収納空間


 幽界卿アデオンロードのおかけで、ずいぶんとたくさんのララを貯めれそうだ。


「とはいえ、もっと収入を増やしたいな」

 

 理由がある。


 それは、ある技が今しがた開発できたからだ。


 俺は黒い指輪に視線をおとす。


 ──────────────────


 残高

 17,104ララ


 ──【時空剣】


 技名:抜剣

 コスト:-100ララ

 備考:異界に返還すると+100ララ


 技名:装備

 コスト:-10ララ/毎秒

 備考:装備中、継続して魔力消費

 

 技名:収束重撃波・小

 コスト:-8,000ララ


 技名:収束斬・小

 コスト:-1,000ララ


 技名:抜剣・射出

 コスト:-150ララ 

 備考:異界に還元すると+100ララ


 技名:収納 NEW!

 コスト:-1000

 備考:1m四方の永久空間を異界に開く


 ──────────────────


 収納という技が増えた。

 これはモノを空間にしまう便利さに気が付いてしまったので、開発した技だ。

 

 今から、この技で何ができるのか実験を始めようと思う。


 まずは、俺は目の前にできた亀裂を、左右に押し開いた。


 すると、くらい1m四方の空間がそこには広がっていた。


「1,000ララでこのサイズの部屋を作れるのか」


 安くはないが、利便性を考えれば当然の対価かもしれない。


 しかも維持費はかからないと来た。

 良いじゃないか。


「もう1,000ララ使ったらどうなるんだ?」


 俺は指輪から、空間へ1,000ララ分の魔力を吸わせる。

 

「おっ、ちょっと広がったな」


 気持ち空間が四方へ膨らんだ。

 なるほど、1,000ララ分の魔力を追加すれば、縦横1m分の空間を拡張できるらしい。


「うーん、でもお金ないからなあ……」


 俺は人が立っても入れるように、もう2,000ララ分だけ空間を拡張した。


 魔力の明かりなのか、四方が黒い壁でおおわれているのに、不思議と暗くはない。

 これなら明かり無くても、十分に視認可能だろう。


「ほかには……ん? これは?」


 壁に何かが彫られている。

 それは、梟の模様のように見えた。


 俺は別に愛鳥家というわけではないのだがな。

 なんでこんなものがあるのだろうか。


「まあいいか」


 模様のほかには、別段目立ったものはなかった。


 俺は収納スペースとして十分使えるとして判断し、この日の実験を終了した。


 ──5日後


 俺はある違和感を得ていた。


「妙に新鮮だな……」


 それは、剣の稽古の休憩中に、かじっていたリンゴに対する違和感だ。


 5日前、小腹がすいた時食べようと思って入れておいたのだが、すっかり忘れており、本日発見に至り、かじってみたのだ。


 鮮度に関してはなにも期待していなかったのだが、これが驚くことに、採れたての果実そのものの水水しさを誇っているのだ。


 確かに、木からもぎとって、そのまま放り込んだが、流石に5日間も鮮度が保たれるとは思えない。


「もしかして、収納空間だと鮮度が保たれるのか?」


 俺は実験をすることにした。


 かじりかけのリンゴ、温かいスープ、そして懐中時計──。


 これらを空間にしまった。


 さて、どうなるのか。


 ──2日後


 俺は空間を開いた。


 さっそく、スープを手に取ると、


「温かい。時計の時間もすすんでない」


 リンゴも水水しかった。


 俺はひとつの結論を得た。


 どうやら、この収納空間、鮮度を保つというより、時間そのものが進んでないらしい。


「異界だからかな? もしかして、時間という概念自体ないのか?」


 あるいは時間という概念を無意識に時空剣で操作して、止めているのか……考察は尽きない。


 今、考えても仕方ない、か。


 俺は、このあと、いくつかの実験をした。


 結果、3つの特徴を確認した。


 ①収納空間の中では、入り口を閉じた状態では時間が経過しないこと

 ②生き物が中にいる状態では、収納空間を完全に閉じれないこと

 ③運動の時間もとまること


 これらの能力はどれも強力だ。

 特に③はすごい。


 俺は時空剣を手で投げて、新しく開いた収納用の空間の入り口に入れた。


 剣がすっぽり入った瞬間に入り口を閉じる。


 今度は入り口の地面と水平に開いた。

 すると、勢いよく収納空間から剣が飛び出して地面に突き刺さった。


「いいな。これならお金かからないぞ」


 これは、射出──バージョンⅡと名付けよう。


 -50ララを使って撃つより、手動で投げてるので威力は落ちるが、魔力を使わない分、コストパフォーマンスはずっと優れている。


 最近の俺は、無料とか、半額という言葉が好きなのだ。


「我が師よ、いったい何をしているというのですか? 夜の闇へ、夢中になって剣を投げ入れるなど。ふふふ、あるいは、もうとっくに引き返せない闇に飲まれてしまったとでも?」


 俺はノエルに揶揄われながらも、この日から、100本の時空剣を、バージョン2で撃てるように収納空間に待機させるようになった。


 

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