天雷の装光機神アウルゼファー /ボクを転生させてくれたのは異世界最強のロボットでした!?

比良坂

第1章 その名をアウルゼファー

やっぱり僕は生きていたい




 落ちていくーー。



 暗い、暗い、泥の様な闇を、真っ逆さまに。




 少年の魂は、何処までも何処までも……落ちていく。



 何故……?



 僕は何故、こんな事に……?



( さっさと行きなさいよ!可愛い××ちゃんを待たせたらどうするの!?)


(は、はい……母さん……)


(ほんっとに愚図なんだからっ!!)



 確か……母さんにわれて、妹に忘れ物を届けに行ったんだ……。


 大事な事だから……。


 普通の高校生の僕と違って、中学生で読者モデルをやっている妹は、僕の何倍も何倍も偉いって……母さんも父さんも言っていたから……。



 ああ、そうだ……。



 行く途中で、僕は……。



 お年寄りが運転してた……猛スピードの高級車に撥ねられて……。




 ああ……。


 やっぱり、僕は駄目な奴だった。


 満足に、お使いも出来なかった……。



『なんでアンタみたいな役立たずがお兄ちゃんなの?』

『アンタを産んだ事だけが私の汚点ね……』

『お前なんか大した人間にならないんだから、さっさと就職して家計の為に働け!』



 家族あの人たちは……きっと喜ぶかな……?


 僕が、いなくなるから……。


 だったら……これで……良かったんだ……。



 僕は、消えた方が……。











『……誰だ?私の機魂コアに直接呼び掛けるのは?何故、この《源始の海》にいる……?』



 ーーえ?


 声が、聞こえる……。



『……感じる。感じるぞ。哀しく冷めきってしまった心……それなのに……その本質は……他者を想う……他者を求める……優しく飢えた心』


「誰……?君は……?」


『"君"……か。懐かしいな……。装光機神セイン・リギアである私を君呼ばわりとは……。私の創造主に続いて貴様で2人目だ』



 せいん……りぎあ……?聞いた事の無い言葉。


 すると、僕の目の前に光が灯り、ゆっくりと巨大なヒトの形を成していく。



 王冠の形をした角を頭に生やし、武骨な四肢を備え、腰からは天使の様な一対の羽、太い尾。


 まるで、図書館で見た本に出て来た、龍神のようだが……。


 鋭い光沢を放つ肩や脚の煌びやかな装甲は…………まるで…………?



『私のはアウルゼファー。天雷を司る装光機神セイン・リギアが一機……《アウルゼファー》』



 アウルゼファー……。


 僕を包む……強くて……暖かい光……。



「暖かい……優しい感じがする」


『……ハハ。かつて空間すら斬り断ち、4つの国家を単機で滅ぼした……最強のセイン・リギアである私を暖かい、優しいとも言うか。面白いぞ少年……貴様の名は……?』



 僕の名前?


 ……何だっけ?


 家族からも、学校の皆からも『オマエ』『アンタ』としか呼ばれなかったから……忘れてしまった……。



『……貴様……面白いな』


「面白い……?」


『ああ……面白い魂の輝きをしている。気に入った……!』


「アウルゼファー……さん?」



 気に入った?


 こんな、何の取り柄も無い僕が……?



『少年……?肉体が滅んだお前の魂は間もなく此処原始の海に溶け、記憶を消去し、また何も識らぬ魂に練り直され、新たな世界に転生する。しかしそれではつまらん。折角貴様と出会えた私がつまらん。それでだ……?』


「何です?」


前世の魂のまま、私と共に転生してみないか……?』



 てん…せい…?


 てんせいって……転生?輪廻転生?死人の魂が、生まれ変わるって事……?



「生まれ変わるんですか?僕が…僕のまま?」


『そうだ……!何、少々裏技を使うが前例が無い訳でもない……!私ももう……この海で惰眠を貪るのは飽きた……!2千年ぶりに里帰りでもしようか……!』


「そんな事……出来るんですか……?」


『出来るのだから言っている……!ふむ……貴様……結構陰惨な人生を送ったな?家族にも……誰からも蔑ろにされ……』



 それは……。



「僕の要領が……悪かったから……」


『最期なぞ酷い……!クルマとかいう原始的な機械に踏まれ、貴様の身体はグチャグチャではないか……!しかも何だ?お前を殺した老人は《じょーきゅーこくみん》だのとか言う奴で……大した罪にはなってない様だ』


「うえ……」


 アウルゼファーの光る巨体が肩を震わせた。泣いている様にも、怒っている様にも、笑っている様にも見える。



『よし……!ならば酷かった前世の分……今度は面白可笑しい人生を歩ませてやる……!こうして魂同士で会話出来るのも何かの縁……!私に任せるが良い……!』



 ふいに、身体がフワリと軽くなった。


 いつの間にか、僕はアウルゼファーの掌の上に立っていた。



 面白可笑しい人生……?


 もう、死んでるっていうのに……?


 転生……?新しい人生……!?



 僕は……僕は……。



『分かるぞ……!貴様の魂が望んでいる……!』



 僕は……僕は……!



『さぁ…!どうしたい少年?このまま消えるか?それとも私と共に新たな世界で新たな人生を謳歌するか…?』


「僕は……生きたい……!このまま消えるなんて……嫌だ……っ!」



 嫌だ!やっぱり嫌だ!


 除け者で終わる人生なんて、嫌だ!


 僕は、精一杯アウルゼファーに向かって手を伸ばす。



「宜しく……お願いします!」


『宜しい……では契約だ……。改めて、このアウルゼファーを宜しく頼むぞ?……!』



 僕が……アウルゼファー……?君の……主……!?



『では参ろうか主!楽しみにしておけ……!私の性能ちから……存分に使わせてやるからな……!!』





 光が強くなる。あまりの眩さに目がくらみ、五感の感触が完全に失われ、僕の意識が……遠退いていく……。



 これが、転生……。生まれ変わるという事……。


 僕が僕じゃなくなるというのは……少しだけ、寂しい……。




 さようなら、僕を不必要とした人達……。


 さようなら、今までの僕……。




 そしてーー。







「……ほら見てダン……あなたと同じ綺麗な眼……」


「よく頑張ったなアリシア……。顔立ちはお前そっくりだ!こいつは将来美人になるぞぉ!」


「ふふ……!美人ってこの子男の子よ?」


「…………名前はどうしようか?」


「…………ってどうかしら……?」






 ****






「リウちゃん!起きなさぁぁぁい!」


 カン!カン!カン!カン!


 階下から響く女性の叫び声と、フライパンをオタマで叩く音に、僕は堪らず跳ね起きた。


「リウちゃぁぁん!?良い加減起きないとチューしに行くわよ!?が!!」

「お、起きてる!起きてるよ母さん!お願いだから父さんを寄越すのだけはやめてくれ!!」



 やれやれ……母さんめ、なんつう起こし方を……。


 僕は苦笑しながら、部屋のカーテンを開けた。


 眩しい朝陽を、身体いっぱいに浴びる。生きてる者の特権だ。


 雲一つ無い快晴の空の下には、赤煉瓦造りの街並みが広がっている。


 その遥か彼方に見えるのは白亜の柱と青水晶で構成された、魔物モンスター侵入を妨く防壁。


 ゴオッとジェット音を立てて、ヒト型のシルエットが三体、空高く山脈の方角へと飛んで行った。



《フロンシェ皇国》



 此処が僕の、僕の家族の住む国ーー。




『おはよう。我が主、リウ・セグラージ』


「ああ、おはようアウル」



 脳内に響くアウルゼファーの声に、僕は独り、笑って応えた。


 僕が今、こうして清々しい朝を迎えられるのは、僕の魂を掬い救ってくれたアウルのお陰……。



《リウ・セグラージ》



 それが15年前、この世界に転生した僕に付けられた名前ーー。







『さあ主よ、今日も人生を謳歌しようではないか……!』


「ああ……!」





 僕は今……此処にいる。





 この世界を、生きている……!








 続く

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