言うと埃を払った。


「古代文字だ」


 アベルが言う。


「私は読めるから下がってなさい」


 大長老の口から唱えられた言葉は、代々この国で受け継げられてきたままの伝説の予言だった。


「猫だ、猫だ」


 黒猫だ、と騒ぐ民たちを避けアシュガは大長老からその欠片をもらうとその絵を見た。


「確かに黒猫だと思われますね、この壁画をほかの壁画と集めて一つにつなげましょう。一つの絵になるはずです」


 その頃、アスターはいつもより酷く咳き込むミチルを見て街の東へ走った。東へ走ると街の者が”悪魔のアスター”と罵りの声を上げた。アスターはかまわず土壁の並ぶ街を歩いた。アシュガは東の遺跡にいる。

 ミチルは咳き込む中、アスターとの別れを悟った。そして自らの手に付く真っ赤な血を見て涙を流した。



 作業は順調に進んでいた。アベルが最後の壁画を埋め込んで、予言の証は完成した。”アスターを呼べ”との声が響き渡る中、一匹の黒猫が首の鈴を鳴らしながら走ってくるのが見える。アスターは叫んだ。


「僕が悪魔の猫だ!」


 アシュガはしゃがんで言った。


「本当にお前が悪魔の猫なのか? 」


 アスターは頷く。そして大長老に顔を向けた。


「僕を火にくべて、槍で射ってください。そうすれば姫はたちまちに元気になります」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る