第6話

 魔方陣の先は研究所だった。真っ白な研究室を通り、医務用のベッドにアシュガは嫌がるミチルを無理やり寝かせた。


「いやだ、私は小説を書きたいんだ」

「そう暴れるな、お前の吐血の原因を突き止めたら家へ帰す」


 ミチルの頭を撫で諭すように言いながらいつの間にか描いていた緑の小さな魔方陣を額に移し、うとうとする彼女に向って唇を動かした。


「もうおやすみ」


 ミチルは永遠に寝てしまうかのように目を閉じた。


 ミチルが起きたのは翌朝だった。窓目から見えるのは朝日に照らされた郊外の下り坂。タイルがキラキラと明るく赤く染まりかけている。所々深い青を残しながら。


 ミチルは額に手を当てた。


「昨日のことが思い出せない」


 そのそばには黒猫がいた。


「ミチル、無理は良くないよ。さあ、よこになって」


 するとミチルは思い出したかのようにわっと声を上げた。


「小説、小説を書かなきゃ」


 慌てるミチルの体にくっつき、アスターは言う。


「大丈夫、病気が治ればすぐに小説が書けるよ。そうだ、僕とお話ししよう」

「いやだ、小説を書かなきゃ・・・・・・」


ウっと声を上げてうずくまりせき込むミチル。アスターが悲しい表情をする。


「どうしてそこまで・・・・・・」


 泣き叫ぶミチルの姿をアスターはただ見ていることしかできなかった。

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