第3話

 ある日からトモルは宮殿を出ないでミチルと二人きりで過ごすことが多くなった。トモルはミチルに好きなことをうんとやらせた。ミチルは小説を医師のアシュガに止められるまで書き続けた。


「ミチル」

「・・・・・・トモル」


 二人は時々こうして唇を寄せ合った。トモルはミチルの執筆作業中、心配そうにしながらも紅茶を注いだり、ミチルが知らず眠ってしまったら毛布を掛けたりなどもした。ある時は肩を揉んだり、休んでいる間は懸命にも楽しく未来を語った。


「トモル、もう少しで話が完結しそうなの」

「おお、ミチルの書く話は面白くて壮大だよな。それに夢見心地で」


 トモルは過去に取り寄せたミチルの本を読みながら答えた。ホシ・ミチルと著者名が背表紙に書かれている。


「ホシ、ミチル先生はすごいや」

「えへへ、冗談でしょ」

「冗談じゃないって、ミチルはすごいよ」


 トモルはミチルの少し伸びてきた髪を愛おしそうに撫でた。ミチルは気持ちよさように目をつむる。


「ありがとう、好き」

「・・・・・・愛してる」


 ミチルがこんなことを言うときはトモルは体を熱くさせた。すぐにでもベッドに放って自らも潜りたくなった。ミチルの病を憎むのと同時に自分を憎んだ。時折アスターが顔を出した。アシュガも自ら止めに行きたいのを必死にこらえてそれを影で見守っていた。


「アスター、トモルを恨めしく思うことはないか」

「ないよ、ミチルの愛しい人だもん」

 

 そして申し訳なさをアスターは顔に出した。アシュガは悔しそうに壁を蹴った。


「しょうがないよ、二人は結ばれているんだもん」

「・・・・・・今にも壊してやりたい」


 ところがアシュガは手を出せなかった。最初はミチルを奪い取るために来たものの、トモルを引き離すことが彼女を不幸にさせることだと彼はここ数日間で知ったのだ。

 彼は宣言した通り医療に従じるしかなかった。黒猫の運命と彼等の未来を知りながら。

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