4-10:帰還

不意に、空気が緩んだのを感じる。

肌を刺すような冷気は消え、冒険者の頬を生暖かい風が撫でる。


GM : 貴方がたは今、彼岸花の花畑の真ん中に佇んでいます。真っ赤に広がる花の絨毯の中、目の前に、小さな石碑があります。それ以外には、ここには何もありません。……見渡せば、そこは地下通路の出入り口近く。それには変わらず、魔法陣が静かに佇んでいます。


シエル : 「僕たち、帰ってこれたんだ……僕たち"だけ"が……」

アル : 「そう……みたいですね……」

リズ : 「ご主人様!ソレル!無事ですか!?」と応急手当をはじめる。

アル : 「な、なんとか……。なんであれで生きてたのか……」

ソレル : 「ハンサ、ごめんね、ありがとね」撫で。

GM : ……さて、君たちがそれぞれ思い思いの行動をとっているところ。「ひっ」と小さな悲鳴が背後から上がります。


カルミア : 「…………な、んで……」

ソレル : 「あ。おっきくなったね……」溢れる母性。

カルミア : 「ソレルちゃん、リズちゃん、どうし……」

リズ : 「大人カルミアさんだ! え、え、でも、その呼び方・・・?」

GM : 皆さんが口々に言い合う言葉に混乱したように頭を抱えるようにして、カルミアはどこか怯えたように後ずさります。

カルミア : 「ああ、やっぱり責めに来たんだわ。責めにきたのでしょう。どうして、生きてるの……!!」

GM : そういって、彼女はぱっと踵を返し森の中を駆け去ります。

ソレル : 「ちょっと!」追いかけるよ!


GM : カルミアは一般人、君たちは冒険者。もちろん君たちの方が足が速い、すぐに追いつくでしょう。そして、物陰から影がもう一つ。


とらねこ : 「みゃあ」

リズ : 「ああああああ! ねーこー!!」

アル : ネコチャン!

とらねこ : 「みゃーうぅ……クルル…………」

シエル : 「ねこ、ずいぶん久しぶりに見た気がする」

ソレル : 「ブジダッタンダヨカッタネー」あやしている

とらねこ : 「みっ……みっ……」(あやされながら困ったみたいな鳴き声)

アル : 「久しぶりだね~」よしよし

とらねこ : 「……」


GM : さて、皆さんがとらねこを見つけたのは地下通路の出入り口です。今や、その入り口は板が打ち付けられ、完全封鎖されています。カルミアはその前にしゃがみ込み、震えています。

カルミア : 「どうして……どうやって、あの状況で生きていたんですか……? なんで、なんで気づかなかったの……。皆さん、あの時のあの人たちに、こんなにそっくりなのに、どうして」

アル : 「えっと……」かけるべき言葉に困ってる

ソレル : 「まぁ、そうなるよね……」無理もないよね。

リズ : 「シエル、サニティしますか?」

シエル : 「はい」

GM : ……ではまあ、落ち着きはするかな。ただ落ち着いた代わりに、どこか皆さんに対して複雑そうな顔、というか、すごい目で見てきています。


カルミア : 「……生きてたんですね」

シエル : 「そう、僕たちだけ逃げのびたんだ」

カルミア : 「そう。師匠……リコリスさんは死んであなた方は生きてる。……今まで、何していたんですか。どうしていたんですか? どこに逃げていたんですか?」

アル : 「……」


シエル : これ、話してしまいますかね?

ソレル : いいと思うけど……。

リズ : 全部話しちゃっていいんじゃないかなと。

シエル : 「僕たちにも複雑な理由があってね。僕たちは実はタイムリープしていて、過去から逃げてきたんじゃなくて、正しくは現代に帰ってきたんだ、って言ったら信じてくれる?」

カルミア : 「……どういう、ことですか……?」と言いつつも聞くそぶりは見せます。全部話す?


ここは、満場一致で話すことを決めた一同。ソレルが魔剣ポシビリタスを示しつつ、すべての事情を話すことに。


GM : では、カルミアは君たちから事情を聴き……時間はかかりましたが理解はしたようです。

「そんな……じゃあ……」

と一人でぶつぶつと、何かを考え込み始めました。

……そういえば、ポシビリタスの紋様についての判定まだ成功してませんでしたね。ここでどうぞ。

シエル : (ころころ)……うん、指輪を割って成功。


シエルは、カルミアに事情を話しつつポシビリタスの刀身に視線を向ける。刻み込まれた流線型の紋様は、よくよく見れば魔法文明語の崩し文字であることがわかる。

そうして刀身にびっしり刻まれているのは……名前だ。端から端まで刻まれた名前の中心には、「ルフラン」の名が刻まれている。


シエル : その終わりの方に、ソレルとシエルの名は刻まれてるかな?


GM : はい、まさに刻まれています。そうして見てみると、二つのことに気がつきます。一つは、刀身に残る名前枠はあと四枠であること。そして、ソレルの前には「シラン」という名前があることです。

その事に気づいた辺りで、カルミアから声を掛けてきます。


カルミア : 「じゃあ、皆さんは、過去に戻って、全部やり直せるってことですか……?」

ソレル : 「多分、そういうこと」

カルミア : 「だったら……私にも、魔剣の契約をさせてください。やり直させてください! 全部! 今すぐに……!」

リズ : 「落ち着いてください」

ソレル : 「やり直したいカルミアちゃんの気持ちも分かるけれど、あの白フードたち、すっごく強かった。繰り返せる回数が限られてるなら、勝算がある状態でチャレンジしたほうが確実じゃない?」

カルミア : 「……っ、随分悠長なのね。これが落ち着いてなんていられる!? リコリスさんが殺されて、貴方たちが消えて……そのときの私の気持ちなんて、分かる筈ないんだわ!」

アル : 「うぅ……」

シエル : 「……ふざけんなよ、今すぐにでも戻りたいに決まってるだろうが!!!」

カルミア : 「な、なら……!」

シエル : 「でもソレルが言ってたように、今の僕たちじゃまるで歯が立たなかった。それに僕たちは、あの日襲撃された理由もまるで分かってない。そこだけでも調べておかないと、また同じことを繰り返すだけになる……」


アル : 今カルミアさんを契約者にすると、多分すぐにループしちゃいますよね……。

ソレル : 契約者にしたが最後、壊れたラジカセみたいに再生し続けちゃうよ。

リズ : 強制ノンストップループの開始ですね。リコリスたちを契約者にするかもしれないからーみたいな感じで、契約を阻止する方向で話しましょうか?


カルミア : 「……じゃあ、15年経った今になって、いったい何を悠長に調べるっていうんです? このままだと、もう一度同じになります。あなたたちは知らないかもしれないけれど、私は……!」

ソレル : 「じゃあ、教えてよ。まず、カルミアちゃんが知ってることからさ」

カルミア : 「…………話したら、もう一度戻ってくださいますか?」

ソレル : 「戻るよ。だから、カルミアちゃんに私たちの道標になってほしい。私たちがいつに戻って、何をしたらいいのか、何でもいいから手がかりがほしいの」


シエル : ありがとうソレル、説得が上手だ。何処かの感情的になって叫んでるやつとは大違いだなぁ。

リズ : シエルさんも、熱くて素敵でしたよ。


GM : では、カルミアは空に手を翳しながら、ぽつぽつと語り出します。語るのは、君たちが現代に戻った後の、夜のこと。

カルミア : 「……あの出来事が起こった夜。私は流星が描く魔法陣を見ました。まさにこんな風な、流星が雨のように落ちる、きれいな空」

シエル : 「それで……そこからどうなったんだい?」

カルミア : 「……最初の方のことは、知らないんです。ずっと建物の中で、両親に問い詰められていたから……」


カルミアは頭を抑えながら、過去を反芻する。

突然聞こえてきたのは、誰かの悲鳴と怒号。奇怪な形の怪物が部屋の中に雪崩れ込んでくる光景。

そうして、誰かの嘆くような声が聞こえた。

「魔方陣が完成したんだ。何者かの、待ちわびた時が来てしまった」と。


カルミア : 「……それ以降は、逃げ惑っていて、ほとんど……」

GM : と、一旦そこでカルミアは黙り込みます。頭が痛そう。

アル : 「待ってください、それじゃあ空がこんな風になってる今は……」

シエル : 「また化け物たちが襲ってきてもおかしくないってことなんだね」

カルミア : 「……早く、戻らなきゃ……」

GM : これ以降、カルミアはうわごとのようにそう繰り返し続けます。

……さて、どうします?

リズ : 周囲に差し迫った脅威はもう来ていますか?変な音とか違和感とか。

GM : 今のところは見当たりません。強いて言えば、魔法陣がどんどん完成していってるように見えますが……貴方がたは魔法陣の完成図を知らないのでなんとも言えません。


ここで、暫し悩むPLたち。調べものをしたいが、悠長にしていては魔方陣の完成が近づく。ならばループすべきだが、ループしても具体的な打開策は未だ不明だ。


ソレル : 「とりあえず、次のループをしないといけないのは賛成。思ってたより今のルフラン島も危険みたいだし」

シエル : 「僕も、もちろんループするよ」

アル : 「……えっと。その前に、一度屋敷に戻ってみたいんです。僕たちのあの一ヶ月で、本当に何か変わったのか確かめたくて」

ソレル : 「……まあ、いいんじゃない? アルとリズは契約しないなら記憶も消えちゃうみたいだし、大事な話を聞く時間も必要だしね」

アル : 「契約……」



GM : では20分ほど森を進むと、屋敷の前に着きます。以前と違う点と言えば、燃焼範囲が広くなっています。前回は厨房周辺だけでしたが、屋敷の右半分はほぼ全焼しています。

アル : 0回目では消火活動したんですね……。

GM : 襲撃よりも火事の方にまず気づいたんでしょうね。

ソレル : リズがいないから、襲撃を知らせる人がいなかったんだ。馬小屋も燃えてるね。


GM : さてエントランスロビーですが、変わらずサリュの遺体が横たわっています。ただ、前回と違うところが二つ。まず一つ、首に刺さっていた鍵の跡がありません。……そして、前回鍵を抜いた人は、いつの間にか鍵が無くなっていることに気づきます。

シエル : そっか、可能性固定で最初に頂いたカギがなかったことになったのか。

GM : そういうことです。……もう一つ、サリュの左手首に、風化してボロボロになった紐状のなにかが巻きついています。

アル : ううっ……。組紐……。

GM : 見開かれたサリュの瞳が、じいっとアルさんの方を見上げているようにも思えますね。……目、閉じてあげます?

アル : はい。……サリュさん、お疲れ様でした。

GM : では貴方の手で彼はそっと目を閉じ、安らかな表情になることでしょう。


-安らかな眠りを-

https://drive.google.com/file/d/14jfORPWtWn5MthafjbNZygtgIyJEzZqy/view?usp=sharing


GM : さて、他に確認したいことはありますか?

ソレル : これ地下への入り口ってどうなってるかな?

GM : その周辺は燃えていますが、地下通路への階段があった場所だけ妙に厳重に封鎖されていますね。

シエル : 「……どうする? 扉破壊して地下調べる?」

リズ : 「どうせ地下を見るのであれば、剥がして中に入ってしまっても良いかと思いますが」

ソレル : 「大丈夫かな……大丈夫だよね……」

アル : 「ちょっとこわいです……」

リズ : では丁寧に剥がします。なにかあったら、板をもう一回打ち付けられるように。

GM : では、判定を……成功ですね。


冒険者たちが打ち付けられた木板を外すと同時、生臭い香りが辺り一帯に広がった すると……。




「もういいのか?」


孔の底から、魔神語の酷くしわがれた声が響いた。

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