7-5:シランからの提案

 場面は戻って、ふたたび鬼子の庵。

 シランによって中に通されたソレル、アル、リズの3人は、傷の治療に勤しんでいた。

 庵の中は最低限の衣食住こそ確保されているが、非常に簡素なものだ。

 しかし、薬草の類いだけは妙に充実している。


ソレル : 「助かるけど、いいの?」

アル : 「です……こんなにいっぱい……」

シラン : 「……どうせ使い切れないから。いい」

リズ : 「素直に、助かります。何か代わりに差し上げられるものがあればいいのですが」


 唯一の暖房らしき暖炉の前に、先ほどのヴァルグが丸まって寝そべっている。シランは、その横の床に座り込んでいるかたちだ。

 室内にまともな椅子やテーブルの類いはなく、部屋の一角には寝具代わりの藁束が積まれていた。


シラン : 「差し上げられるもの。……では、協力が欲しい」

ソレル : 「うん、その話を聞きにきたわけだし。教えてよ、この島で何が起こってるのか」

シラン : 「大体お前たちも見たとおりだ」

 「まずは確認なのだが、お前たちは、今のポシビリタスの「可能性固定」の権利を持っている。そうだな?」

ソレル : 「うん。アルとリズが直前に契約したから。まだ、あと何回かはチャンスがある」


シラン : 「お前たちが繰り返したのは、これで3回目。それもあっているか?」

ソレル : 「それも合ってる。私が一番最初に契約して、私が3回目」

シラン : 「そうか。それも、私の感覚とずれてはいないな。問題ない」

 「30日後、兄さんは殺される。『本来の時間』でもそうだったし、これまでの2回の繰り返しでもそうだった」

 「……私が認識しているのは、それだけだ。そして、私はそれを防ぎたい」



ソレル : 「リコリスのこと、やっぱり大切?」

シラン : 「は? 大切以外のなんだというんだ」

ソレル : 「家族だったら、やっぱり守りたいって思うもんね。わかるよ」

シラン : 「…………兄さんは。兄さんは私が借りを返すべき人だ。幸せになるべき人だ」


GM : えー、ここで言っておきますが、シランはリコリスと、とてもよく似た兄弟です。

ソレル : はい。

GM : 具体的に言うと、マシンガントークも。(一同笑)


 その後シランは、双子として生まれた自分とリコリスの話を語り始めた。


 ナイトメアであるシランはその角で、実の母を殺してしまった。胎内にいたリコリスも傷つけてしまい、オーウェンがいなければリコリスも死んでいたらしい。

 そうしてなんとか生まれてきたふたりに対して実の父親は、彼らをいないものとして扱った。その後10年間、ふたりは祖母によって育てられた。


シラン : 「まあ、10歳の時、祖母が死んでからは――」

GM : と、そこまで話した後、はっと口をつぐんで。

シラン : 「話がそれた。とにかく、私の命は兄さんのためにある。お前たちも、私の命が兄さんの役に立ちそうなら、遠慮なく使う方向で考えてくれ」


GM : というわけで、今の話をすごく世間話っぽく話してくれます。

ソレル : 「大変だったんだね……!」涙ぐんでる。

シラン : 「兄さんがな」頷き。

リズ : 「同情いたします」といいつつ、どういう顔をしたらいいかわからない表情。


シラン : 「というわけで、兄さんは大変なんだ。力を貸せ」

ソレル : シランをハグせんばかりの勢いだったけどシランの一言ではっと立ち返り、「えー、こほん。もちろん力になりたいと思ってるよ。それで、作戦とかは」

シラン : 「ある」

ソレル : 「おお!」


シラン : 「まず、我々は死ぬ」


アル : 「えっ」

ソレル : 「ちょっと……いや、とりあえず続けて」

シラン : 「続ける(うなずき)。そうすると魔剣の迷宮が発生する」

アル : 「???」


シラン : 「あの魔剣の迷宮は、外と中の時間が違う。中でだいたい1~2時間過ごしたら、外では約1日だ」

シエル : ほーん

シラン : 「迷宮の中に兄さんをつっこみ、生き返った我々も突っ込み、兄さんを護衛してやり過ごす」

 「そうすると30日目が無事に経過する」

 「ばんざい。終わりだ」


リズ : 「……そう、うまくいかないのでは?」

シラン : 「そうかな。うまくいくと思ったが」

ソレル : 「んー。前の周回のときはさ、彼岸花への庵への襲撃はなんとかなったみたいなんだよ。その後謎の暗殺をされてるんだよね」

アル : すごく気まずいです……。


シラン : 「そうだな。でも、迷宮の中に暗殺者はいないだろう」

ソレル : 「30日目をやりすごして迷宮から出てきた後で暗殺者に殺されたりしないのかな」

シラン : 「それはあれだ。オーウェン先生が何とかしてくれる」

ソレル : 「前回オーウェン先生自殺してたっぽいんだけど、大丈夫???」

リズ : 「服毒でしたよね」


シラン : 「……それはあんな襲撃があったからだ。先生はな、すごいんだ」

ソレル : 「わかる」

ソレル : 馬小屋作ってくれるし。

シラン : 「それに関しては、オーウェン先生も迷宮内に入ればいい。先生がいれば結界が張れる」

ソレル : 「あ、結界張ってたのは先生だったんだ」なるほど。


シラン : 「?」

ソレル : 「?」

シラン : 「ルフラン信者は誰でも張れる。だろう? ある程度高位であれば」

ソレル : 「この前まで張れない駆け出し神官でしたけど!!」

シラン : 「雑魚だったんだな。哀れだ」

ソレル : 「はぁ……」

シエル : シラン、めっちゃいいキャラしてるね(一同笑)


アル : 「で、でもソレルさんの魔法のおかげでぼくたち川から助かりましたし!」ふぉろー。

リズ : 「そうです。神の声を聞くというのは結構大変らしいですし」ふぉろー2。

シラン : 「まあ、今は雑魚じゃないならいいじゃないか。雑魚からの脱出、よく頑張ったな。偉い」


ソレル : 「ともかく、最初から襲撃をさせないみたいな作戦はないのかなって思ってたんだけど」

GM : その言葉を聞くと、渋い顔をしますね。

シラン : 「困難だ」


ソレル : 「む。なんで?」

シラン : 「あの襲撃には正当性がある。残念だが、犠牲になる奴にはおとなしくなってもらうしかない」

リズ : 「あの吸血鬼の女が何かしている、とかですか?」

シラン : 「そうだ。吸血鬼は血を啜る」


シラン : 「それは生理現象だ。だが、騎士団から見ればそれは悪だろう」

ソレル : 「まあね」

シラン : 「だから襲撃はそうなる」


ソレル : 「じゃあせめてリコリスだけは襲撃されないようにしようってところね」

シラン : 「そう」

ソレル : 「庵から連れ出すとかは?」


リズ : 「でも聞いている限り、吸血鬼はリコリスに執着しているのですよね。ついてくるのでは?」

シラン : 「そうだ。だから、あの女が容易に入れない場所に逃げる必要がある」

ソレル : 「だから迷宮か、理には適ってる」


アル : 「迷宮といえば、どうしてぼくたちが死なないといけないんですか……?」

シラン : 「魔剣が迷宮を作る条件が、大体『契約者が死亡した場合』だからだ。死亡したと判断されたら、魔剣は迷宮を作る」

リズ : 「この場合の契約者って……?」

シラン : 「ここに名前が刻まれてるやつ全員、かな」


ソレル : 「無理かも」

シラン : 「無理じゃない。要は、ポシビリタスが『契約者全員死んだな』と勘違いすればいいんだ」

ソレル : 「なるほど?」


 そうしてシランが戸棚から取り出したのは、小さな薬瓶だ。

 中には粉末状の薬品が少量入っている。


シラン : 「ここに『煙を嗅ぐと仮死状態になるおくすり』がある」

ソレル : 「なんでもでてくるね」

シラン : 「これをみんなでかぐ。すると、だいたい死ぬ」

ソレル : 「なるほど」

シラン : 「そうすると、ポシビリタスが勘違いして、迷宮ができる。おわり」


アル : 「そ、そんなのでいいんですか……?」

ソレル : 「死ななくていいならよし」

シラン : 「試しにやってみたら前は出来た」

ソレル : 「度胸あるー」

シラン : 「よく言われる」どや。


ソレル : 「おっけ、いくつか問題があって。契約者のひとりが街に、もうひとりが彼岸花の庵にいるんだよね」

シラン : 「あっちで同時刻に死んでればいいから、彼岸花の庵の方はあっちでなんとかする。最悪結界抜けてこっちに戻ってきてもらう」


ソレル : 「後もうひとつ」

シラン : 「うん」

ソレル : 「街にいる契約者、前回のループのこと大体知ってるティダン寄りの人なんだよね」

シラン : 「は?」


 シランはソレルに向けてずいっと顔を近づける。どうも怒っているらしい。


シラン : 「なんでそんなことにしたんだ。説明しろ」

ソレル : 「さぁ……?」

シラン : 「殺すか……」めんどくさそうな顔

リズ : 「! ダメです」

シラン : 「む」


リズ : 「上手くコンタクトを取れれば、あちらの動きもわかります。上手く使えばいいだけの話です」

シラン : 「そうか。じゃあ上手くやってくれ。うまくできなかったら殺す。いいな?」

リズ : 「ええ、勿論」

ソレル : 「(そこはあっさりなんだ……)」


リズ : 「シランさんは今後どう動かれる予定なのですか?」

シラン : 「正直今すぐにでも迷宮に入って後顧の憂いを絶っときたいのが本音だが、一週間くらいは見たところ平穏だった」

 「というわけで、一番遅くて三週間目の日曜あたりにおくすりを使う」


アル : 今すぐディナさんに連絡を取った方がいいのでは?

リズ : さっさとあっちに行って今の話の共有はしたいですね。


シラン : 「というか、契約者の人数が増えてるのは想定外だった。今の段階だと製造が足りてない」

ソレル : 「ごめんね」

シラン : 「一週間は製造にかかると思う。おくすりが使えるのは最速二週間目の日曜だ」

ソレル : 「わかった」

リズ : 「はい」

アル : 「は、はい……?」

シラン : 「ではおわり。私はじいちゃんをブラッシングして寝る。以上!」




GM : 言い終わると、シランは立ち上がります。説明は終わった感じ。なにかやりたいことがあればどうぞ。なければおやすみです。


リズ : 仮死状態の薬とやらを調べておきましょうか。

GM : 仮死状態のおくすりは、戸棚に入ってます。調べるとしたら……薬品学判定で目標値11か、見識判定で目標値14/21かな? 出る情報が変わります。

リズ : では判定を……(ころころ)、薬品学判定だけ成功です。

GM : 薬品といっていますが、どちらかと言えばマジックアイテムに近いことが分かります。


 その後全員で見識判定に挑むも、出目が振るわずに失敗となった。


ソレル : 「んー? 色とか、匂いとか……」

リズ : 「これは、薬ではないですね。魔法のアイテムに近い類のものです」

ソレル : 「詳しいんだ、リズ?」

リズ : 「レンジャーですからね。『薬ではない』ことだけはわかりますよ」

アル : 「流石リズさんです!」

リズ : 「正体は皆目見当つきません。それこそ、シエルさんにみていただきたいですね」


アル : 「帰ってくるんでしょうか……シエルさん……」(PTにいたことは教えてもらった)

ソレル : (来ないと思ってる)

リズ : 「ノスフェラトゥの眷属として覚醒してないといいのですけどね」

ソレル : 「その時はその時だなぁ……」

アル : 「心配です……」

リズ : 「というか彼、遅いですね。どうやって合流しましょうか」

ソレル : 「2週間後の日曜の深夜に庵にいくことになるんじゃないかな。ディナ次第ではあるんだけど」


 戦闘の傷は癒えたが、身体に残った疲労までは抜けきらない。

 次の方針を掴んだ3人は寝支度を整え、この日は鬼子の庵で就寝となった。

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