5-11:南天の実は難を捨つ


磔屍鬼は、最早動くこともないだろう。

その屍鬼には、血塗れの錫杖が突き刺さっていた。

その錫杖は身体を突き破り地面へ、深く深く突き刺さっている。

その有り様は皮肉にも、さながら墓標を思わせる。


GM : 周囲の屍を蹴り倒し、全員の方向を向いたディナが不意に動きを止めます。

ソレル : 「これって……」

アル : 「セルフィー……さん……ですよね……」

リズ : ダッシュして近づいて、ようやく自分が撃っていたものに目を向けて、絶句します。

シエル : 「……そんな……。……次会ったら謝ろうと思ってたのに……」

ソレル : あまりにも白々しい(一同笑)。


リズ : 「と……とにかく、楽にしてあげませんか?まずは、それを……痛ましすぎて、これは……」と、錫杖を指さします。

GM : 錫杖は、その半ばまでを地面に沈めています。これを突き刺した者は、尋常な膂力ではないでしょう。引き抜く場合は、[冒険者Lv+筋力判定/20]を行ってください。複数人で協力することも可能です。


リズ : 一人でも手をかけます。誰か手伝ってくれるならおねがいします。

GM : ナンディナは、黙ってその横で手をかけます。

シエル : 「……僕も手伝うよ」


無言のままに全員が錫杖に手をかけ、ゆっくりと引き抜かれていく。

大穴の空いた遺体を持ち上げてみるのなら、それが驚くほど軽いことに気が付くだろう元々が華奢な女性であったことを無視しても、人体とは思えない軽さであることがわかる。


リズ : 祈りの形に手を組んで、寝かせてあげます。「どうして……どうしてこんなことに……」

GM : 屍は静かに蹲っています。調べる場合は、[探索or見識判定/10]をどうぞ。


シエル : (ころころ)……成功。

GM : 遺体の衣服には夥しい量の血液が沁み込んでいますが、地面には殆ど血痕は見当たりません。遺体そのものに付着した血も、乾ききっているようです。


シエルはふと、遺体の指先が触れていた地面に血の痕があることに気づく。

―――否。それは、血液などではない。屍鬼の尋常ならざる膂力によって地面に固着した、指の肉片であるようだ。

その肉の痕は交易共通語のようで、「地下」「生存」「5人」と記されている。


シエル : 「……ねえここ見て。『地下』、『生存』、『5人』だってさ」

アル : 「地下……?」

ソレル : ……ところでナンディナどんな感じ? 大丈夫かな。

GM : はい。ナンディナはぼう、とセルフィの遺体を見下ろしていたのですが、瞳からぽたりと涙を落とし、呟きます。

ナンディナ : 「……生存。……貴殿の任務へのその姿勢に、深く感謝します――」


GM : そういってじっと何かを考えこんでいたようなのですが、シエルさんを振り向いて、「祈りをお願いできますか」と囁きます。

シエル : 「……分かりました」

ナンディナ : 「お手数をおかけしてすみません。ディナでは――神に言葉が届きませんので。どうかディナの分まで」

リズ : 「……届かないわけがないでしょう! 神が作った命じゃなくても、貴方の言葉が届かないというならば、いったいなんのために神はいるんですか!」


泣き叫ぶような声で叫ぶリズ。

しかし、顔を上げたナンディナの目は、冷めきっていた。


-CG-

https://drive.google.com/file/d/1QFD70dOhUBtNCssnQMKKaSIv9VdPSXXA/view?usp=sharing


ナンディナ : 「――そうでしょうか?」


「届いていたらなおさらなんだというのでしょうか」


「届いていたら、これはなんだというのでしょうか」


ナンディナは何かに導かれるように、セルフィの遺体に手を伸ばす。

大きく空いた洞に迷いなく差し込まれた手は、腐肉を掻き分けて「なにか」を掴み取る。


ナンディナ : 「――ソレル殿? ルフラン教の教義をもう一度いただけますか?」

ソレル : え……? 困惑しながらも、読み上げるけれど。


「魂に壁無し。今生の在処のみで、愛に線引くことなかれ」

「汝、愛望む者の手を取れ。手中に収むこと、躊躇うことなかれ」

「もう一度(ひとたび)を願う心に祝福を。過ぎ去りしを諦めることなかれ」


紡がれるのは、愛と融和を説く格言の数々。

その言葉は確かに、ある種の救いをもたらすものだ。


ナンディナ : 「…………いかなるものであれど、それが邪な道に外れぬ限り、信仰とは尊ぶべきものです。けれど……それを、汚すような振る舞いをなさる方がいらっしゃるようですね」


ふふ。ふふふふ。

可笑しなものをみたような笑い声で、少年は嗤う。

そうして彼は、セルフィの「中」から取り出したものを掲げる。

銀の渦に緑色の瞳を象った、ルフランの聖印だ。


ソレル : 「それって……」息が詰まります。言葉にならない。

ナンディナ : 「尊ぶべきものを汚すものは、排除して差し上げるべきでしょう。だって、そうでしょう? ルフラン神は、このような振舞いを許すものではない―――そうですよね?」

ソレル : 「それ、は……」

リズ : うん……。

アル : これは……。


シエル : 「……ナンディナ、頼む待ってくれ……。言い訳がましいかもしれないが、まだルフラン教徒がやったと決まったわけじゃあ……」

ソレル : 「シエル」

シエル : 「だってそうだろソレル!! こんなこと起こるはずが……」

ソレル : 「私だってわからないよ!!! ルフランは、だって―――」

リズ : 「でも、今目の前では、起きています。今は、それが全て、かと……」ちょっと呆然としています。

アル : 「今は……ナンディナさんが言ってることの方が正しい気がします。こんなの……あんまりです……」


セルフィの様子から、彼女が幾日も苦しみ続けたことは想像に難くない。明るく元気な彼女の気質を知る者が憤るのは、当然のことであった。

―――ルフラン神の巫士であるリコリスと、その周囲の者のことを知らぬ、アルとリズにとっては。


ソレル : 黙り込むしかない。だって、覚えてるのは……。

シエル : 「頼む……頼むよ……。もう、彼が傷つくところは……」


GM : 二人の様子に、ナンディナは何処か獰猛な笑みを浮かべます。そして、優しい声音で語り掛けます。

ナンディナ : 「ご安心ください。何を心配なさっているのかは知りませんが―――我々が裁くべきものは”悪しき者”です。善き貴方がたに、なんの悪しきことがございましょうか」


-CG-

https://drive.google.com/file/d/1lTVUHzl3JNGibqHAvEary3eLnALV7DSR/view?usp=sharing


そうして彼は慣れた手つきで両手に輪をつくり、胸の前でそれを三度掛け合わせる。

掛け合わされる輪は調和と、巡る太陽を模すという。彼ら騎士団の祈りの作法だ。

ナンディナは昇る太陽に、隣人たる冒険者たちにその祝詞を奉る。





「――皆様に、調和と日輪の加護がありますよう」




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