第8話

「どうして私がここにいるって・・・・・・」

「どうしてってミチルがいる場所はあの家かこのオンボロ研究所しかないでしょう」

 

 棚にポシェットを置き、ミコは見舞い用の椅子に腰を掛ける。足を組んでミチルを見た。


「それで、どうなの小説は」

「ううん、吐血の原因を突き止めるまで書くのは禁止だってアシュガが」

「はぁ、小説書くぐらいならいいじゃない。あいつも過保護ね」


 ミコは両手を空に向けて首を振った。うん、と言ったきりミチルは窓から空を見上げている。


「またあの人のこと考えているの?」


 ミチルはあの人のことを思い描きながらうなずいた。眉を下げて、ミコは言った。


「大丈夫よ。きっとまた会えるわ」

「うん、だといいけど」


 ミチルは心許なさを顔に表している。ミコは彼女の体を心配していないわけではなかった。


 二人の間に美味しい匂いがしたのはその時だった。


「昼食の時間ですよ」


 エニシダがワゴンに食べ物を載せて運んできた。ジャガイモとニンジンのスープだ。思いっきり睨むミコを無視して。備え付けのテーブルに置くと薬と笑ってカーテンを閉じる。


「私、あの人のこと大っ嫌い」

「・・・・・でも我慢しなくちゃ」

「我慢は体に毒よ」


 いいからとミチルは首を横に振った。シーツを握る力を強める。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る