第5話
「ミチル、僕。本当は悪魔の猫なんだ」
「何それ、私信じない」
「本当なんだって」
ミチルは知っていた。”悪魔の黒猫”という声はミチルの耳にも届いていた。ミチルはずいぶん前から気付いていた。アシュガもエニシダも苗字がない。自分にもトオルにも苗字はあるのにあの二人にはない。おかしいと感じていた。それであのおとぎ話のことで確信したのだ。
「アスターはとても良い子。だから悪魔なんて信じません」
「ミチル・・・・・・ありがとう」
アスターは言った。
「でも、本当なんだ。僕ね、悪魔なんだ。悪魔だから火にくべられると浄化しちゃうんだ。でも闇になって消えるから痛くもかゆくもないんだよ」
ミチルは黙ってアスターの顔を見た。
「可愛い悪魔ね」
ミチルはアスターを抱きかかえた。
「信じてくれた? 」
「うん、信じる」
アスターはホッとすると、ミチルのベッドに座りミチルを呼んだ。
「お話をしよう、ミチル」
「そうね、会ったばかりの話をしようよ」
ミチルとアスターは街の郊外で出会った。ミチルは15歳、アスターはまだ子猫だった。アスターは段ボールで眠っていた。捨て猫だったのだ。アスターは真冬の最中、傷だらけでいた。ミチルはその体を抱えて走った。
アシュガはまだ魔学に精を出す成人したばかりの青年で、医師としてもまだ未熟だった。アシュガはアスターを見てこう言った。
「無理だ、そいつは死ぬ」
ミチルは怒った。
「嘘よ、ミチルがケガをした時は真っ青な顔で治してくれたもん」
「いや、そいつは間違いなく死ぬ」
アシュガは頑なに治療を行うのを拒んだ。ミチルは言った。
「アシュガなんか大っ嫌い、顔も見たくない」
アシュガは文字通り顔を真っ青にした。
「ミチル、そんなことを言っちゃ」
「大っ嫌い、大嫌い」
「わかった・・・・・・治すから」
アシュガはアスターを見て呪いにかかっていることを知ってはいたものの、長時間かけて治そうとした。アスターが元気に回復したのを見て、ミチルは両手を挙げて喜んだ。アスターはミチルの家で暮らすことになった。朝起きて、おはようを言うときも、夜、お休みを言うときもいつも一緒だった。
「あの時のアスターったら、小さくて可愛くて。赤ちゃんアスター、ミチルミチルって言って私から片時も離れないの」
「今はたくましくなったでしょ」
「ううん、ぜーんぜん」
ちぇっと言ってアスターは拗ねたふりをした。そして真剣な顔になった。
「ミチル、僕はミチルを守るために生まれてきたんだ」
「何それ、本当なの? 」
「本当だよ、ミチルと片時も離れなかったのはそのためなんだ」
ミチルはアスターを頬に寄せた。
「ありがとう、アスター」
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