言外なのは毒のせい
トール
一章 ハイド
プロローグ
文武に優れた我が校きっての才女の名前だ。
容姿端麗、眉目秀麗、花顔柳腰、才色兼備、明眸皓歯、羞月閉花、頭脳明晰、品行方正、エトセトラエトセトラ……。
彼女を表す四字熟語を上げれば、それこそ切りがなくなるだろう。
しかしそれも宜なるかな。
その顔の造りからして老若男女を魅了し、完璧なプロポーションから生まれる優雅な立ち居振舞は他人を惹き付けて止まない。
長い黒髪を頭の後ろで纏め上げ、言葉少なに微笑みを浮かべる様は正に菩薩。
また見てくれだけでなく能力に於いても他の追随を許さない。
首席入学を果たしてからというもの、その座を誰かに明け渡すことはなく、更には運動能力も各部活が勧誘を絶対に諦めない位に高いという。
高校も二年目になるというのに、だ。
容姿、能力、このどちらかだけでも人生を上手く渡って行くに足る武器だというのに……。しかしあろうことか神は「そんなんじゃ足りねえ!」とばかりに彼女に更なる寵愛を与えて地上へと送り出した。
まず環境。
実家が金持ち。
シンプルに羨ましい。それだけで前の二ついらなくね?
次に科学的に実証できるんじゃないかという幸運。
地震雷火事オヤジも彼女だけは避けたという逸話が有る程だ。
これは盛ってる。嘘つくな! オヤジは寄ってきてるだろ!
しかしそんな噂が立つぐらいに、彼女の人生は常勝(上昇)を続けている。
他にも、どこぞ外国の王室関連の人からプロポーズがあっただのなんだの、頬に傷のあるお方が頭を下げて道を作るだのなんだのと……え、怖い。
羨望と嫉妬の混じった噂やら真実やらが多々。
まあ、実利という面で敵はいないと見ていい。なんせ金持ち。万事が万事そこで解決。
しかし、これだけ優秀な所というか持ってる所ばかり上げられると「でも性格はどうなのよ?」と難癖をつけたくなるのが人の性。
そう、性格。
我々貧民中流階級の最後の牙城。
……それすら彼女は凌駕する。
子は親を選べないという格言も彼女の前では霞み、神が選んだ彼女の親は名代一の人格者であるそうだ。ふぁっK。
そんな親から厳しくも優しく、愛情を惜しみ無く与えられ育てられた彼女は、性格もめちゃくちゃ良いと伝え聞く。実際に常時菩薩スマイルな訳だし。俺も遠目から見たことある。マジ綺麗。
それだけの美貌で能力で、しかし決して前に出ることはなく、どんな嫌われ者の話だろうと物静かに聞き入れ、微笑んで相手を受け入れる性格は、正に現代の大和撫子だと言われる。
嫉妬も及びつかない程のパーフェクトヒューマン。いやウーマン。
それが――高城 雫、という女子……だ。
……たぶん。
校の内外を問わずにファン多し。
…………うん。
――――その完璧才女が、今――――
「――吐く息が臭くて大変不快でした。そもそも話されている内容からして微塵も興味が湧かないというのに――」
俺の上で毒を吐き続けている。止めどなく。
――一時間ほど。
誰か、誰か助けて。
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