やがていつか英雄になる幼馴染達

仲仁へび(旧:離久)

01



 僕には幼馴染が二人いる。


 一人は「騎士ってなんか恰好よくね? 俺騎士になる!」とか馬鹿な事を言ってる平民の馬鹿。


 もう一人は「人のためになる事がしたいの。だから勇者を目指すわ」と真面目に馬鹿な事を言ってる貴族のお嬢様。


 二人とも一癖も二癖もあるし、面倒ごとを招き寄せるどころか、自ら突っ込んでいく面倒な奴らだ。


 だけど、もうかれこれ何年もずっと一緒にいる。


 それはなんだかんだいって、あいつらと一緒にいるのが楽しいからだろう。


「ヨルン! 宿題やってくるの忘れた! うつさせてくれ!」

「ヨルン! こっちに宿題忘れた子が来たと思うけど、私学級委員長だから面倒見なくちゃいけないの。知らない?」


 たまに、いやしょっちゅう面倒かけられるが、あいつらの事は割と気に入っていた。


「おい、馬鹿。あれほど宿題やっとけって注意しただろ。なんで忘れるんだよ。あ、お嬢様。その宿題忘れた馬鹿はいつもの馬鹿の事ですよ。面倒みてやってください」






 そんな中、勇者養成学校に通っている僕達は卒業試験を受けることになった。

 卒業試験の内容は魔物の討伐。

 一定の数倒したら卒業ができるらしい。


 一昔前と比べて勇者になれる人数が増えてきたため、当時と比べてだいぶハードルが下がってきているが、それでも学生がこなすには少し難しい。

 魔物との戦闘になれば命を落とす危険性があるだろう。


 けれど、僕の幼馴染(馬鹿&お嬢様)にふりまわされてきた経験が活きているのか、クラスメイト達は全員、試験に乗り気なようだった。


 数字が好きな女生徒によれば「私達全員の試験の合格確率はほぼ百パーセントです」とのことだ。

 けれど(※ただし問題が起きない場合に限る)なんだよな。


 あの二人、トラブル吸引体質だから、絶対今回も何かあるぞ。


 僕は目の前、授業中にかくれて何かを口に入れている馬鹿と、それと注意いしているお嬢様を見た。


「あむあむ」

「あっ、駄目じゃない隠れておやつなんか食べて。今な授業中なのよ。これは没収」

「えーっ。ちょっとくらい良くね? なあヨルン、どう思う? 俺宿題忘れたせいで昼ご飯抜きで勉強させられたんだぜ? ちょっとくらいいいと思わね?」


 お前らちょっとは緊張感もてよ。







 そんなこんながありながら、試験の日がやってきた。

 辺境の町まで行って装備のチェック、地形の確認をした後、魔物がすみついている森へ向かう。


 が、現地周辺の様子がおかしい。


「何かへんだな」

「魔物が多すぎるわね」


 森の前に行く前に、怪しい空気があった。

 普段は魔物がいないような、人通りが多い街道にも魔物がうろついていたのだ。

 いつもとは違う状況だったために試験は一時中断。


 僕達学生は、引率の教師と共に最寄りの町までも戻った。


 その数時間後、悪い予感が的中してしまったようだ。


「魔物のスタンピートが発生したらしい」


 と、引率の教師が、町に出回っていた情報を教えてくれる。


 スタンピートが発生すると、理性を失った魔物たちがめちゃくちゃに暴れまわって、人や動物を襲う。


 発生の予兆を掴んで事前に、数を減らしておけば被害を抑えられるが、今回はそうでなかったらしい。


 何でも、呪術犯罪者の潜伏とか事件のせいで、手が回らなかったらしい。


 今もその事件のせいで、頼りになる騎士や勇者はみんなではらってしまっている。


 今外に出るのは危ない。


 という事で僕達は町の中にとじこめられてしまった。


「こんな時に、勇者様がいてくれたらね」

「特別な遺物に選ばれないと勇者にはなれないんだろ? そんな珍しい人が、俺達のような小さな町に来てくれるわけないじゃないか」

「魔物の数多いんだろう? この町はどうなってしまうんだろう」


 町の人達はみな不安げだ。







 三日間、町の中に足止めされた僕達は、なぜか町の自警団の人と共に魔物と戦う事になった。

 町はすでに魔物の群れに取り囲まれている。


 最初に乗り気になったのは、もちろんうちの馬鹿とお嬢様。


「俺達が戦わなかったら、こいつら中にはいってきちまうんだろ」

「そうよ。だって放っておけないもの」


 お人よしの幼馴染達は、それでもいいだろうけど、巻き込まれる僕の身にもなれよ。


 肩を並べて敵と戦ってみたものの、かなりやっかいな連中だと分かった。


 体力のない僕は早々に、後方支援の方へひっこませてもらう。


「おい、こいつらぜんぜん減らないじゃないか。尋常じゃない数だぞ」


 押し寄せる魔物は次から次へと補充される。

 切ってもきっても、まるで減らない

 きりがなかった。


 町の外にひしめきあう者達の姿をみて、何でこんな幼馴染達につきあってるんだろうって後悔したくなかった。


 けど、それば僕だけじゃない。


「くそっ、何で騎士たちは早くきてくれないんだよ」

「俺達まだ学生だろ」

「こんな命がけの初戦があってたまるか」


 なんて叫びきながら、クラスメイト達もひいこら言って戦っている。

 なんだかんだでこいつらも相当なお人よしだからな。


 幼馴染のあいつらに付き合って、町を守る事になったのだ。


 きっと馬鹿とお嬢様のお人よしが移ってしまったのだ。

 感染性のそれにかかってしまったのが運の尽きだと思う。






 一週間くらい籠城してても、外部から騎士たちがくる気配がない。


 ぶっちゃけ、見捨てられたんじゃね?

 と思う。


 応戦に出た自警団の奴等には負傷者が続出してて、いつ防衛棒が突破されるか分かったものじゃない。


 そうならなかったのは、一般市民達が協力してくれて、かろうじて持ちこたえているからだ。


 兵士達の武器をもってきてくれたり、負傷者の手当てをしてくれたり、ご飯をつくってくれたり、見回りをかってでてくれたり。


 彼らの手伝いがなかったら、ぶっちゃけやばかっただろう。


 僕達なんて、押し寄せてきた魔物に蹂躙されて一瞬でミンチだ。


 それもこれも。


『ありがとう、貴方たちのおかげで助かってるわ。でも、無茶はしないでね』

『おう、ありがとな。えっ、俺にそのご飯くれるのか? 苦手なもん押し付けようとしてないか? だめだぞ、子供はちゃんとなんでも食っておかないと』


 こまめに住民たちとコミュニケーションをとって、彼らの心をケアをしている幼馴染達のおかげだろう。


 まだ学生である僕達。

 そんな僕達が、騎士でもないにもかかわらず身を挺して戦っている。


 そういった事が伝わったから、町の人たちも協力してくれるようになったのだろう。


 絶望的な状況の中でも、あの馬鹿とお嬢様がいるところには、希望があった。







 まったくただの卒業試験をこなしにきただけなのに、何でこんな目にあってるんだ。


 危機的状況を抜け出すために、僕達は奇策にうってでた。


 あるかどうかも分からない、避難通路を探して地下道を歩き回っていたのだった。


 魔物の活動がよわまる時間を見繕って、僕と数名のクラスメイトは地下を駆け回っていた。


 幼馴染(馬鹿&お嬢様)は必須戦力なので、地下にはこれない。


「変な道が一つあるな。これはなんだ?」


 そんな中、明らかに人がとおった形跡がある道を見つけた。

 足跡がついている。

 汚れをよく見ると、最近ついたものに見えた。


「町を放棄する時に、誰かが通ったのか?」


 首を傾げつつ、あたりを念入りに調査。


 この道が外に通じているなら、もしかしたら住民たちを安全に逃がせるかもしれない。


 そう思って、地下道を進んでいくと思わぬ集団と遭遇した。


 大きな荷物を持った身なりの良い人間……男性貴族一人と、その従者らしき男性が一人。


「お前達、何でこんな場所をうろついている!」


 そいつらは、この町の貴族だった。

 それで、魔物に包囲されたこの町から、地下道を通って逃げ出したらしい。


 他の住人たちを見捨てて。


 同じお金持ちなのに、僕が知っているお嬢様とはえらい人間性が違うな。


 まあ、お嬢様の方が変わり者過ぎるけど。


「何かと思えば、養成学校のガキどもか。ふん、平民なんかを守って点数稼ぎ、ご苦労な事だ」


 一口目から、偉そうな言葉。

 たぶんこいつとは永遠にそりが合わない。


「そうだ。お前達もこの道から脱出させてやろう。どうせ滅びる町だ。見捨てても誰も気が付くまい。その後、奇跡の生還者として名乗り上げればいい」

「ふざけるな。お前達はそれでも貴族か、人の上に立つ人間か!」


 僕はそいつらの提案をはねのけた。

 確かに魅力的な内容だ。


 どうせ結果は見えている。

 遠からず僕達は町と運命を共にしてしまうだろう。


 この道を通って町の外に出れば、確実に訪れる市の運命から逃れられる。

 救援に来た騎士たちには、殊勝な態度をとっておけばいい。

 嘘がばれたとしても、僕達はまだプロにもなっていない人間なのだから、重い罪にはならにだろう。


 けれど、だからどうした。


 そんな軽い気持ちでこっちは剣を磨いてきたわけじゃないんだよ。

 確かに始まりは、放っておけない幼馴染のためにとった剣だった。


 けれど、今は違う。


 弱者なりに弱者が持つ誇りと矜持を胸に持ってるんだ。


 それになりより、そんな事したら、あいつらの友人だって胸張って言えなくなるだろ。


「他に逃げたい奴がいるなら、この馬鹿貴族についていってもいいぞ」


 僕は他のクラスメイトにそう言った。

 しかし、ついていくものはいなかった。


「ふん、後悔するなよ」


 それを見た貴族は吐き捨てるようにセリフを残して、その場を去っていった。






 その日の夜。


 町に戻った僕達は、早急に地下道を使った避難計画を立てた。

 住民達の数は多い。

 おそらく、全員逃がすのは無理だろう。

 その前に町が全滅する。

 だが、だからといって助けられる命を見捨てるわけにはいかない。


 女性と子供、老人から先に逃がし、男性を後にまわす事にした。


「こういうのは、人間の命を区別するようで心苦しいがな」


 避難計画作成の手伝いをしながら愚痴る。


 自分達に力があればと、今日ほどそう思わなかった日はない。


 ここにいるのが勇者であれば、全員助けられただろうに。


 この世界で一番強い勇者。

 白銀の力を持つ勇者は現在行方不明らしい。

 彼ほどの存在なら、魔物の群れの一つや二人あっという間だろうに。


 でもここにいるのは、ただの学生だけ。


 すると、同じく作業を手伝っていた馬鹿が言葉をかけてきた。


「区別と差別は違うだろ。よく分かんないけど。優先順位をつける事が駄目なわけじゃないって、先生が言ってたぞ」


 ちなみにその教師は剣の腕は一般並みなので、早々に怪我を負ってダウンしている。


「馬鹿のお前になぐさめられるなんて、終わりだな」

「お前って、ほんとぜんぜん素直じゃないよな」


 ともあれ、馬鹿のはげましもあってか、何とか仕事をやり終えた。


 僕達が防衛線を維持できるのはあと一日。


 もって、たったの一日だ。


 明日すべての決着がつく。








 朝。

 見回りの人間が起床の鐘をならした。

 魔物の群れが、もう何度目になるのか分からない突撃をかましてくるのを見たようだ。


 眠っていた人間達がたたき起こされる。戦える人間は総動員だ。


 僕も、剣を持つのは得意じゃないが、そうもいってられない。


 近隣の魔物を討伐しすぎて有名な魔物ハンターになってしまったような、そんな戦闘狂幼馴染達と肩を並べて戦うはめになった。


「くそっ、こなくそっ、ぜぇ、ぜぇ」

「ヨルン。大丈夫?」

「息がめちゃ上がってるぜ。下がったらどうだよ」


 下がれるもんならとっくに下がってるよ。


 幼馴染達も満身創痍。

 そんな中、自分だけ休んでいるわけにはいかない。


「僕は、お前達の、お目付け役でストッパーだからな。僕がいないと、お前達が馬鹿するから、見張っておかないと、だめだろ」

「私達、そんなに猪突猛進じゃないわよ」

「うーん、俺はちょっと否定できないな」


 自覚のない天然お嬢様と自覚がある馬鹿。

 幼いころの付き合いだから、そんなやりとりにまったく遠慮はない。


「おい、馬鹿。あとお嬢様。ここから中央突破して、二人だけ逃げるって手もあるぞ」


 足手まといがいない状況だったら、もしかしたらこの二人だけは生き残れるかもしれない。

 人生で何度か、魔物に囲まれた経験がある二人は、こんな状況でもまだ余力がある。


 目の前には数えきれないくらいの魔物の軍勢があったが、ここに残って防衛線を維持し続けるよりは、二人で中央突破したほうが、よっぽど生き残る可能性が高かった。


 けれど、そんな事了承するわけなかったよな。


「馬鹿言わないで、今はまだひよこかもしれないけど、私達の心は騎士や勇者様と同じよ。戦えない人達を守る。そうでなくちゃ何の意味があって剣を学んだの?」

「そうだぜ。俺達が剣を持った理由を忘れたら、意味がないだろ」


 こいつらは、ほんっとーに、根っからの大馬鹿もので、お人よしだった。


 だったら、しょうがない。


 僕はそんな馬鹿達のストッパー役なんだから、あいつらがいるところについていてやるしかない。







 何度剣を振ったかわからない。

 どれくらいの数の敵を葬ったのかも。

 とっくに体力は限界を迎えていて、気を抜いたら膝をついてしまいそうだった。


 それでも意地で、限界を超えて、剣を振り続ける。

 一人でも多くの人間を救うために、一体でも多くの敵を葬るために。


 しかし、やがて限界が訪れる。


「も、もう駄目だ」

「うわぁぁぁ!」

「防衛線が突破されたぞ!」


 とうとう守り切れなくなったらしい。


 戦える者達がいなくなった場所から、魔物が町中へなだれ込んでくる。


 魔物たちは、町の中で一般市民達を虐殺していった。


「そんなっ!」

「くそっここまでか!」


 悔しそうにする幼馴染達。

 お前達はよくやった。

 全部守れるわけがなかったんだ。


 誰がこいつらを責められる?


 しかし、彼らはあきらめなかった。


「まだよ。一人でも救うの。諦めちゃだめ。最期まで抗うの。抗いなさい! 絶望に負けないで!」

「明日を諦めるな! 膝を落とすな! 誰が負けるなんて言ったんだ。俺達はまだ戦える、まだ頑張れる! そうだろ!」


 絶望するしかない状況にいても、彼らは気高く、そして力強かった。


 その姿に、決して心折れないその雄姿に、僕は目を撃ばれていた。


 英雄という存在がどういうものかと聞かれたら、僕は迷わず彼らの姿を思い浮かべるだろう。


 きっと彼らは、やがて英雄になる存在だ。


 彼らのような存在こそが、英雄になるべきなのだ。

 こんな所で、死んでいいはずがない。


 そう思ったとき、彼らの叫びに応じるようにして、何かが飛んできた。

 彼らの手に収まったのは二つの光り輝く剣。


 それは選ばれた者、勇者になる資格がある人間にのみ与えられる遺物だった。


 遠くで閃光がまたたいた、誰かが戦っている。

 あれはおそらく勇者だ。


 白銀の光を放つ。

 この世界で一番強い力を持った勇者。

 この町は見捨てられたわけじゃなかった、助けの手が差し伸べられたのだ。


 幼馴染達は頷きあって、勇者の剣を握りしめた。


「いくわよ」

「おう!」


 そして、力強い光で魔物の軍勢を切り開いていく。


 あれほど苦戦した魔物たちが、あっという間に殲滅されていった。



 

 




 今度という今度は死ぬかと思った。

 半分死んだかと思った。

 でも生きていた。


 しかし相当無茶したので、ベッドの上で包帯ぐるぐる巻きになった僕達は、一週間ぐらい寝込むはめになったが。


 すると右隣になった馬鹿と、左隣になったお嬢様から声がかかった。


「へへ、さんきゅな。ヨルン。今回は結構あぶなかったのに、最後までついててくれて」

「私達、いつもヨルンに感謝してるわ。いつも無茶につきあわせてばっかりで、ごめんなさい」


 僕はため息をついた。

 そんなのいまさらだ。


 知り合ってからずっと、無茶ぶりされてきたんだから。


「まあ、友達だからな」


 彼らのベッドの近くには、勇者の剣が置いてある。


 きっと彼らはこれから、これまで以上に大変な事に巻き込まれていくだろう。


 けれど、彼らが負けるところは不思議と想像でいない。


 僕の幼馴染は、やがていつか英雄になるのだ。


 それは、おそらく遠い日の出来事ではないのだろう。


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