息子夫婦の話し合い
月日が経ち、コンラートは成人した。そうなれば次は結婚だったけれど、コンラートの結婚の話はコンラート本人やマインラートからもなかなか出てこなかった。
しばらく静観していたら、コンラートの噂が社交界に広まった。
ニーナ・クライスラー男爵令嬢と交際しているという噂だ。その名前を聞いて、苦い思い出が蘇る。
彼女は、マインラートと関係していたレーネ・ハーバー準男爵令嬢の娘だ。血は争えないものだと思った。
噂が広まった時点で婚約を申し込むのかと思っていたけれど、コンラートはマインラートがクライスラー男爵家に申し込んだ婚約をなかったことにした。
更に、コンラートはニーナ嬢と噂が立つ中で、別の女性に婚約を申し込んだのだ。
ユーリ・ロクスフォード伯爵令嬢。かつては王弟である公爵に嫁いだ方を輩出した、名門ロクスフォード家の娘だ。金髪碧眼の怜悧な美貌で、レーネ様やニーナ嬢とは正反対の女性だった。
以前ならシュトラウスとは家格が違うと、結婚を反対してもおかしくなかったけれど、ロクスフォード家は経済的に困窮していた。そのため、ロクスフォードへの支援と引き換えの政略結婚として、ユーリはシュトラウス家に嫁いできた。
だからだろう。わたくしはユーリに自分の姿を重ねていた。お飾りの妻として屈辱を感じながら家のために尽くしているのだと。
だけどユーリはわたくしと違っていた。耐えるだけではなく、ぶつかっていく。コンラートに拒絶されても諦めない強さが彼女にはあった。
わたくしは期待した。ユーリならコンラートを幸せにしてくれると。他人任せで情けないけれど、コンラートの寂しさをユーリなら埋められる、そんな気がしていた。
だから、わざと露悪的な態度を取ってわたくしから距離を置かせてコンラートの味方になってもらおうと思っていたのに、何故か彼女はコンラートとわたくしの橋渡しをしようとする。
それでわたくしは勘違いしてしまったのだ。またコンラートと家族になれると。だけど、それは思い違いだったのかもしれない。
◇
新婚早々ユーリとコンラートがこじれていて、ユーリのためにもしばらく距離を置かせた方がいいと、王都にある屋敷の本邸でわたくしとユーリはしばらく一緒に暮らしていた。マインラートは領地経営があるので領地に、コンラートは王都にある商館の責任者でもあるので、同じ敷地内にある離れに一人でいた。
結婚してもニーナ嬢と関係を持っているような不実なコンラートとユーリを会わせてはいけないと、わたくしはユーリと話したいというコンラートを追い返していた。
だけど、ユーリがきちんと向き合いたいからと、次にコンラートが来た時は話し合うことに決めた。そんなユーリが心配で、わたくしはその話し合いに同席することにした。
「ユーリ……と、母上? どうして……」
話し合うために本邸の応接室に現れたユーリを見て嬉しそうな顔をしたコンラートは、わたくしの姿があることに怪訝な顔になる。
「今ユーリの面倒を見ているのはわたくしよ。居てもいいでしょう? それとも聞かれて困ることでもあるのかしら。クライスラー男爵令嬢のこととか」
同じ女性としてユーリの気持ちがわかるから、コンラートの本心が知りたかった。それにコンラートと向き合うためにも。
コンラートはわたくしを睨みつけて
「いいですよ。わざわざ説明に行く手間が省けますから」
いつからこの子はわたくしをこんな顔で見るようになったのだろうか。憎まれることは覚悟の上だったとはいえ、愛する我が子から向けられる冷たい視線に逃げ出したくなる。
わたくしとユーリが並んで座り、ユーリの向かいにコンラートが座ると、コンラートはユーリを気遣う言葉をかけた。それでコンラートがユーリを大切にしたいという気持ちは伝わってきた。
だけど、ここまでこじれてしまったのは、きっとコンラートも愛し方がわからずに苦しんでいるからだろう。わたくしが教えることができなかった弊害が息子夫婦を苦しめているのだと胸が痛んだ。
ユーリとコンラートの話を黙って聞いていると、コンラートはユーリにこれまで説明できなかったことを詫び、その理由を話し始めた。
「父上や母上が何もできないように根回ししていて、それが終わったんだよ。もうこれでこの人たちには何もできないはずだ」
「コンラート、あなた何を……」
ユーリはコンラートの言葉の意味がわからないようで困惑している。
コンラートはわたくしが何かをするつもりだと思って、それを阻止するために動いていたということか。だけど、それがユーリへの隠し事とどう関係あるのかが見えてこない。
「わたくしが何をするつもりだと?」
「ああ、あなたは子爵家には興味がないんですよね。だから僕があなた方の尻拭いに躍起にならないといけなかったんだ」
コンラートはわたくしを
違う。家のために色々なものを犠牲にして頑張ろうとしてきた。ただ、わたくしには力がなくて役に立たなかっただけだ。
だけどコンラートが言いたいのはそういうことではないのだろう。わたくしが子爵家という枠にはまった家族に興味がないと言いたいのかもしれない。
興味はあってもない振りをするしかなかった弱いわたくしを、コンラートは責めているのだ。
「教えてあげますよ。あなた方が何をしたのか──」
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