魔物を従えた救世主ではありません。ただの愛犬です!
ぱっつんぱつお
第1話 散歩…、してただけなんですけど…。
「よかったー、雨上がった~~」
ここはド田舎の私の実家。
専門学校の夏休みで里帰り中。
両親は、私が帰ってくる時期に合わせ、10日間の温泉旅行に出掛けた。
兄は社会人だから、お盆だけ帰ってくるらしい。
慣れてはいるけど流石に夜ひとりは怖いよね~
だって、外で物音なんてしたら野性動物と戦わなきゃいけないじゃん!?
実家は、水も星も綺麗だけど、とにかく虫が凄いし田んぼの蛙は煩いし、猿は我が物顔で土地に侵入してくるし、夜は鹿とフクロウが煩い、猪は…、静に迷惑…。
私にとっては小鳥が囀ずってる様なもんだけど。
前に一度だけ、元彼と友達数人が「田舎良いな!行きたい!」と言うので連れてきたところ、「煩すぎて眠れない」と言っていたっけ。
東京の私が借りてるアパートの夜中の方が、よっぽど静かだ。
で、その時に、ゲジゲジが家の塀に居て、元彼が「うぎゃああぁあ・・・!」なんてあんまりにも頼りなくって幻滅して、それから別れた。
手の平サイズのゲジゲジなんて何処にでも居るだろうに・・・。
あれから誰ひとり「また行きたい!」って言わないな。
都会人共め、あまり田舎に幻想を抱くなよ?
そんな事を思い出しながら、「お散歩行けるね!」と愛犬である熊五郎にリードを付ける。
熊五郎とは愛犬の名前で、名前通り熊みたいだからである。
黒くて大きくて、ツキノワグマみたいに胸だけ白い。
雑種感溢れる、逞しい相棒だ。
軽トラで送り迎えしてもらってた中学生のとき、道で拾った。
拾った時はダニがすごくって、後ろの荷台の段ボールに入れて連れて帰ったっけ。
懐かしいなぁ・・・。
「よし、準備バッチし!」
昔ながらの麦わら帽子に、白いロンT、近所のお婆ちゃんお手製藍染めパンツ。
軍手は必須で、腰にはトング、足元は勿論 長靴!
(あ、トングは決してうんちを取るためではなく、ヘビが出たとき用ですとも)
そして、ジョニーにバズーカジェット。
雨上がりはヒルが出るからねぇ…。
蚊除けブレスレットは邪魔だからお散歩ウエストバックに付けちゃう。
(え?ヒル下がりのジョニーをご存じ無い?ハチ・アブバズーカジェットは・・・、知ってますよね?)
都会で散歩してる人を見ると、いっつも「そんな軽装で…」と思っちゃうけど、それで良いのだから凄いと思う。
いや、あんな格好じゃ、ここだと死ぬよ!?
「よし、雨上がりは何だか神聖な雰囲気漂う、氏神さまのとこまで行くか!」
「う"わふっ」
「相変わらず野太い声だなぁ、お前は」
片道30分の所に、108の石階段を登ると、地元の小さい神社がある。
「新しい彼氏下さい!」なんてありきたりの御願いなんかしちゃって、それから普通に家に帰るハズだった。
夏の雨上がりは確かに湿気もスゴいし、もやもスゴいんだけど・・・
「・・・いや、流石にスゴすぎない…?」
気温の下がる夜でもないのに、辺り一面モヤ・・・
まだ16:30位ですよね・・・?
と言うか一寸先もモヤ・・・
え…?
もう108段以上、階段降りた気がするんですけど・・・
足元は滑りやすいから、慎重に降りていく。
「あ、階段終わったっぽい。」
見えないから長いと思っただけなのかもしれない。
しかし階段を降りた地面は土だったハズ・・・
何故か青々とした草むらだ。
「雑草魂なんて言うけど、流石にここまで急激に成長しないよね…?」
「う"わん…」
不思議に思いながらも、自宅の方向に足を進めていく。
すると、モヤが何だか白く眩しい。
「うあ~眩しい~~」なんて思ってたら段々とモヤが晴れていく。
生まれも育ちもこの田舎だったけど、生まれてこの方、こんな現象に出会ったこと無い。
夏の風とは思えないほど爽やかな風が身体をすり抜けた。
真上には綺麗な青空だ。
不思議と蒸し暑くない。
「誰だ!?」
突然の声に驚いて、見ると、木にもたれ掛かった・・・、王子、様…。
いや、まじで。
冗談じゃなく。
何ですかその格好。
さ、撮影かなにかですか…?
刺繍の施された昔の西洋風の服…。
いや、王子様設定の撮影ですか…?
てゆうかそんな格好で草むらに座って…、ダニが付きますよ…!?
服装ばかりに気を取られていたが、よく見るとなんとまぁ整ったお顔立ち。
え…!?
驚くほどにイケメンなんですけど・・・!?
綺麗な金髪だぁ・・・
瞳がエメラルドぉ~~・・・!
外人ですか!?
のわりには、流暢な日本語だな…。
ハーフの方?
「何処から来た」
「え、何処って、散歩の帰り・・・」
ふと、周りを見渡すと、あれ、見たこと無い景色・・・
え、わたし、いつの間にか隣の部落まで来た…?
いや、隣の部落ってレベルじゃなく・・・、全く見たこと無い風景なんですけど…!?
夏だって言うのに、暑くない!?
こんなに日が照ってるのに…!?
「え、え、ここドコ・・・」
「まさか・・・、君が救世主か・・・?」
「・・・・はぁ…?」
とんでもない中二病発言。
イケメンのクセに。
「まさか、本当に現れるとは・・・」
「・・・・。」
ヤバい。
なんかヤバい。
こいつヤバい奴だ。
超、話に巻き込まれてる。
「しかし、・・・何とも…、不思議な格好だ・・・」
上から下まで私の服装を見てそう言うから、私は思った。
(いやお前の方がヤベェよ・・・!)
ともかく、この場を離れようと「あ、あの、私、もう帰らないと・・・」と自宅があるであろう方向へと歩き出す。
「待ってくれ、君は・・・ハッ…!危ないッ・・・!」
大声を出すもんだから、また驚いて足が止まる。
すると、目の前にドォオン!と鈍い音がして、黒い物体が上から落ちてきた。
「へ・・・?」
何かが落ちた足元を見ると、うにょうにょと中型犬サイズの何か・・・
「うわぁ…!?」
思わず後退りした。
「う"わ"ん!う"わ"ん…!!」
うにょん、うにょん、と見覚えのある動き。
黒くて、表面が湿っぽくて・・・
「くっ…、何故、こんなとこにまで…!!」
そのイケメンはなんと腰から剣を抜き構えた。
いよいよヤバ
銃刀方違反じゃん…!?
「下がれ…!血を全て吸い付くされるぞ…!」
「ふぁっ…!?」
血を吸うって・・・!
あ、あぁ…! あまりにデカ過ぎて気付かなかったけど、これヒルじゃん・・・!
やばぁ…! ちょーデカイじゃん・・・!
どんだけ血を吸ったら、こんなにでっかくなんのよ…!
そのやたらデカいヒルは、うにょんうにょんと熱を感じて、よりにもよって熊五郎に吸い付こうとしている。
「うぎゃあ…! きもい…!やめて…!!」
直ぐ様ジョニーをしゅっしゅ、と吹き付けて、何とか熊五郎の血を守った・・・。
「う"わんっ!」
「はぁ、はぁ、きっっも…!」
「な、なんと・・・!? 剣も持たずして…、」
カラン──、とそのヤバ気王子は剣を落とし、跪いて私の手を取り、丁寧に軍手を外し、手の甲に口付けた。
「・・・・!!??」
「救世主・・・我が主、この命を捧げ、一生お側に居ると誓います」
は?は?は?
困る困る・・・!
「わ、私、家に帰るのでっ・・・!」
「はっ、お仕えさせていただきます」
「え"!? いや、いい…!いい…!」
ともかく何処でもいいから、どっかの家に助けを求めよう…!
そう思って歩き回るも、家一軒見当たらないし、知ってる道すら辿り着けず・・・
しかも「モスキートデビル…!?」だの「キラーホーネットか…!?」だの、出てくる虫がもう全部デカい・・・!
準備万端でお散歩に出てたので、事なきを得たけども・・・。
と言うかこのイケメン、全然役に立ってない・・・!
「あぁ!もうここドコ…!! おうち帰りたい…!! ・・・・お腹空いた・・・」
「くぅうん・・・」
どうやら熊五郎もお腹を空かせているようだ。
いや、喉も乾いてるだろうな…。
「・・・・あのぅ…」
「なに"…!?」
そのイケメンは黙って付いてきて、私がでっか虫を倒しているのを、後ろで感心しながら見ているだけだったが、ついに口を開いた。
「救世主は別の世界から来ると言い伝えられています・・・。 恐らく貴女様が仰っている家と言うのは、ここと別の世界にあるのでは…、」
「はぁ・・・!? じゃあここは何処よ…!!」
まった、ワッケ分かんない事言って…!
こちとらお腹空かせてんのに…!!
と若干キレ気味に返した。
「ここはレモンガルド王国、王都から少し離れたレモンバームの森です」
「・・・・・。 はぁ・・・、なんか美味しそうな名前…、」
もう疲れちゃって、意味分かんないし、どうでもよくなって、適当に返事をした。
「良ければ私が城壁までご案内致しましょう。 付いて来て下さい」
「付いて来てって・・・・」そんな犯罪者みたいな・・・、と思うも熊五郎は「わん"っ!はっ、はっ・・・、」と嬉しそうに、付いて行こうよ!と誘ってくる。
熊五郎がそう言うなら…、と私も少しだけ、このイケメンを信用して後に続いた。
────結果、結果ね?
異世界説は信じよう・・・・・
いや、だって、こんな巨大な城壁・・・、更にはその奥に見える城・・・。
これが嘘だとは流石に思えない・・・。
そしてなんか駐屯所みたいなとこから、わらわら出てくる男達・・・。
「隊長っ・・・!」
「よくご無事で…!」
「え"…!?女じゃないっすか…!」
「しかも魔物従えてますよ…!」
「え"!?隊長が女を…!? なんすか、もう戴いちゃった感じっすか…!」
「お前らッ!口を慎まんか…!救世主様だぞ…!」
「「「え、えぇええ・・・!まさかっ…!」」」
「通りで見たこと無い服装・・・」
「だから魔物を…!」
「え"、隊長とはどこまで…!?」
「いいから黙れッ・・・!!」
あ、あぁあ・・・、もう、うん、とりあえず、、、
疲れました・・・。
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